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『アトムの童』オダギリジョーの多面的な人物造形 クリエイティブが勝つというメッセージ

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日曜劇場『アトムの童』©︎TBS

 『アトムの童』(TBS系)第8話では、宮沢ファミリーオフィスによるSAGAS買収が進む中、新たなキーパーソンが浮上する。

参考:山﨑賢人、飛躍の鍵はブレない主演力 “実写化王子”からかつてない進化

 那由他(山﨑賢人)がSAGASに協力するためアトムを離れ、隼人(松下洸平)がシアトルへ向かったことで、ジョン·ドゥの2人はふたたび別々の道を歩むことになった。SAGASと宮沢ファミリーオフィスの争いは、来たる株主総会をにらんで株主から委任状を取得するプロキシーファイトへ移行し、大株主の動向が勝負の行方を左右する。

 カギを握るのは大株主の伊原総一郎(山﨑努)で、SAGASはトップの興津(オダギリジョー)自ら伊原の元を訪れて交渉。対する宮沢ファミリーオフィスの沙織(麻生祐未)は隼人を送り込む。伊原は隼人が手がけたシリアスゲームを評価しており、興津と決着をつけたい隼人と宮沢ファミリーオフィスは利害が一致した。しかし、伊原は『ガリバー旅行記』や昔話を引いて謎かけのような問答を繰り返し、客に身体のかゆい部分を掻かせるなど掴みどころがなく、その動向はまったく読めなかった。ちなみにガリバーは大きくなりすぎたSAGASで、桃太郎と鬼の比喩は日本の技術を守ることは本当に正しいのかという問題意識、身体を掻かせるシーンは、会社の実質的なオーナーである株主を気持ち良くするのが経営者の仕事であると示唆しているように思われるがどうだろうか。

 一方その頃、那由他は行き詰まっていた。新作ゲームの開発は進んでおらず、興津との間にもギスギスした空気が流れる。那由他はアトムの技術を取り戻すため協力しているにすぎず、内心では興津を仲間とは思っていなかった。ゲーム『ぷよぷよ』対決を通して距離が近づいた興津は、那由他に「君は俺をどう思う?」と尋ねる。那由他は「金儲けのために俺たちのゲームを奪った」と答え、それを興津は誤解だと否定。「ほれ込んだんだよ」と話す興津は、『ダウンウェル』の権利を取得したのは外資系ベンチャーの手に渡ることを阻止するためだったと明かした。そもそもSAGAS自体、日本の中小企業が保有する優れた技術を守るために立ち上げた会社だった。

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 興津の真意は前話でアトムに協力を求めた際のセリフや、第5話で公哉(栁俊太郎)の墓参りで那由他と鉢合わせした際に交わされた「私にだって、人の死を悼む気持ちくらいありますよ」という言葉と符合する。徹底して力でねじ伏せる興津の中に、もう一つの顔があることはこれまでも強調されてきた。公の場では端正さを保ち礼儀を崩さない興津が、社内や那由他の前だと途端にくだけてガラが悪くなる様子は、悪役としての引き出しの多さを感じさせ、オダギリが興津という人物を多面的なキャラクターとして作り上げていることが伝わってきた。

 アイデアとワクワクに突き動かされる那由他。冷静そうに見えて義理を重んじる“情”の人·隼人。辣腕の陰で技術へのリスペクトを抱く興津。三者三様のゲームに対する向き合い方は当初から一貫している。那由他と隼人が仲たがいと和解を繰り返し、敵だった興津と組む動きだけ取ると、その時々の状況でくっついては離れているだけのようにも見えるが、興津を含む全員が自身の理想をまっすぐに追求した結果がこれまでの各話だった。アトムロイドばりにキャラ造形をしっかり行った上で、物語上で縦横無尽に動かしているのが本作である。

 コントローラーを握った那由他と興津の会話は、「契約なんて立場によって見方が変わる」「(興津が嫌われているのは)人を大事にしなかったから」など味わい深いセリフがいくつもあった。一歩間違えれば那由他が興津になっていたかもしれず、容易に反転する善悪の構図から、本質的にフラットで誰もが可能性を秘めているのがゲームの世界という考えも浮かんでくる。

 興津の思いを感じた那由他は海(岸井ゆきの)や繁雄(風間杜夫)に頭を下げ、ゲーム開発への協力を依頼。断りに行ったはずの繁雄がアトムロイドを前にして持ち前のおもちゃ愛が爆発して、結果的に大いに協力してしまう描写は、ものづくりに携わる人なら頷けるものだったのではないか。「リアルを追求しすぎて夢をなくしている」という指摘は、過度に批判を恐れて冒険しない昨今の風潮に警鐘を鳴らしているように響く。根底にあるのはものづくりを中心に置く考えで、立場の違いを超えてクリエイティブが勝つというメッセージを発しているのが『アトムの童』である。(石河コウヘイ)

 
   

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