韓国代表永久追放…チャン・ヒョンスが流した涙の理由。FC東京で誓う「愛」への恩返し
韓国代表永久追放…チャン・ヒョンスが流した涙の理由。FC東京で誓う「愛」への恩返し
チャン・ヒョンス、韓国代表から追放に FC東京は3日、J1第31節で横浜F・マリノスに1-0の勝利を収めた。その試合に特別な思いで臨んでいた選手がいた。出場停止明けだったFC東京のDFチャン・ヒョンス…

チャン・ヒョンス、韓国代表から追放に

 FC東京は3日、J1第31節で横浜F・マリノスに1-0の勝利を収めた。その試合に特別な思いで臨んでいた選手がいた。出場停止明けだったFC東京のDFチャン・ヒョンスは、キャプテンマークを巻いて先発出場。自らの過ちで失ったものの大きさを噛み締めながら、決勝ゴールで覚悟を示した。(取材・文:舩木渉)

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 韓国代表からの永久追放。それはあまりにも衝撃的なニュースだった。FC東京に所属するDFチャン・ヒョンスは、自らの過ちによって今後一切韓国代表選手としてプレーすることができない。

 原因はチャン・ヒョンスが関係当局に提出した書類にあった。同選手は2014年に韓国代表として参加したアジア競技大会で金メダルを獲得し、韓国の18歳から28歳の男性に義務づけられた兵役の免除という特例措置を受けている。

 その代わりに兵役免除を受けたスポーツ選手などは、青少年などを対象に544時間の社会奉仕活動を行わなければならない。今回、チャン・ヒョンスが提出した196時間分の社会奉仕活動に関する報告書に虚偽の申告があった。

 昨年12月から約2ヶ月間にわたり母校の学生を対象にサッカーを指導したという内容の報告書の中に証拠として添付された写真が、実は別の日のものだったこと。さらに実際の活動時間が申告していたものを下回っていたことが明らかになったのである。

 問題となったのは2017年12月18日のものとして提出された写真。韓国『SBS』などが報じたところによれば、その写真では晴天の中でチャン・ヒョンスが学生に囲まれている様子が写されていたが、実際の同じ日は大雪が降り、グラウンドは積雪で真っ白になっていたという。

 この疑惑が明るみに出ると、チャン・ヒョンスはすぐに11月の韓国代表招集を辞退すると大韓サッカー協会(KFA)に申し出た。そして、事態を重く見た同協会は懲戒委員会を開き、今月1日にチャン・ヒョンスの代表資格永久停止処分と3000万ウォン(約300万円)という厳罰処分を下した。

 韓国代表からの事実上の永久追放は、考えられうる中で最も厳しい処分。チャン・ヒョンスはA代表通算58試合に出場し、副キャプテンを任されるほど人望が厚く、欧州組不在だった昨年12月のEAFF E-1サッカー選手権では腕章を巻いて優勝に貢献した。今夏のロシアワールドカップでもグループリーグ全3試合に先発出場した韓国代表の守備の要である。

 とはいえ韓国において「兵役逃れ」のような振る舞いは、誰であっても苛烈な批判の対象となる。全員に同じように課される義務から逃げ出そうとしていることになるからだ。例えば金メダルを獲得すれば兵役免除の特例を受けられる今年のアジア競技大会に参戦していたソン・フンミンも、大会中にありとあらゆる方法で兵役免除について問われようが、一度も「兵役」という言葉を口にせず、ただ「勝つことが重要。優勝したい」と繰り返すのみだった。

長谷川監督からの信頼は揺るがず

 こうして重い処分を受けたチャン・ヒョンスは、KFAの公式サイト上に謝罪文を掲載。「僕は2014年のアジア大会で、国民の皆さんの情熱的な応援とたくさんの愛のおかげで、幸いなことに良い結果を得て、兵役における特例を受けることができました。しかし、サッカー選手として集中して努力するように、国民の皆さんが自分にくださった貴重な機会と、技術を活用した社会奉仕活動に専念すべきであるにもかかわらず、これを適切に履行していませんでした。本当に申し訳ない気持ちだけです」などと、長文のメッセージで自らの過ちを詫びていた。

 この謝罪文の中で、チャン・ヒョンスは「申し訳ない」という言葉を、似た表現も含めて5回も用いていた。それだけで、今回の事態の重さは容易に想像できる。

 今月1日に韓国代表から永久追放を受けた。そこから気持ちを整理し、次の一歩を踏み出すには相当な勇気が必要だっただろう。前向きに自分の気持ちをコントロールできなければ、その影響がピッチ上のパフォーマンスに出てしまってもおかしくない。

 だが、FC東京の長谷川健太監督は、キャプテンを任せているチャン・ヒョンスへの揺るぎない信頼を自らの采配で示した。3日に行われたJ1第31節の横浜F・マリノス戦で普段通りキャプテンマークを託し、先発起用したのである。

「今日は期する思いがあったと思いますし、とはいっても今はサッカーに集中することしか彼にはできないと思います。チームからの厳重注意という通達があって、韓国の協会からの発表があって、難しい状態だったと思いますけど、『サッカーを頑張ります』ということで、今日の試合に向けて話を少ししましたので、そういう意味では今季のキャプテンですし、信頼して彼をピッチに送り出しました」

 長谷川監督は横浜FM戦後の記者会見でチャン・ヒョンスへの信頼を強調していた。FC東京からも今回の一件で厳重注意が言い渡されてはいた。それでもピッチ上で自らの責任を果たすと誓ったキャプテンは、指揮官からの信頼に見事なパフォーマンスで応えて見せた。

 15分、コーナーキックの場面で横浜FMのDFチアゴ・マルチンスのマークを振り切ったチャン・ヒョンスは、長めのヘディングシュートをゴール左隅に突き刺した。大きく喜びを表現することなく速やかに自分のポジションへ戻っていったが、この試合にかける思いが込もった一発は決勝点となってFC東京の勝ち点3につながった。

「サッカーへの愛を忘れずに」

 試合後、ヒーローインタビューを終えたチャン・ヒョンスは1人でアウェイ側に陣取るFC東京サポーターの前に出て、3回、4回と何度も深く頭を下げた。ロッカールームへ引き上げていく際には、涙を拭う様子も見せた。熱い気持ちが込み上げてきていた。

「チームが勝ったことが全て」と語る青赤のキャプテンだったが、やはり「サポーターの方々に自分のプレーで恩返しをしていきたいと思って今日の試合に入りました」と、特別な思いを胸に横浜FM戦に臨んでいた。

「一生懸命、練習して、試合に臨むということがサッカー選手として一番のこと。自分としてもやはりサッカーを愛していますし、サッカーが好きでやっているので、そういう気持ちを忘れずにもっともっと精進していきたいと思います」

 騒動が明るみに出てから、初めてメディアの前で自らの思いを語ったチャン・ヒョンスの表情は、決して明るいとは言えないものだった。しかし、韓国代表からの永久追放など思い処分を受け、自らを見つめ直す時間もあったのだろう。自分の過ちは自分のプレーで取り返していく、その覚悟が言葉の端々から滲み出ていた。

 複雑な思いを抱えながらプレーしたキャプテンの獅子奮迅の活躍に、FC東京サポーターは声援で応えた。何度もチャン・ヒョンスの名前をコールし、スタンドには彼の名前や背番号をモチーフにしたフラッグが数多く掲げられる。背番号48は右腕を空に突き上げながら、その温かさを心で感じて涙を流したのかもしれない。

「サポーターの方々が何度も自分の名前を呼んでくださったことに対し、本当に感謝の気持ちが大きかったですし、そのサポーターたちのために自分は恩を返していかなければいけないなと思っています。これからも自分がFC東京のために、愛されるサッカー選手としてもやっていかなきゃいけないなと思います」

 チャン・ヒョンスの社会奉仕活動水増し報告問題を受けて、韓国国内では兵役免除を受けている他のアスリートにも再調査の動きが広がり始めているという。ゆくゆくは兵役免除という特例そのもののあり方を見直す動きが出てくるかもしれない。

 韓国社会全体に大きなインパクトを与えることになった今回の一件を経て、代表選手として兵役免除を受けることの責任の大きさを再確認し、重みを身にしみて感じているだろう。それでも変わらぬ愛と信頼を表現してくれたFC東京のサポーターや、監督、チームメイトたちのために、チャン・ヒョンスは戦い続ける。

(取材・文:舩木渉)

(更新日:2018年11月8日)

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