平素の訓練の場と実戦の場では状況が異なる。訓練の場では衣食住が保証されているが、戦場はそうではない。兵糧や飼い葉はなるべく現地調達するに限る。その際、敵の貯蔵庫から強奪することもあるが、これには一定の秩序が必要である。 物資の略奪は物欲のなせる業。好きなだけやらせたのでは奪い合いから、味方同士で争いが起きかねず、それを回避するために、あらかじめルールを定めておく必要があるのである。
孫子はその一例として、戦車十台以上を捕獲したときには、そのすべてを最初に捕獲した者の功績とし、すぐさま旗印を自軍のものと取り返させたうえで、賞与を受けた者のいる部隊に配属させる。さらにその部隊の兵全員に特別の飲食を提供して労うという案を提示している。このようにすれば、戦勝を重ねるたびに自軍の戦力も増していくという算段である。
反対に指揮官がやってはいけないのは、略奪品の独り占めである。功績のある者に賞与するにしても、雀の涙ほどのものでは、全軍の士気が低下する。
恩賞の下賜を帰還後に先延ばしするのもよくない。前の軍功がどれくらいの恩賞に値するかわからなくては、やはり士気の低下が避けられないからだ。部下が活躍したら、リーダーは早めに賞与を支給し、全体の士気向上につなげるとよいのだ。
出典：『眠れなくなるほど面白い 図解 孫氏の兵法』 監修：島崎晋
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