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オリックス・田嶋大樹がコロナ禍に配慮し年俸非公開…人間力を磨く左腕の矜持とは

ベースボールキング

オリックス・田嶋大樹がコロナ禍に配慮し年俸非公開…人間力を磨く左腕の矜持とは

◆ 猛牛ストーリー【第48回:田嶋大樹】

 リーグ連覇を達成し、昨年果たせなかった日本一も成し遂げたオリックス。監督、コーチ、選手、スタッフらの思いを、「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。

 第48回は、5年目の今季、3年連続して先発ローテーションを守り、8連勝を含む9勝(3敗)、防御率2.66でリーグ連覇と26年ぶりの日本一に貢献した田嶋大樹投手(26)です。

 契約更改後の記者会見で来季の年俸を非公開としましたが、理由は「コロナ禍で、金額を出して嫌な思いをしてもらいたくない」からでした。人間力を磨いている左腕らしい配慮の真意をうかがいました。


◆ 感謝も込めた「ご報告」

 「先ほど交渉し、判子を押させていただきました。今年に関しては具体的金額を非公開にさせていただきたいのですが」

 12月2日に大阪市内の球団施設で行われた契約更改交渉後の記者会見。交渉結果に対する質問に、グレーを基調としたスーツ姿の田嶋が報道陣に語りかけた。

 「今年も多くのファンの方々や裏方さんらに支えていただきました。そういう人たちにご報告だけはと思い、大台突破だけ報告させていただきます」と続け、1億円超でサインしたことは明かした。


 契約更改の取材では、報道陣が選手に上昇幅やダウン幅を金額やパーセンテージなどの数字を質問して探る。ダウン幅を言いたくない選手は多い一方で、アップ幅は比較的明かすケースが多い。契約更改の記事で金額の後に『(推定)』と断りがあるのはそのためだ。

 最近では増減額と金額を、自ら明かす選手も少なくない。昨年の田嶋も「8000万円くらいですね」と自ら口にした。

 なぜ今年は公表を避けるのか。会見後に聞いてみた。

 「前回(昨年)はさらっと言いましたが、今、コロナとかもあって自分の金額をバーンと出して、嫌な思いをしてもらいたくない気持ちがあって」

 新型コロナウイルスの流行で、ある調査では「家計にゆとりがなくなった」という回答が5割を超え、雇用や消費など経済に大きな影響を与えている。プロ野球選手がそんなところまで配慮するのか、と驚くと同時に「田嶋らしいな」と納得するのに時間はかからなかった。


◆ 「メチャメチャ、変わりましたね」

 今、田嶋が取り組んでいるのは、人間力のアップだ。

 「野球の成長と同時に、人間力も勉強しています。本などでどういう人が一流になれるのかを学んで、いま僕が出来ることは何かを考えて逆算して、今やれることからやってきました」と田嶋。

 「どういう言葉を発すれば一流に近づけるか、一流の人はどのような発言をしているのかというところに着目しています」

 1億円の年俸は、月給にすれば約800万円。コロナ禍に加え、ロシアのウクライナ侵攻で物価も高騰する中で、『1億円超』がすべての人に受け入れてもらえるのかと考えた時、非公開は当然の選択だった。

 それでも、1億円を超えたことだけは「ファンの方々のおかげでここまで成長することが出来ました。それ(大台突破)だけは報告しないと、僕の中で筋は通らないと感じました」と、ここでもファンを思う田嶋らしい言葉で説明した。


 人間力を磨く中で、田嶋自身に変化があったという。

 「メチャメチャ、変わりましたね。人に支えられている感謝の気持ちも、上っ面の感謝でなく心からの感謝が出来るようになりました。人間力を想像させて、どういう言葉を選んで使ったらポジティブに生きていけるかとも考えています」

 「1つ1つ丁寧に生きることが、ピッチングにもつながってくると思うんです。結果を出しても人間力がなかったら誰もついて来ないですし。結果も出して、人間力もあるというのが理想です。26歳でまだまだ勉強中なんで」


 1億円プレーヤーの存在は、プロ野球を目指す少年らに夢を与える側面もある。しかし、田嶋は「ただ、お金をたくさんもらっているようなアピールをしても。プレーで見せるのが一番いいと思う。1億円プレーヤーだからすごいのではなく、プレーを見て憧れられる選手にならなくてはいけないと思います。(金額で)夢を与えられ、影響力があるのは(山本)由伸クラス。僕が金額で影響を与えるなんて、おこがましい話なので、まだいいかなと思います」と言い切る。


 自身への反響も考えた。

 「金額を出すことによって、僕が痛みを感じることもあります。1人から痛みをもらったら、100人からもらったように大きく捉えちゃうんで。そのリスクも負いたくなかったですね」

 これまでもインターネット上などの心無い書き込みで心を痛めることがあったといい、「全員に理解をしてとは言いませんが、嫌な思いもしてきているのでそのリスクも避けたかったんです」と吐露する。


◆ 自分と向き合う貴重なオフシーズン

 今季、20試合に登板。初の2ケタ勝利には届かなかったが、4、5月に好投が報われなかったり、シーズン終盤には相性のいい楽天戦にぶつける戦略的なローテーションの再編で「中12日」などと登板間隔が開いたりするなど不運な面もあった。

 しかし、3年連続してローテを守り、3年連続して20試合以上に登板して山本、宮城大弥とともにチームを支えた。


 順調にステップアップして迎える6年目は、技術の習得に主眼を置く。

 「1年間ローテを守るために、ここ3年間は基礎体力をつけることに力を注ぎました。アマ時代に走り込みで結果を出してきた自負もあり、3年間は人の2倍以上、みっちりと走ると決め、結果が出ました。次は技術の精度を上げれば、もう少し成績も安定するのではないかなと。この3年間は8:2か9:1で体力作りをして来ましたが、今度は6:4か7:3に割り振りを替えていこうと考えています」

 投球フォームを安定させ、ボールの精度を高めるつもりだ。


 もちろん、オフは1人で強化に励む。

 「自分と向き合う時間がメチャクチャ大切だと思うので、孤独ですが、すごくやりがいがあります。1年目に(6勝を挙げ)いいスタートを切れたのにケガをしてしまい、2年目も一軍でいい成績が残せず、本気でやらないと生き残れないと思って頑張って来てよかった。29か30歳くらいにはタイトルも獲りたいと思っていますが、早いに越したことはないので、来年か再来年にはジャンプしたいですね」

 人間力を磨き、自分を客観的に見つめ静かに高みを目指す。


取材・文=北野正樹(きたの・まさき)

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