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人のヒミツをのぞき見できる!?「手帳類図書室」で見つけた人生のヒント

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「お母様の一周忌に、遺品である手帳を持ち込まれた60代の男性の方がいました。その方は独身で子どもがいなかったため、もし自分の身に何かあったときに母の生きた痕跡が処分されてしまうのではないかという思いから、手帳を預けてくれました。遺品整理に限らず、自分の生きた形跡をどこか別の場所に保管しておきたいという方は一定数います。ほかには、性産業に携わっていた女性が結婚を機に手帳を寄贈してくれたこともありましたね。そのように、自身で書いた過去の思考の集積を身近に置いておくのは少し重い。でも、捨ててしまうのはなんだかやるせないという思いからお譲りしてくれる方もいます。『手帳類図書室』では、要望があれば返却するという契約を交わして手帳をお預かりしています。そのため、『いったんここに置いておくか』という感覚で持ち込む方も多いように感じます」

さまざまな思惑で集まってくる手帳たち。読み手である来場者はどのような感想を持つのでしょう。

「来場者にはちょっとしたエンターテインメント性を求めて、来場者同士で和気あいあいと読む方もいれば、自分にとっての何らかのヒントを得るために黙々と読破する方もいます。遠方に住んでいる医師の方が、患者と同じ病を患っている方の手記を読みに来館されたこともありました。実際に患者がどのようなことを考えているのか、手帳から何か知ることができればと思ったと話していました。患者の手記は医学的な知識があるからこそ読み解けますが、英語やカタカナの薬名ばかりで一般人には読み進めることが難しいものでした。このように、業界の差異によってもまた違った没入体験があるのかな、と思います。同じ手帳であっても、読み手側の知識や感性の違いによって、異なる手帳の持ち主の人物像が導き出されるのが面白いところですね」

2014年にコレクターである志良堂さんがSNSで募集し、初めて買い取ったという記念すべき手帳。持ち主の方は当時大学生の男性。ほどよい脱力感にクスッと笑える人気の1冊

落とし物の財布を拾った時の心の葛藤がリアルにつづられています。内容にホッとする一方、持ち主の思考に触れることで、日々の自分の行動について考えさせられます

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手帳が志良堂さんに渡る時に書かれたページ。最後の一行には、「行ってらっしゃい。」の一言

筆跡、レシート、余白から……手帳にかき立てられる読み手の想像力

読み手によって、それぞれの手帳に対する見方が異なるのも面白いところ。手帳に残された思想のメモはもちろん、無造作に貼られたレシートや旅券、切手などからも想像が膨らみます。

「この場所でしか読むことができないという希少性はもちろん、手書きならではの筆跡や筆圧の違い、走り書きされた謎めいた一言や適当な落書きまで、さまざまな要素が集まってできているのが手帳類の良さだと思います。以前、コレクターの志良堂さんが『余白部分が読めることも面白い』と話していたのが印象的でした。空白のページが続いた後に、唐突にまた書き始められている手帳を見ると、『この期間に筆者はなぜ書かなかったのだろう』と想像することもまた一興とお聞きして、手帳から生まれる想像は無限なんだと感じました」

現代では、SNSで自由気ままに自分の考えや思いを発信することができるため、他者の考えを参考にすることは容易です。しかし、第三者が見ることを前提に投稿されるSNSでは得られない体験が手帳にはあるといいます。

「誰かが読むことを前提としていない言葉が、手帳には書きつづられています。より一層書き手の本質的な部分やドキュメント性が現れるものですし、だからこそ読み手の心に刺さる言葉もあると考えます」

帰国子女であるマルチリンガルの女性の手帳。2012年から16年までの手帳がすべて寄贈されています。几帳面に管理されたスケジュールやToDoリストはもちろん、手書きで作成されている月毎のカレンダーにも脱帽

なんと4年にわたって書きためられた7冊もの手帳を提供する方も。手帳の持ち主は美大生の女性で、ページの端々にはイラストが。友人が描いたという落書きを探すのも楽しみのひとつ

学園祭のアイデアメモでしょうか。当時の持ち主の息遣いをリアルに感じます

まるで映画を見るように、顔も知らない誰かの人生を追体験

「私自身、所蔵している手帳をまだ全て読むことはできていません。それほど1冊ごとに濃く、筆者それぞれの人生が詰まっているものなのです。自分のペースで見ることができる映画のように、皆さんも誰かの人生をのぞきに来てみてはいかがでしょうか」

肩肘を張らない走り書きにホッとひと息ついたり、鋭いメモにはっとしたり……手帳という丸裸な他人の思考を読むことで、世の中にはさまざまな人間が存在し、考え方も生き方も人それぞれで良いのだと思わされます。

そんな手帳を通して、自分とは異なる価値観を持つ他人の人生を追体験しながら、多様な考え方を吸収することができるはず。その体験は、あなたの人生をより一層豊かにするヒントをくれるのではないでしょうか。

取材先紹介

手帳類図書室

東京都渋谷区代々木4-54-7 アートギャラリー「ピカレスク」内
営業時間: 11:00〜16:00(水~金)、13:00~18:00(土日)
利用料金:1時間1000円

HP:https://techorui.jp/
アートギャラリー 「ピカレスク」
HP:https://picaresquejpn.com/
取材・文仙波絢香(株式会社 都恋堂) 写真西川節子 企画編集株式会社 都恋堂
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