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コーヒーで旅する日本/関西編|“新鮮なコーヒー”が当たり前になるように。鮮度第一を掲げる「煎りたてハマ珈琲」が発信する新たな試み

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

関西編の第42回は、大阪市城東区の「煎りたてハマ珈琲」。自家焙煎の喫茶店から始まり豆の販売、さらには焙煎機の製造まで手掛け、いまや焙煎機メーカーとしても、その名を広めている。店主の濵さんは、自衛官からコーヒーの世界へ転身した、ユニークな経歴の持ち主。煎りたての味を知ったことがきっかけで開業へと至った、濵さんが当初から一貫して伝えてきたのが、豆の鮮度の重要性。「誰もが新鮮なコーヒーを楽しめるように」との思いから、旺盛な探求心と行動力で発信を続けている。

Profile|濵卓也(はま・たくや)
1982(昭和57)年、大阪市生まれ。高校卒業後、陸上自衛隊に入隊。普通科連隊重迫撃砲部隊に所属。在職中にコーヒーの魅力に目覚め、豆の鮮度による味の違いに気付いたのを機に、本格的に焙煎を始め、サンプルロースターを自作するまでに。退役後、開業を目指して約1年間、祖父が営んでいた駄菓子屋を改装しつつ、間借りやイベント出店などで経験を積み、2010年「煎りたてハマ珈琲」をオープン。2012年からオリジナルの焙煎機を発売開始。

■おいしいコーヒーの条件は豆の鮮度にあり
「前職時代から、コーヒーは好きでしたが、最初は何も考えずに飲んでいて。専ら市販の豆やインスタントを使っていましたね」という濵さんにとって、コーヒーへのイメージを大きく変えたのは、ミルを買ったことがきっかけだった。豆の状態で購入し、直前に挽いて淹れたコーヒーは、粉で買っていた時に比べて数段おいしく感じたという。豆を挽く楽しさを覚え、選ぶコーヒーの幅も広がっていったが、ここである気づきによって、本格的にコーヒーへの関心が深まっていく。

「同じ店の同じ豆でも、買うタイミングによって、なぜか香りが弱かったり、味が薄かったりすることが分かってきたんです。何となくですが、店頭に出てから時間が経っていない豆の方が良いのだろうと感じて、買う時にハズレがないように気を付けるようになりました。例えば、瓶で陳列してる豆なら、多く詰まっている方が補充したてで新しい、などと判断してましたね」。この体験を通して、おいしいコーヒーの条件は鮮度にある、と考えるようになった濵さん。そこから次第にコーヒーの加工のプロセスへと目を向け始め、やがて興味を抱く先は焙煎へと傾いていった。

「当時は情報も少なかったので、大きな設備や特別な機械でやってるんだろうと、漠然と想像していました」という濵さんだが、そこから自力で焙煎のことを調べ始め、コーヒー専門店の教室にも参加。自ら焙烙(ほうろく)を使って手焙煎も始めたが、焼ける量が少なく、加熱が安定しなかった。しかし、ここでめげなかったことが、思わぬ道を拓くことになる。

「教室でも細かいことは教えてくれなかったので、いっそのこと自分で使いやすい器具を作ろうと思い立って。仕組みは分かっていたから、粉ミルクの缶を利用して試してみると、案外うまくいったんです。さらに蓋つきの鍋で煎る方法も考えて、ダンパーのように蓋の開け閉めすることで、排気の原理も理解できるようになりました。何より、自分でも器具を作れて、おいしく焙煎できた、という驚きと発見が大きかったですね。逆に、焙煎は世間で言われているほど難しくないんではないか、という疑問も湧いてきて。“おいしいコーヒーは自分で作れる”ということを、もっと広めたいと思ったんです」。この時、手作りした素朴な器具は、後に自店で製造する焙煎機へとつながる、はじめの一歩だった。

焙煎機を自作してからは、さらに“豆をどう焼くか”の追求にのめり込んでいった濵さん。自衛隊の訓練の合間を縫って、毎日のように焙煎を続け、感覚を磨いた。「焙煎の方法や流儀は千差万別、極端に言えば、店の数だけある。いろんな人のやり方があって、焼き方や豆の種類なども異なります。情報が乏しい中で知り得た方法を、自作の焙煎機で試して、仮説検証を繰り返しました。大量に豆を焼いても、幸い飲んでくれる同僚が周りにいっぱいいましたし(笑)。当時、コーヒーが飲めない人や苦手な人にも試してもらって、中には自分が作ったコーヒーがきっかけで、飲めるようになった人もいました。今、思えば、店の味作りの実証実験をさせてもらったようなものですね」と振り返る。

その後も、自衛官を務めながらコーヒーの世界に没頭した濵さん。2009年に退役し、開業に向けて動き始めた。長らく空き家のままだった、祖父の住まいを改装し、自家焙煎の喫茶店としてスタートした。

■コーヒーは鮮度が命。“煎りたて”の屋号に込めたモットー
濵さんのモットーは、屋号に冠した「煎りたて」の一言が体現している。「コーヒーは鮮度が命。どれだけ高品質な豆を使っていても、本来の風味を保てるのは焙煎後1週間程度。鮮度が落ちて酸化したコーヒーを飲んで、苦手意識を持つ方が多い現状を改善したい。焙煎や抽出のやり方は、どんなコーヒーを作りたいかによって答えは変わりますが、鮮度の良し悪しという条件は、どんなコーヒーにも同じように当てはまること。時間が経った豆を好む方もいるかもしれませんが、売る側としてはできるだけ焙煎したての豆を届ける、焙煎日を明確にするというのは大前提で、一番基本にあるべきだと思っています」

とはいえ、大阪の市街からは離れた住宅街にあって、近所のお客がほとんど。もっと多くの人に、煎りたてのコーヒーを発信するべく、開店ほどなくしてコーヒー教室を始めた濵さん。「鍋を使った焙煎とドリップの2本立てでしたが、焙煎に重きを置いていました。ドリップを教わりたいという参加者が多かったのですが、コーヒーは焙煎した時点で味は決まっていて、ドリップはあくまで持ち味を効率よく引き出す方法。その基本的な考え方を伝えていきました」。開業当時は、焙煎教室をするコーヒー店はまだほとんどなく、お客にとっても、焙煎と聞くと玄人の世界で、気軽にできるイメージにはほど遠かった。それでも「ハマ珈琲」の教室では、家でも手鍋で簡単にできる方法を実践し、焙煎に対するハードルを下げ、コーヒーの味作りの本質を伝えてきた。

「例えば、お米をよりおいしく食べるなら、真空パックやレトルトではなく、自分で炊きますよね。コーヒーも同じ感覚で、自分で豆を焼く楽しみ、できたてのおいしさを感じられる。プロしかできないと思っていたことが実は簡単にできる、自分で焙煎するという選択肢が当たり前にある、ということをもっと知ってもらいたい。よくコーヒーはワインに例えられますが、産地で収穫・加工まで行うワインと違い、コーヒーは生豆で輸送され、最終加工が消費者に委ねられます。なぜなら、焙煎してから運ぶと劣化するから。だからこそ焙煎が大事というのは、昔から言われていたことですが、それを知る機会があまりにも少ないと感じましたね」

ならば、常に新鮮なコーヒーを楽しめるようにするには、店でも家庭でも焙煎がもっと身近なものになるべきなのでは。そう考えた濵さんが行き着いた答えは、より手軽に使える焙煎機を自ら開発・製造することだった。確かに、厨房機器などと同じく、焙煎機は特別な設備や設置条件を要する機械であり、当然、価格も高額になることから、“焙煎=プロの世界”と思われてきた大きな理由の一つ。濵さん自身も、開店後は大手メーカーの5キロ焙煎機を導入していた。ただ、開業前に約200グラムサイズのサンプルロースターを自作し、さらに進んで本格的な焙煎機開発の構想を温めていた。その実現の契機になったのは、前回登場した喫茶路地の岩金さんだった。

「当時、開業準備の一環で店を手伝ってくれていた岩金さんから、“開業する時に、小規模の店舗でも使える小型の焙煎機があれば”という声を聞いていたんです。200グラムでは小さすぎるので、数百グラム~1キロの焙煎にも対応できるものを考えました」と、試行錯誤を重ねること約2年。今までに器具を自作してきたノウハウを生かして、2012年、現在の1キロ焙煎機・HCR-1000が完成。一般的な同サイズの焙煎機のほぼ半額での販売を実現した。

■家でご飯を炊くように、豆を焙煎してもらえるのが理想
喫茶路地に1号機が納入されて以降、17号機までは濵さんが一人で組み立てを行い、月に1台くらいのペースで受注生産。熱源にガスコンロを使用する簡便さで、個人店を中心にじわじわと支持を集めていった。ここで、転機の一つになったのは、ブルーボトルコーヒーの上陸。「当初、ブルーボトルコーヒーが“焙煎後48時間以内の豆を使う”という触れ込みで、鮮度を打ち出していたのを聞いて、煎りたてのコーヒーへの関心を高める追い風になるのではと思いました」と濵さん。その後、マイクロロースターの増加に伴って、焙煎機の受注も伸び始め、現在まで1キロタイプの製造は、のべ400台を数え、月に5~6台のペースで製造している。

2017年には、焙煎機のみならず抽出器具も開発。店で提供するアイスコーヒーは、2017年に発売した“冷やしコーヒーマシン”で作ったもの。「ドリップしたコーヒーが、冷水の中を通過することで急冷されます。氷を混ぜないので濃度が管理できますし、作り置きせず1杯ずつ作れるので、アイスコーヒーにおいても鮮度の問題をクリアできます」と濵さん。さらに、4年前に製造部を立ち上げ、店の近くに焙煎機の組み立て用の工場を設置。2018年に発売した6キロ焙煎機は、すでに40台を製造。さらに、昨年から試作を重ねてきた、最大サイズの12キロサイズも今年、1号機を納入予定だ。コロナ禍を経て、焙煎機の注文数はさらに増し、いまや納品は半年待ちという人気ぶり。「現在、さらに小さい500グラムのサイズも試作中です」と濵さん。機体の認知度も広まり、今では焙煎機メーカーとしての存在感を高めている。

一方、当初は喫茶店として始まった店は、豆の販売の比重が高くなり、今ではオンライン販売中心に切り替え。ドリンクはテイクアウトのみとなり、焙煎機がずらりと並ぶ店内はコーヒー・ファクトリーの趣に。店頭に並ぶ豆は5種類だが、オンラインのメニューでは数十種の銘柄を扱っている。ここでも、鮮度を第一に考えたアイデアが随所に。「うちの販売システムで特徴的なのは、できるだけいいタイミングで飲んでいただけるよう、豆の注文時に焙煎する日をお客さんが指定できるようにしていること。また、曜日ごとに焙煎する豆の種類を決めておき、焙煎する回数が偏らないようにしています。豆はシングルオリジンのみ。ブレンドは豆のコンディションを揃えるのが難しいので、お客さんが各自で混ぜてもらうのも、楽しみの一つとして提案しています」

また開業から8年間続けてきた焙煎教室は、YouTubeへと発信手段を移行。店を訪れるお客の中には、“YouTubeを見て富山から来ました”、“自分も焙煎始めました”と、声をかける姿も。「教室はしないけど、リアルで集まれる機会は作ってもいいかなと思う。お堅い教室でなく、ファンコミュニティのようにゆるやかなつながりを広げて、新鮮なコーヒーのおししさを伝えていきたい」。煎りたてのコーヒーをより身近に、当たり前に。「家でご飯を炊くように、豆を焙煎してもらえるようになるのが理想です」。鮮度へのこだわりが生むアイデアは、まだまだ尽きることはない。

■濵さんレコメンドのコーヒーショップは「WIFE&HUSBAND」
次回、紹介するのは、京都市の「WIFE&HUSBAND」。
「店主の?田さんは、開業の際、うちの1キロ焙煎機を導入するにあたって、コーヒー教室に参加されたのが最初の縁。店名の通り夫婦で始められて、お二人のライフスタイルをそのままお形にしたような、洗練された雰囲気は他にないもの。すみずみまでセンスがいきわたった、独自の世界観に満たされた一軒です」(濵さん)

【煎りたてハマ珈琲のコーヒーデータ】
●焙煎機/煎りたてハマ珈琲 1キロ・6キロ(半熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(クレバードリッパー)
●焙煎度合い/中煎り~深煎り
●テイクアウト/ あり(450円~)
●豆の販売/シングルオリジン4種、100グラム590円~

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治




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