「みそら屋」で料理人が余裕のあるときにしか作れなかった「味噌プリン」。幻の人気メニューが待望の商品化
普段何気なく食べているみそ汁が、印象深い対象に変わる体験
それでは、実際にどんな付加価値が体験できるのでしょうか。「あさくさ 味噌らぼ」の店内には、みそソムリエが各地からセレクトして集めた特徴のあるみそが常時約30種、ずらりと並びます。

同店の売りは少量からの量り売り。ディッシャーひとすくい70グラム(みそ汁約3杯分)からの販売で、使い勝手の良いサイズで購入できるのが幅広い客層に好評とのこと。これなら、気になるみそを少しずつ買って、毎朝異なる地方のみそを楽しめそうです。

物色していると、店員さんが「甘めとしょっぱめ、どちらがお好みですか?」と声をかけてくれました。しょっぱめでお願いすると、まずは長野県の「美麻天然二年味噌」をようじの先にちょんと付けて手渡し。ほど良い塩味とコクがあり、まさに好みの味わい!ほかのみそもいろいろ味見させていただくと、筆者の好みとは逆のはずの甘めのみそまで気になり始めました。

関西では主にお雑煮に用いられる兵庫県の「六甲白味噌」は、甘味が強く、米麹によるまろやかで上品な味わいが特徴
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「『六甲白味噌』はクリームシチューやグラタンのほか、濃いめのみそと合わせてお肉に漬けたり、マヨネーズとポン酢を数滴合わせて野菜ディップにしたりするのもおすすめです。普段のおみそ汁も味噌を2種類合わせるだけで、味が変わってびっくりしますよ。また、料理で甘味を足したいときには、実は砂糖の代わりに甘みそで調整すると、甘味とコクの両方を足せるので使いやすいんです」

みそソムリエを目指しているというスタッフ。自宅には5〜7種類のみそを常備し、使い分けているそう。さすが、話を聞いていて説得力があります
これまでみそ汁も炒め物も信州の白みそ一択だった筆者にとって、店員さんとの会話はまさに目からうろこが落ちる新鮮な体験。料理によって使い分けたり、異なるみそを2〜3種合わせて使ってみたり、自分の台所人生にありそうでなかったみその使い方について、さり気なく気づかせてくれました。
同じような体験を通して購入したお客さまからは、「普段のみそ汁がおいしくなった」「好みのみそと出合えた」「このみそを使ったら子どもが野菜を食べてくれた」といった喜びの声が届くこともあります。また、同店にはイートインスペースが併設され、ランチでは日替わりの合わせみそを使った具だくさんの「鶏団子汁」や「肉じゃが」「味噌おにぎり」「味噌バーガー」なども味わえます。「みそ汁ってこんなにおいしいんだ」「このみそ汁のみそがほしい」と、その場で購入する方も増えたそうです。
また、店舗では各地方のみそや加工食品をセレクトしたり、オリジナルの商品開発をしたり、さまざまなみその商品を提案していますが、中でもお客さまに喜ばれているのが「出逢わせ味噌」です。
「これは『みそら屋』での話で、ご両家の顔合わせの宴会のご相談をいただくことが多いんです。そのような場をご用意した際はご両家の合わせみそのおみそ汁を最初にお出しします。生まれた地域で飲んでいたみそ汁はそれぞれ異なりますが、それを合わせた世界で一つだけのみそ汁なんです。そうお伝えしてお出しすると、とても喜ばれますね」

「このサービスを『あさくさ 味噌らぼ』の店舗やECサイトでも提案しています。母の日や父の日、結婚記念日などに、世界に一つしかない『出逢わせ味噌』、出身地の日本酒・みそ・郷土料理をセットで提案するのは、料理のプロ集団であり、みそソムリエでもある我々にしか提供できない付加価値だと思っています。ギフトにみそというのは、なかなかセレクトされにくいカテゴリーですが、逆にそれがおしゃれと思える時代をつくっていきたいですね」
飲食店や小売店での体験がECサイト訪問につながる
「届けたい」という思いから乗り出した店舗とEC事業ですが、飲食店に加えて小売店とECサイトの同時運営には、どんなメリットがあるのでしょうか。
「『みそら屋』のメニューの中でも、『鯖の味噌煮』はファンがとても多いのですが、ECサイトがスタートすると一度に何十個も注文が入ったり、地方に転勤された常連さんからもご購入いただいたりするようになりました。『鯖の味噌煮』や『味噌プリン』など賞味期限があるものは、消費できる飲食店という受け皿があるため、ロスを考える必要がないのも強みですね。ただ、始めてまだ数カ月なので、何よりもまずECサイトの存在を知ってもらわなければなりません。SNSの活用やポップアップの出店、SEO対策にも力を入れています」
ただし、注力したいのは、あくまでも「あさくさ 味噌らぼ」での体験や「みそら屋」のファンを地道に増やしていくこと。
「『みそら屋』は年間5〜6万人のお客さまがいらっしゃいますが、その中の100人に1人でも、ECサイトでお歳暮を注文しようと思っていただけるだけですごく効果がありますよね。口コミや評価点数が上がれば安心感にもつながります。実店舗でファンを増やして、ECサイトにつなげていく形を模索できたらいいなと考えています」
岩本さんは相互作用でメリットがある飲食・小売・ECサイトの販売チャネルでトライアングルを構築し、EC事業の成長につなげるためにも、母体である飲食や小売の位置付けを何より大事に考えていました。一方で、デメリットはあるのでしょうか。
「『あさくさ 味噌らぼ』を立ち上げる際、正直なところ、ECサイトだけで商売できれば家賃や人件費などコストをかけずに運営できるとも考えました。しかし、長期的に見れば、実店舗があったほうがやっぱり良かったと思える日が絶対に来ると確信しています。私の肌感覚ですが、メリットしかないと思っています」
運用面においても、「あさくさ 味噌らぼ」の実用性は大きいといいます。
「セントラルキッチンという拠点があれば、実は『みそら屋』はどこにでも出店可能なんです。セントラルキッチンで大量に仕込み、各店舗へ配送する形が取れれば、小さな店舗でもスムーズに提供できます。『みそら屋』を知っていただくためにも、もっといろいろな場所へ多店舗展開する可能性も広がりました」
コロナ禍を機にEC事業をスタートしただけでなく、今後をしっかり見据えて事業展開をする「あさくさ 味噌らぼ」。岩本さんと同じように、みそを愛してやまない“みそらー”も増えていきそうな予感です。
取材先紹介
「家でも職場でもなく落ち着ける居場所を創る」を企業理念に掲げ、首都圏を中心に4店舗展開。主な運営施設は、みそ日本酒おばんざい「錦糸町藏みそら屋」、みそ日本酒おでん「浅草縁みそら屋」、みそ日本酒炭焼き「錦糸町みそら屋はなれ」、みそ日本酒コース「錦糸町個室みそら屋」。
敬食ライター。B級グルメから星付き店まで都内レストランを中心に取材・執筆。料理人をはじめ生産者、料理研究家、ブルワー、マルシェ出店者へのインタビューなど食・農のフィールドで活動中。
写真田淵日香里 企画編集株式会社 都恋堂