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怪物たちの地獄の饗宴!視覚効果の巨匠フィル・ティペット監督が語る、創造力の源流と次世代への架け橋

MOVIE WALKER PRESS

「スター・ウォーズ」オリジナル・トリロジーや『ジュラシック・パーク』(93)のクリーチャーを手がけ、2度のアカデミー視覚効果賞に輝いたフィル・ティペット。着手から30年の時を経て長編ストップモーション・アニメ、『マッドゴッド』(公開中)を完成させた彼に、作品に込めた思いや自身のキャリアについて語ってもらった。

■「宇宙船からドラゴンまでなんでも動かしたよ」

『マッドゴッド』の制作を開始したのは80年代末のこと。自主制作としてスタートし、休止期間を挟んで2021年に完成した。物語の舞台は遠い未来、人類最後の男に派遣されたアサシンが怪物たちの巣窟と化した廃墟の世界に足を踏み入れる。

50年を超えるキャリアのなかで、「スター・ウォーズ」シリーズのトーントーンやAT-ATウォーカー、『ロボコップ』(87)のED-209、『ジュラシック・パーク』の恐竜たちや『スターシップ・トゥルーパーズ』(97)のバグズなど、数々の個性派キャラを生み出してきたティペットは、クリーチャーSFXの第一人者。自ら監督した『マッドゴッド』は、ストップモーションをベースに活躍してきた彼の集大成といえる。

ティペットが初めてストップモーションと出会ったのは5歳の頃だった。「テレビで『キング・コング』(1933)を観て衝撃を受けたんだ。生き生きと動きまわるコングや恐竜たちに魅せられた」と振り返る。そして8歳の時に出会った、レイ・ハリーハウゼン製作のモンスター映画『シンバッド 七回目の航海』(58)が彼の将来を変えた。「私にとって最高のマジックだった。自分もこんな映画を作りたいと思っていた時、モンスター雑誌『Famous Monsters of Filmland』を読んでストップモーションという方法で作られていると知ったんだ。それから試行錯誤を繰り返し、多くの仲間と出会い技術に磨きをかけていった」と明かす。

プロの現場で働きはじめ、クレイアニメ「ガンビー」など子ども番組やCMで活躍した後、仕事仲間に誘われて参加した『スター・ウォーズ』(77)のデジャリック(ホロチェス)を担当し注目を浴びた。ティペットはこれらデビュー当初の仕事を「卒業制作」と呼んでいる。「働き出した頃はまだ学生だったからね。お金をもらって自分の実力を試していたようなものだった」と笑う。CGが導入される以前の当時、ストップモーションはどんなモンスターも自由に映像化できるほぼ唯一の手法。その道のプロであるティペットに次々と仕事が舞い込んできた。「どう撮影したらよいか迷った監督たちが、何とかしてくれと相談に来る。宇宙船からドラゴンまでなんでも動かしたよ」。

■「ルーカスやスピルバーグたちとの映画作りは学ぶことが多かった」

『ジュラシック・パーク』では、準備していたストップモーションをCGに変更されてしまうハプニングもあったが、クリーチャーを生き生きと操るすべを熟知していた彼は、ダイナソー・スーパーバイザーとして恐竜たちの振り付けを任された。「原作者マイケル・クライトンからも恐竜について提案をもらったが、スティーヴン(・スピルバーグ)の了解を得て僕のやり方で撮らせてもらった。とくにTレックスがジープを襲うシーンは、移動撮影のタイミングを含め何度もリハーサルを繰り返して本番に臨んだよ」と明かしてくれた。

優れた監督との仕事は得るものがあるという。「たとえば技術者であり演出家、製作者でもあるハリーハウゼンは、B級と呼ばれていたファンタジー映画をA級に押し上げた。彼のように才能ある人たちとの共同作業、例えばジョージ・ルーカスやスティーヴンたちとの映画作りは学ぶことが多かった」

そんなティペットにとって特に大きな存在がポール・バーホーベン監督だ。『ロボコップ』や『スターシップ・トゥルーパーズ』で組み、ほかにも数々の企画を準備していた盟友というべき存在である。バーホーベンとのコラボレーションについて尋ねると、「交響楽団の指揮者とコンサートマスター(第一バイオリン奏者)のようなもの」という答えが。「ポールは、映画に不可欠で私が必要とするものはなんでも提供してくれた。そしてどんな状況でも、しっかりとサポートしてくれたんだ。ただ出たがりのFIDS(Fucking Idiot Directors)とは正反対の、真のプロフェッショナルだね」と称賛する。

■「若いクリエイターたちに、いちからストップモーションをレクチャーした」

視覚効果を手がける一方「自分の映画を撮りたいという夢をずっと持ち続けていた」と語るティペットは、1984年にILM(インダストリアル・ライト&マジック)を離れ自宅のガレージにティペット・スタジオを設立。恐竜の生態をストップモーションで描いた短編『Prehistoric Beast』(84)を監督した。そして『ロボコップ2』(90)を終えた後、長編『マッドゴッド』に着手。ところが間もなく視覚効果のデジタル化の波が押し寄せて、ティペット・スタジオもCGスタジオに再編されるなか、撮影は中断された。「それから20年も放置したままだった。ところがそのフッテージを偶然目にしたスタジオの若い連中が興味を持ち、自分もやってみたいと言いだしたんだ」と、再スタートのきっかけを明かしてくれた。

この間『スターシップ・トゥルーパーズ2』(04)を監督したティペットにとって、『マッドゴッド』は2作目の長編。ストーリーはシンプルで、アサシンがクリーチャーひしめく地獄のような世界をめぐる一種のトリップ映画になっている。グロテスクだがユーモア漂うクリーチャーのデザインや、生き生きと動きまわる姿はティペットの持ち味にあふれている。

パントマイムで物語を伝えるサイレント映画が好きだというティペットは、ドラマ性を省いた本作で視覚による表現を突き詰めたいという思いがあったようだ。「彫刻や絵画をベースにしたストップモーションは、古くからある手法を今日のスタイルで描いた芸術といえる。そんな創作行為を遡ると、クロマニョン人の洞窟壁画に行きつくんだ。フランスでいくつかの洞窟を訪れたことがあるが、そこにはゴーストや人と動物を合体させた奇妙な生き物が描かれていた。それを見たとき視覚で物語ることのすばらしさを感じたし、そのDNAは私たちにも受け継がれていると思う」と力説する。

少年時代、クリーチャーを愛する仲間たちの導きでストップモーションをマスターしたティペット。第一人者となった彼は『ジュラシック・パーク』でCGアニメーターに恐竜を生き生きと描くためのコツを指南し、『マッドゴッド』ではさらに若い世代のクリエイターにパペットを使った撮影法を伝授した。「人形を操ったことのない彼らのために、いちからストップモーションをレクチャーした。みんな夢中になって楽しんでいたよ」と振り返るティペット。コンピュータはツールにすぎず、大切なのは作り手の創造性だと語る彼のクラフトマンシップは、『マッドゴッド』を架け橋に次の世代へと受け継がれたようだ。

取材・文/神武団四郎
 
   

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