京極夏彦責任監修『水木しげる漫画大全集』完結!スペシャルトーク
京極夏彦責任監修『水木しげる漫画大全集』完結!スペシャルトーク
故・水木しげる氏の代表作である『ゲゲゲの鬼太郎』や『悪魔くん』はもちろん、貴重な貸本漫画作品、倉庫の奥から発掘され、これまで単行本や文庫にも未収録だった隠れた名作まで収録された「水木しげる漫画大全集」。繊細なデジタル処理による美しい印刷も話題となっているこの全集は、水木氏を師と仰ぐ京極夏彦氏の責任監修によって実現した。制作開始から約6年かけての完結。苦難の連続だったその軌跡を、編集委員の村上健司氏、デザイナーの坂野公一氏と語り合った。

目指したのは、“元通り”の原稿の美しさ

坂野 京極さんには前々から水木先生の全集を監修してほしいというお話が、いろいろきていたんですよね。

京極 でも、「できないですね」って、ずっと言ってたんです。半世紀以上もの間、第一線で活躍してきた水木先生の作品は、その全貌が把握しきれないほど多岐にわたります。そのうえ原稿がないものも多く、長い間に改変されたり、再利用されたりしていましたから。

村上 実際、これだけの期間かかっちゃいましたしね。

京極 足かけ6年。僕ら編集委員は、みんな水木先生がすごく好きだし、いい読者だと思うんですよ。でも、読者の視点だからこそ、「何とかしなきゃ」と思ったんですよ……思わなきゃよかったね。

村上 いやいや(笑)。そう思ったからこそ、これだけいいものができたんじゃないですか。

坂野 京極さんは水木先生の作品を掲載するにあたって、原稿が傷んでいたりしても、できるだけ「元通りにする」という方針で進めてきたんですよね。

京極 原稿以上にきれいにはできないけれど、描いたときの状態、元通りにはしたい。要するに「デジタルニュープリント」ですよ。そうじゃなきゃ、今の読者にはダメだろうと。昔の映画だって、VHSをそのままデジタル化したようなのがあるけど、ひどいじゃないですか。だからネガまで戻してニュープリントして、なおかつデジタル修正して、4Kバージョンを作るわけでしょう。今、付加価値はそっちにありますから。

村上 そうですね。「水木しげる漫画大全集」も、貸本漫画作品の色の再現などはすごかったですよね。

京極 貸本は昭和30〜40年代のものだから、原稿はほとんどなくなっているし、本も古くてボロボロです。何人もの子どもたちが飴をなめたり鼻をたらしたり、醬油をこぼしたりしながら読んだものだから。

村上 復刻本も、そのボロボロの状態で印刷してるから、カラーもそんなものかと思ってしまいますよね。

京極 きれいな本を探し出しても高価だし、当時の印刷はそもそもが汚い。平気で版ズレしていたり。

坂野 1㎝くらいずれたりしていましたね。

京極 普通はコンマ何ミリのずれでも「版ズレ注意」なんて赤字を入れたりするものだけど、1㎝もずれたらもうね、アンディ・ウォーホルの世界ですよ(笑)。でも今回は、「貸本を復刻する」じゃなくて、「水木先生の原稿を今、印刷する」っていう考え方でしょう。

村上 そうですね。復刻本ではなく全集ですからね。

京極 しかも、発見した原稿を見るときれいなんですよ。そうすると、汚い版本とのギャップがすごい。普通、それを汚いほうに合わせますか?

坂野 それは、本来の形にするべきですよね。

京極 じゃあきれいな原稿に合わせるには、どうしたらいいんだろうと。この版ズレを直すには……。

村上 拡大、拡大の作業が始まったわけですね。

京極 一般的な印刷は400dpiくらい解像度があれば十分なところを、すべて1200dpiで本をスキャンして、網点の1個1個を認識できるくらいに拡大して修正作業をしました。赤青黄黒で刷る4色印刷の、まずは赤版を作るところから始めて……。

村上 リバースエンジニアリングですね(笑)。

坂野 漫画は一枚絵と違って、一コマごとにシーンが変わるから、本当に手間がかかっていましたよね。

村上 しかも、水木先生のペンは本当に緻密だからね。

京極 『サラリーマン死神』に「蒸発」って作品があるんだけど、その扉絵なんか信じがたいほどに細かい絵なんですよ。でも、原稿がない。印刷物からとるしかない。ところが過去出版された印刷物は、全部トリミングが違うんです。それを5つくらい継いでみるんだけど、暗号の地図を並べたみたいに少しずつ欠けてるんですね。その足りない部分を復元しなくちゃいけない。これ、監修の仕事じゃないですよ(笑)。

村上 最初は全貌も把握しきれませんでしたからね。

京極 足がかりもなくてね。最終的に、1/5くらいは新発掘じゃないかな。全体的に、1〜2ぺージ抜けていたのもあるから。つまり、20冊分くらいは今まで出版されたことがないようなものなんです。貸本だって、ここに収録されているものを今そろえたら高いですよ。

坂野 結構えげつない金額になりますよね。

京極 きれいな貸本をそろえたら、2000万円とか。

村上 安い家なら買えちゃいますね。

京極 それが、たかだか6万円程度で買えるわけです。

坂野 なんと、お買い得な!(笑)しかも美しいし。

京極 当時の貸本よりきれいですからね(笑)。電子版も、データが普通より重いようです。拡大もできて、印刷したものとはまた違った鮮明な絵が楽しめますよ。くれぐれも粗探しはやめていただきたいですが(笑)

水木漫画に外れなし! を実感

京極 チラシにも「水木漫画に外れなし」と入れましたが、実感ですね。まあ、ご本人が首を傾げていた「死神大戦記」はありますが(笑)。

村上 そう、あれはちょっと引っかかるね(笑)。

京極 でも、全集では異色傑作「その後のゲゲゲの鬼太郎」とカップリングしてますからね。水木先生といえば鬼太郎だけど、それ以外も本当に面白い。鬼太郎って、政治色の強いものから幼児に向けたものまで幅広くて、鬼太郎だ!と思って読んだらベトナム戦記だったり、すっごいエロだったり、全部ひらがなだったりするから……。むしろ鬼太郎じゃない作品から読んだほうが、鬼太郎も面白く読めるかも。

村上 どれから読み始めるかっていうのは難しいね。

坂野 この間知り合いに聞かれて、思わず貸本時代の『飛だせ! ピョン助』を薦めましたけどね(笑)。

京極 水木版のルーニー・テューンズ(※)ね(笑)。今回は権利関係もクリアして、幻の作品が掲載できました。

村上 ワーナー・ブラザースさんお墨付きですからね。

京極 水木漫画には、世相に対する社会風刺的な作品、特に権力に対するその時代時代の弱者の視点があって、それは今でも十分に有効です。あと、戦争に対する思いも。単に戦争反対! というんじゃない。水木先生は戦争で片腕を失った被害者だけど、自分も戦争に参加している以上は加害者でもある。そこはすごく公平公正なんですよ。今は、戦争を知らずに無責任に語る人がいますが、そういう人にもぜひ読んでもらいたいですね。

※バックスバニーやトゥイーティーが登場するワーナー・ブラザースの人気アニメシリーズ

水木先生の別荘で集まった富士山麓での合宿

京極 ともかく、「漫画だからこんなもんだろう」とか、そんな冒とく的なことは考えたくないわけですよ。クオリティは大事だし、「読者の視点に立たなくちゃ」というのは水木先生の教えでもある。出版社の都合で作るような本はダメだと、読者のことを第一に考えたが故に……自ら望んで、大きな十字架のようなものを背負ってしまったわけですよ。

坂野 重かったですねぇ(笑)。

京極 どこかの出版社、「やる」ってことしか決めてくれないんですよ(笑)。まずは巻数を決めてくれと言うんだけど、そんなのわからないじゃないですか。

坂野 そのために、みなさんで合宿したんですよね?

村上 富士山麓の水木先生の別荘に集まったんです。かろうじて作品リストがあったので、それをベースにある程度ジャンル分けをするところから。

京極 なんか、カルタ取りみたいにしましたね。紙に作品名を書いて、「これはこれと一緒だろう」という組み合わせをテーブルの上に並べて。それで100巻前後だろうということで、「煩悩の数の108巻(補巻をのぞく)でいいか」ということになりました。

村上 見つかってないのもあったし、余裕をみてね。

京極 で、いざ作り始めたら、やっぱり原稿がない。

村上 なかったですねぇ(笑)。

京極 でも、結果的にはそれなりにあったんですよね。特に貸本時代のもの。貸本は普通原稿がないんですけど、意外に残っていましたね。水木先生の貸本は名作が多いから単行本は結構出ているんだけど、なぜかその原稿を一回も使っていなかったわけですよね。

村上 他の質が悪いページに合わせたんですかね?

京極 違うと思う。誰も、水木プロに「原稿ありますか?」って聞かなかったんじゃないかと思います。だからずっと眠っていた。それに、あるといっても揃っているわけじゃないから、クオリティを合わせようと思うと手間がかかるでしょ。あまり言いたくないですけど、僕らがやる前の水木作品を担当した編集者はみんな……もう“投獄”してもいいと思う。

村上 ははは(笑)。今ものすごく言葉を選んでた。

坂野 京極さんの膨大なボキャブラリーの中から(笑)。

京極 貸本はともかく、メジャーな作品でさえ同じですから。せめて順番にしようとか、欠番はなくそうとか、考えてない。原稿はチェックしないし、勝手にページを削るは、セリフ変えるは、コマの切り貼りまでしちゃうでしょ。それがそのまんま他社に引き継がれる。元に戻そうとした人は、過去に一人もいないんですよ……半分くらい講談社ですけど(笑)。

村上 水木さん自身も、かなりアバウトというかね。

京極 水木先生は描き終わったらあまり細かく見ないから、そんなひどい形になってるということを知らなかったんだと思う。

村上 本が出たら、うれしいんだけどね。

京極 本が出ると喜ばれてましたね。ご自分で買われるし(笑)。でも中を細かくチェックはしてないですよ。編集者を信用されていたんでしょうけど。印税は入るからね(笑)。

坂野 でも、今回はデザイナーとして恥ずかしくなるような思いをいっぱいしましたよ。

京極 そうかね?

坂野 だって、本来だったら修正の方針とかもデザイナーから出すものですが、京極さんはデザインもやるし、編集もやるし、執筆もするし、豪華な解説者陣の交渉まで全部一人でやって、どんな監修だと(笑)。宣伝用のチラシも全部、レイアウトから文章、絵や写真選びまで京極さんがやってくれて、僕は整えただけですからね。あとは、帯も。

京極 帯はね……最初の刊行の前に、いつまでたっても入稿されないので、「帯は?」って版元に聞いたら、誰も知らないわけ(笑)。で、ずるずると、結局2期の終わりまで僕が担当しました。タダで(笑)。3期の第2回配本から、ようやく編集者が作るようになった。

坂野 後半になるにつれて人が増えていきましたね。

京極 最初は4人だったけど(註:当初から梅沢一孔氏が携わっていたが2018年に逝去)、少しずつね。正直言って、今スタートなら完ぺきな全集を作る自信があるんですよ。全部調べたし、修正もしたし、原稿がなくてもデータはあるし。でも、スタートのときは……。

村上 準備するのに半年もなかったですからね(笑)。

京極 徐々に体勢ができてきて、「よし、万全だ!」と思ったら、終わりましたね(笑)。つまり準備に6年はかかるということだったんだ!

正しくて、きれいで、読みやすい形で

村上 同じ作品が再録されるときに、いろいろ変わっている部分もあるんですよね。それは巻末の資料ページで解説されました。

京極 初出準拠をベースにしたからなあ。「フキダシの大きさがちょっと違う」とか、「線が3本くらい多い」とか……本当に細かいんですわ。

坂野 「この網がはがれていたのが直ってる!」とかね。

村上 夜中になると「ここの形が違う!」とか、そういうメールがいろいろ飛び交いました(笑)。

京極 “実は間違っていた”シリーズも結構ありましたね。

村上 「ゲゲゲの鬼太郎」のねこ娘のセリフとかね。

京極 水木さんの字って、読めないんです(笑)。だから、水木さんが書いたネームを活字に起こすときに、写植のおじちゃんが読み間違っちゃうんでしょうね。

村上 ねこ娘のセリフで「ニコニコ」というセリフがあって、普通、口でニコニコなんて言わないからなんだろうなって、引っかかってはいたんですけど。あるとき原稿のネームを見たら、これ「ニャニャ」じゃん!ってね。昔の書き方で、ヤが大きくて「ニヤニヤ」と書いてあるのを、「ニコニコ」に間違われたまま、40年ぐらいそのままだったんですよね。今回初めて直されて。

坂野 そういう間違いがいっぱい発覚しましたね。

京極 「コトリバーのように」って文章があって、意味不明だからさんざん調べてわからなくて、結局「ストリッパー」だった(笑)。

村上 ベトナム戦記で、アメリカ兵が「うへえ!」って言うのもありましたね。何かと思ったら、「うて!」だった。

京極 別に驚いてもいないのに、鉄砲構えていきなり「うへえ!」って(笑)。そういうのはわかる限り、全部直しましたね。「昔読んだ思い出のセリフと違う!」という読者もいて気の毒でしたが、正しくて、きれいで、読みやすい形で後世に伝えよう、とね。

坂野 でも言葉遣いはあまり直さないようにして。

京極 基本的には元のままですね。おおむね「土人」も生きています。水木先生は、常に弱者の視点に立ってものを見る人でしたが、必ずしも反権力というわけではないんです。その時代時代における強いもの、思い込みに対して疑義を呈してくるわけですね。だから女性の権利問題なんかは、当時まだ過渡期だったし、今のフェミニズムやLGBTの運動とは違ってかなり論旨が雑だったり、過激な活動が横行したこともあったから、アンチな表現も多いですね。今見ると「ええ!?」と思うかもしれないけれど、それはそういう時代だったので仕方がないところもあります。ただし、ハンセン病やエイズの表現など、今の常識に照らし合わせて明らかに間違っている、変わっているところは、注を入れるか直すかしました。

村上 水木さんの描くいわゆる毒、そういうのはなるべく残そうということでね。

京極 水木先生は結構辛辣な人ですからね。ただ、この資料ページですが、楽しみにしてくださる読者も結構いらしたようなんだけど、実は台割上のページ合わせの意味もあったんですよね。何一つネタがないのに、「今回は4ページ空いてますよ」とか言われて、それを埋めなきゃいけないという。

坂野 無理やり執筆させられる作家のように(笑)。

京極 だから、文章が多いほど資料性が高いというわけじゃないですね。ネタがない結果だったり(笑)。逆に、いっぱいネタがあるのに、「3ページしかないですね」みたいな巻もありました。

村上 そういうはみ出たものは、巻ごとにつけた月報「茂鐵新報」に入れたりもしましたね。水木先生のインタビューを載せたり、こちらも毎回作っていたので大変でした。

京極 あと一冊、最後に「索引」も刊行されますね。月報も索引も、この全集の編集委員だった故・梅沢一孔さんが、「全集にはあるべきだ」とずっと言っていたもので。索引の作成に入る直前に亡くなられてしまいましたが、その遺志を継いで、今鋭意制作中です。

10代から90代までが楽しめる水木漫画

京極 他社ですが、『ガイコツ書店員本田さん』という、書店のコミック売り場での経験を描いた漫画があって、その中に「某巨匠漫画家がお亡くなりになったので、マンガの棚がその漫画家一色になりました」という回があるんです。かなり高齢のお客様がやってきて、こういう本がないかと主人公の本田さんにたずねるの。それで差し出された本の表紙が、まさにこの大全集の貸本戦記漫画だったんです。それでそのおじいさんが、「ああ、ありがとう。なつかしくてさぁ。読んでおきたかったんだよ」ってなことを言うんですよ。

坂野 いい話ですね。

京極 水木先生のことだと直接的に描いてあるわけじゃないんだけど、僕はかなりうれしかったですね。そういう水木先生と同世代の人も読むし、今テレビで鬼太郎もやっているから、若い人も読むだろうし。10代から90代まで読める漫画って、あまりないですからね。

村上 水木先生はあらゆる媒体に描いていますしね。

京極 仕事熱心なのか、節操がないのか(笑)。

村上 お金さえもらえばやるんでしょうね(笑)。だって、同人誌みたいなのにも描いてたじゃないですか。

京極 描いてた。あれはびっくりしたね。

村上 ファンでも気づかないですよ、あんなの。まあ、その作品が面白いかどうかというのは、また別問題ですけどね(笑)。

京極 うん。あれはあまり気乗りしてない感じがした(笑)。でも、幻の作品でしたよ。情報としては知ってましたけど、どこにも売ってないし、媒体も確認できない。そうしたら、水木プロの倉庫に埋もれていたから驚いた。

村上 お菓子のおまけの漫画とかもありましたね。

京極 カプセルトイがねえ。ガチャガチャの中にコマ漫画が入っているやつ。

村上 あれも知られていませんでしたよね。「現代妖怪伝1 おばけそうじき」と「現代妖怪伝2 地球の主」は、あれだけ時間をかけてやったからこそ、探し出せた作品ですね(ともに060『なまけの与太郎 他』に収録)。

京極 マニアの人が1冊持っていたんだけど、それを作ったバンダイさんに問い合わせても、そんな大昔のことは知りませんと言われて。そうしたら水木プロの人が1冊持っていたんですよね。「進呈します!」ってもらったんですけど、これが別作品。「え、これ2とか書いてない!?」みたいな(笑)。それでその1と2だけ載せたんですよね。そしたらもう終わり近くになってから3が見つかって、別の巻に泣く泣く入れることに。

村上 本当に手探り状態で始めたから、あとから出てくるのがちょこちょこあったんですよね。

京極 だから後にいけばいくほど、本が厚くなる(笑)。

坂野 見つけたら載せざるを得ない。でも、見つかったらとりあえず入れればいいわけでもないですからね。

京極 媒体別って決めたもんだから、「漫画アクション」の巻(074『糞神島 他』)を出した後で、その媒体のものが見つかると困るわけです。だから、「漫画アクション」の巻が近づいてくると、みんな必死で探して。でも、もうページの台割もできて、入稿もして、初稿出しの頃に新しい作品が見つかったりする。原稿を探してもなくて、しょうがないから掲載誌から復元して台割も変えてという作業を、たった3日でやったりしたこともありました。

村上 本当に綱渡り状態のときが何度かありましたね(笑)。

坂野 でも、一度も発行を延期したり落としたりしなかったのは自慢ですね。

京極 それは普通のことなのに(笑)。いや、この企画が発動する前、『藤子F不二雄漫画大全集』を読みながら、うらやましいな、水木さんのも出ないかなと思ってたんですけどね。自分で作るとは思わなかったけど。F全集はひとつの目標でした。

村上 負けてないですよ。

京極 とにかく作品が網羅されてないと全集じゃないだろうというところからスタートしたわけですが、画報や一コマ漫画、絵物語、イラスト付きエッセイと、グレーゾーンのものが多くて。エッセイなんかはセレクトにせざるを得なかったんですけど、漫画に限るなら9割9分9厘、網羅できたのではないでしょうか。今でこそ、「雑誌掲載完全復元」「カラーページ完全収録!」と銘打った本が出るようになりましたけど、この全集がその火つけ役にはなったのではないでしょうか。欠損部分を補修したりカラーを再現したり。読めなかったものも含めて、全部読めるし。デジタル修正に関していえば、『鉄人28号』が、先駆けて掲載誌からのデジタル修復をしているんですね。原稿がなくてもキレイにできるんだと感心したんですよね。

坂野 ああ、スキャンしてね。

京極 鉄人28号の制作ルームで何人ものオペレーターが修復している写真を見た覚えがあって、だからそういうスペシャルチームを想像していたんだけど、それは僕だった(笑)。

 でも、漫画全集を作るなら、鉄人28号のデジタル修正と藤子F不二雄全集の網羅性は必要不可欠だろうと。個人全集はそう何度も出せるものじゃないですからね、作るとしたら一世一代。水木先生のお仕事にのちのちケチがついたりしないようにしなければと、取り組んできました。ぜひ10代から90代の方までみなさん読んでいただいて、どんどん増刷してほしいです(笑)!

京極夏彦(きょうごく・なつひこ)

1963年北海道生まれ。1994年『姑獲鳥の夏』でデビュー。『魍魎の匣』で第49回日本推理作家協会賞長編部門賞、『嗤う伊右衛門』で第25回泉鏡花文学賞、『覘き小平次』で第16回山本周五郎賞、『後巷説百物語』で第130回直木賞、『西巷説百物語』で第24回柴田錬三郎賞を受賞。近著に『虚談』『ヒトごろし』など。「水木しげる漫画大全集」の責任監修を担う。

村上健司(むらかみ・けんじ)

1968年東京都生まれ。フリーライターにして妖怪探訪家。著書は『日本妖怪大事典』『日本妖怪散歩』『怪しくゆかいな妖怪穴』(1〜2)、など。水木しげる氏が初代会長を務めた世界妖怪協会公認のムック「怪」にも参加。「水木しげる漫画大全集」の編集委員、月報主筆を務める。

坂野公一(さかの・こういち)

1970年兵庫県生まれ。グラフィックデザイナー。SONY株式会社、杉浦康平プラスアイズ勤務を経て、2003年に独立、welle designを設立。京極夏彦氏の著書の装丁も数多く手掛ける。「水木しげる漫画大全集」ではデザイン全般を手がけた。

本の紹介

代表作である「ゲゲゲの鬼太郎」や「悪魔くん」はもちろん、貴重な貸本漫画作品、倉庫の奥底から発掘され、これまで単行本や文庫にも未収録だった隠れ名作まで収録。制作開始から足かけ6年、補巻・別巻含め全113巻完結!

(更新日:2018年11月9日)

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