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「3カ月で潰れる」を見返したくて。デカ盛り居酒屋「花門」イラン人マスター・マンスールさんがデカ盛りを続ける理由

おなじみ

――このボリュームをフライパンで……?  付け合わせのサラダの量も圧巻ですが、1個40gくらいありそうな唐揚げが15個くらい乗ってますよね……!

マンスさん:そうです。うちの料理は2つのコンロとフライパンでほとんど作ってるんです。唐揚げは毎日だいたい15~20kgくらい仕込みますが、1日で売り切っちゃいますね。

――感覚がマヒしてきそうです(笑)。ちなみに二番人気はなんでしょうか?

オムライス(400円)。食卓塩は大きさの比較のために設置

マンスさん:オムライスですね。ごはんは3合以上、卵はだいたい10個使ってます。豚肉とタマネギを入れたケチャップライスを作った後に、スライスチーズをのせてから薄焼き卵をかぶせるのが「花門」流オムライスです。

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フライパンからお皿に盛り付けるのも一苦労

――唐揚げやオムライスだけでなく、すべてのメニューがこのデカ盛りサイズなんですよね。30年前に開業した時は普通サイズだったそうですが、なぜこれほどまでに巨大化したのでしょうか?

マンスさん:十何年前に取材を受けたテレビの映像を見ると、当時の料理はここまで大きくないんですよ(笑)。 

これは私の経験談なんですけど、以前テレビで見て「おいしそうだな」と思ったお店にお客さんとして行ったんですね。すると、スタッフさんたちは「どうせテレビ見て来たんでしょ」と言わんばかりの接客態度で、料理もあんまりよくなかった。すごく嫌な気持ちになったんですよ。

私と同じ思いをうちのお客さんにもさせたくない。そう思って、テレビでうちの店が放送されるたびに量を多くしているんです。「こんなに多かったの?」って感じてもらうぐらいの気持ちで出すんですけど、いつの間にかそれが定番になって(笑)。花門に来て「がっかりしたね」「大した事なかったね」って思ってほしくないし、「来てよかったね」って笑顔で帰ってほしいんです。

――デカ盛りの始まりはマンスさんの優しさ、おもてなしの心なんですね。すべてのメニューを400円にしたのも理由があるんですよね。

マンスさん:開業してから2年後くらいかな?若い夫婦が来店してくれた時、妊婦の奥さんはサイコロステーキを食べたかったんだけど、「800円で高いから予算オーバーだ」と旦那さんに言われてしまった。代わりに380円の焼きそばを頼んだんですね。

私は「サイコロステーキも380円だったら食べられたんだろうな」と、その夜にメニューの値段を380円に統一しました。その後、同じお客さんがまた来てくれて、サイコロステーキを頼んでくれたんですよ。それで私も嬉しくなって、つい大盛りにしちゃった(笑)。

もともとこの妊婦さんの話も、7年間は奥さんにすら話していなかったんですよ。ある雑誌の取材で何度も聞かれてついポロッと。奥さんが取材記事を読んで「あなた、いい人だったんだねえ」って。9年越しに私の株が上がりました(笑)。

豊富なメニューのすべてが税込み400円

――全品均一の理由をずっと公表していなかったんですね!それでも、税込み400円では安すぎますよね。

マンスさん:消費税が5%だった時までは380円でしたけど、8%になった時に少し値上げして399円均一にさせてもらいました。「サンキュー」になるのが気に入っていたんですけど(笑)。その後、10%になってしまった時に、1円だけまた値上げさせてもらいました。

 ――価格について、お客さんからどんな反応がありますか?

マンスさん:「本当に何を考えてるんですか?」「お願いだから値段上げて」「せめてキリよく500円にしようよ」って、よく言われます。お会計で「お釣りはいらないよ」って多めに渡してくれる方もいますし、お客さんの中には「安すぎて申し訳ないから行くのやめよう」って思っている方もいるかもしれない。

私は一度決めたらやり通したい性格なので、やめられない自分にも問題があるなと思ってはいるんですけどね……。

――お客さんから心配されちゃうお店って、きっと花門さんくらいですよね。

マンスさん:本当に(笑)。でもね、うちのお店には学生さんもよく来てくれるんです。デカ盛りを出すと、残りをパックに詰めて「3日かけて食べます」って持って帰るんですよね。「花門さんのおかげでこれまで何とか生活できました、ありがとう」って言ってくれる方もいるから、私も次来たときは前回よりも多く盛っちゃうんですよね。私もこれまで色々な人に助けてもらいながらお店をやってきたから、少しでも力になりたいんです。

テレビ出演で救われた。「義理人情」を信条に、取材は一切断らない

 

――そもそも、マンスさんが居酒屋を開いたのはどのようなきっかけだったんですか?

マンスさん:このお店はもともとママさんがひとりで営業していた小料理屋だったんですよ。今の奥さんとの出会いをきっかけに上板橋に来るようになった私も、よくこのお店に通うようになりました。 しばらくしてから、ママさんが病気になってお店を続けられないと聞き、居抜きで居酒屋をやらせてもらうことにしたんです。ちょうど私が結婚した1992年のことでした。

開業したばかりの頃は「外国人が営業しているお店だし、日本語通じるのかな」って思われたみたいで、なかなかお客さんが入らなかったんですね。そこで私は毎日、店前を掃除しながら道行く人に挨拶するようにしたんです。雪の日には店の前200m先まで雪かきもしました。すると、だんだん地元のお客さんが来てくれるようになって。小料理屋時代のお客さんも戻って来てくれたんです。この頃は9割が常連さんでした。

――地元で親しまれる居酒屋さんだったんですね。そこから、花門さんがテレビでよく取り上げられるようになったのはどのような経緯があったんですか?

マンスさん:2001年にアメリカで起きた同時多発テロをきっかけに、外国人への風当たりが強くなり、お客さんが来なくなっちゃったんです。 2週間ぐらいお客さんゼロの状態。だけど、光熱費や賃料の支払いは待ってくれないし……。その頃には子どもも2人いたので、この店を畳もうと覚悟を決めました。

そんな時、テレビ東京の「徳光和夫の情報スピリッツ」という番組から「『日本人と結婚している外国人特集』という企画で取材させてほしい」とオファーが来たんです。放送された翌日から、驚くほどのお客さんが来てくれるようになりました。今、花門があるのはテレビのおかげ。それからはテレビに限らず、どんなメディアでもすべてお受けしています。

――デカ盛りの話題性はもとより、メディア露出の多さにはそういった理由があったんですね。

マンスさん:決して“出たがり”ではなく、恩返しをしているだけなんです。日本で「義理人情」っていう言葉を覚えたので、マスコミの皆さんとの義理も大切にしたいんですね。営業時間外のオープンも、同じ料理を繰り返し作ることも、求められればどんなことでもやってきました。

実際にそのおかげで、新しいお客さんがどんどん来てくれています。来ないお客さんをずっと待っていたあの頃に比べたら、今は天国! だから自然に笑顔になっちゃうし、冗談も飛び出しちゃうんです(笑)。

メニュー50品のうち49品は赤字! デカ盛り居酒屋の仕入れ事情

――ここからは花門さんの台所事情を聞かせていただきたいのですが……。実際のところ、経営は厳しいですよね?

マンスさん:メニューの中で49品は赤字です。唯一黒字になるのは、花門の隣の豆腐屋さんからご厚意でいただいている豆腐を使った冷奴だけ。今は特に物価が高くなっているので、ますます赤字です。お店を始めた当初は2kg560円で買えた鶏肉が、今では1,200円以上。でも、今までずっと値段を大幅に上げず、量も減らさずお出ししてるので、ここまで来たらがんばろうと思ってます。

――でも、このままだと赤字が加速する一方なのではないですか?

マンスさん:もしも、やって行けなくなったら……。花門は潰して、次に「ケモン」を始めます。いまのは冗談です(笑)。

お店の営業は夜なので、昼間はアルバイトしています。お客さんの犬を散歩させたり、代わりに買い物に行ってあげたりと、便利屋さんみたいなものですね。そのお金を仕入れに使っています。

料理は赤字だけど、アルコールでもソフトドリンクでも飲んでいただけると助かります。お水だけだと本当に困っちゃうので……。この記事でもどこかに書いておいてもらえるとありがたいです(笑)。

――分かりました。しっかり書きます(笑)。材料の仕入れはどのようにされているんですか? 

マンスさん:都内の色々なお店をまわって特売品を買っています。ここでキャベツ、あっちでニンジン、とか。お店の冷蔵庫も小さくて買いだめができないから、毎日十数軒のお店をバイクで移動します。その都度エンジンを止めるので、バイクのセルモーターがしょっちゅう壊れるんですよ。修理屋さんにもびっくりされるくらいです。

特売の卵がカウンター(写真右上)にぎっしりと並ぶ

「3カ月で潰れる」と言われたけれど、『潰すもんか』と歯を食いしばったから今がある

――他にないユニークなお店だとは思いますが、もしも「花門さんのようなデカ盛りのお店をやってみたい」と相談を受けたとしたら、マンスさんはどのようなアドバイスをしますか?

マンスさん:自分の気持ちとしてはすごくうれしいです。ただね、これまでずっと大変なこと、つらいことがあって、人には見せられない涙がたくさんあるんです。花門を目指してくれるのはありがたいですが、私と同じような苦労はしてほしくない。

だから、アドバイスするとしたら「メニューのうち1~2品だけデカ盛りにしてみたら?」と言います。以前、SNSで知り合った飲食店の店主さんが「花門みたいな店にしたい」という連絡をくれた時、私は同じようなアドバイスをしました。しばらくは頑張っておられたようですが、ある時にやめてしまって。デカ盛りを続けるのは難しかったみたいです。

――そうなんですね。先ほど「苦労があった」と仰っていましたが、マンスさんの一番の苦労はどんなことでしたか?

マンスさん:それはやっぱり「支払いに追われること」ですよ。今はお客さんがたくさん来てくれるおかげで何とかやりくりできていますが、待っていてもお客さんが誰も来ないのは一番つらいんです。特に子どもが小さかった頃は大変でした。

家賃、電気代、水道代の支払いは大丈夫だろうか。さらに、子ども2人分の幼稚園の費用、病院代……。「今夜、お店の電気代を払わないといよいよ止まる」 ところまで追い詰められたことが、何百回もあるんですよ。

レジにはお金があるけれど、仕入れに使えるのはたった500円。その500円玉を握りしめて買い物に行き、お客さんに料理を出していました。営業後の夜12時前に、その日の売上で何とか電気代を支払うんです。

当時は、週末のアルバイトさんまで「今日バイト代いりません」って気を遣ってくれていました。お客さんが来なかったからって。私は意地でも払いました。そんなギリギリの生活、誰にも勧められませんよ……。

――そんな大変な時期があったんですね……。つらい時を思い出させてしまってすみません。

マンスさん:……こちらこそ、泣いてしまってごめんなさい。いつもは取材で絶対に涙は見せないと決めているんですが、つい気が緩んでしまって。

私はやっぱり、来てくれたお客さんをどんな時でも笑顔にしたいんですよ。花門に来て、「ああ楽しかった、明日からまた頑張ろう」って思ってほしい。お店での私は、人を笑わせるピエロの役割。大変なこと、つらいこともたくさんあるけれど、それはピエロの仮面の下に隠して、精一杯楽しませたいんです。

こんなふうに人を楽しませたいと思えるのは、絵を描き続けていることも関係しているかもしれません。

――イランにいた頃から絵を描いておられたと伺いました。ホームページのギャラリーを見ましたが、すごく本格的ですね。

「日展」は日本最大の公募美術展

マンスさん:14歳から描いていました。日本に来てからは機会がなくて離れていたんですが、絵の先生をされていたお客さんの勧めでまた始めたんです。初出品で初入選したのがうれしくて、その後「日展」には15回以上出展し、その他にもさまざまな展覧会に出展して、これまでに文部科学大臣と総理大臣賞を取ってるんですよ。 

――すごいですね!そもそも飲食店を続けていくだけでも大変なのに、さらにデカ盛りを400円均一で続けていく。そのマンスさんの原動力はどこから来るんでしょうか? 

マンスさん:お店をオープンしたばかりの頃、ある方に「絶対潰れる、3カ月もたない」って言われて悔しかったんです。あの言葉はいまだに頭から離れません。意地だったんです。昼間の仕事と夜の営業で毎日2時間しか寝られなくても「潰すもんか」っていう気持ちで歯を食いしばって、今年で30周年を迎えました。今は毎日のように満席になっています。私がカウンターの中で笑えているのは、こんなにお客さんが来てくれてうれしいからなんです。

 

【お話を伺った人】

コルドバッチェ・マンスールさん

東京都・上板橋にある居酒屋「花門」のイラン人店主。24歳で来日し34年目、奥様のきよみさんと二人三脚で30年間営業を続けてきた。50種類あるメニューはすべてデカ盛り、400円均一で提供し続けていることが注目され、テレビや各種メディアにたびたび登場する。アーティストとしての顔も持ち、「国際美術大賞展」では文部科学大臣、総理大臣賞の受賞経験もある。
・公式サイト:居酒屋花門
・Twitter:@mansour132

【取材先】

居酒屋花門

住所:東京都板橋区上板橋3-6-7
電話:03-3935-9222

取材・文/田窪 綾
調理師免許を持つフリーライター。惣菜店やレストランで8年ほど勤務経験あり。食分野を中心に、Webや雑誌で取材やインタビュー記事作成、レシピ提案などを行っている。

編集:はてな編集部

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