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ジェニファー・ローレンスらが語る『その道の向こうに』の“必要性”「いますぐにこの映画を作らなくてはいけない」

MOVIE WALKER PRESS

A24とApple TV+は、映画やドラマ、ドキュメンタリー作品などの作品供給契約を結んでいる。いままでも、ソフィア・コッポラ監督の『オン・ザ・ロック』(20)、ジョエル・コーエン監督の『マクベス』(21)、ドラマシリーズではジョゼフ・ゴードン・レヴィット主演の「Mr. コーマン」が配信され、そしてジュリアン・ムーア主演の「Sharper:騙す人」が、2023年2月17日(金)に配信される予定だ。

その中でも、積極的に新進映画作家を発掘し育てるA24らしいと言える作品が、現在配信中の『その道の向こうに』。舞台演出家出身、Netflixオリジナルシリーズ「メイドの手帖」やHBO Maxのオリジナル作品「セックスライフ・オブ・カレッジガール」などのドラマでエピソード監督を務めてきた、ライラ・ノイゲバウアーの初長編映画監督作品。


アフガニスタン帰還兵で心身ともに傷を抱えたリンジー(ジェニファー・ローレンス)は、故郷ニューオーリンズで自動車整備士ジェームズ(ブライアン・タイリー・ヘンリー)と出会い、微かな友情を築き始める。主演のローレンスとタイリー・ヘンリーの抑えた演技も賞賛されており、ローレンスは4度目のオスカー主演女優賞候補入りも噂されている。

この小さな映画は3人の新人脚本家たちによって書かれていて、ローレンスが立ち上げた製作会社のプロデューサーの目に留まった。ちょうど、彼女が映画の仕事から距離を置いていた時期だった。9月のトロント国際映画祭でプレミアが行われ、登壇したローレンスは思い返す。「この脚本を読んだ時、なにか直感で感じるものがありました。いますぐにこの映画を作らなくてはいけない、というような。存在理由ともいうべき、帰る場所を見つけようとする物語に共感を覚えたのです。私は14歳の時に実家を離れ、ずっと複雑な思いを抱いています。だから余計感傷的になってしまったのかもしれません」。

この役を演じるにあたり、ノイゲバウアー監督とローレンスは、丹念なリサーチを行なった。二人はニューヨーク州やニューオーリンズにある帰還兵と家族のための医療施設で時間を過ごし、そこでの経験が映画の中のリハビリのシーンに活かされているという。

「脚本開発中から準備、撮影、そして撮影後に至るまで、外傷性脳損傷分野の医療専門家や神経学者、作業理学療法士の意見を参考にしながら進めました。施設で退役軍人や米軍兵士と直接話をし、なにがきっかけで入隊や派遣に至ったか、どのような経験をしたかについても率直に語ってくれました。その経験は、大袈裟に聞こえるかもしれませんが、人生観が大きく変化するような思いでした。そして、撮影中は常に作業療法士や理学療法士が一緒だったことも付け加えておきます。病院のシーンに登場する二人の看護師は、ニューオーリンズの施設で働く実際の作業療法士です」。


リンジーの孤独と葛藤を受け入れる、同じく深いトラウマを抱えたジェームズ役を、『ビール・ストリートの恋人たち』(18)や『エターナルズ 』(21)、『ブレット・トレイン』(22)、ドラマファンには「アトランタ」のペーパーボーイ役でよく知られているタイリー・ヘンリーが演じている。ノイゲバウアー監督とタイリー・ヘンリーは20年来の友人で、このプロジェクトと監督を支え続けた立役者だという。

タイリー・ヘンリーは、この役を演じるうえで自身が抱えるトラウマとも向き合うことになったと告白する。「ジェン(ローレンス)とライラと映画を作るなかで、これらの登場人物がどんな人物でどんな人生を歩んできたのか、何層にもわたって振り返りました。ニューオーリンズで生まれ育ち、最大の悲劇を経験したことで、どこへも行けなくなってしまった男が、誰かを家に招き入れるシーンがあります。そこで彼は、『なんてことだ、ここは空っぽだ』と初めて気がつきます。私も母を亡くし、長いことトラウマに苦しんでいました。トラウマとは、孤独で空虚な空間を行き来するようなものだと思います。私たちはトラウマを障害だと捉えがちですが、そうではありません。今日、映画をここで観て気づいたことがあります。空虚さは悲しみでしか埋められないと感じることがあっても、隣には常に誰かがいて、その人を信頼することができるのです」と、感慨深く語っていた。

前述したように、ノイゲバウアー監督はニューヨークの演劇界で15年以上舞台演出を務めてきた。舞台からスクリーンに活動の場を移す演出家は多い。ノイゲバウアー監督は、「演劇と映画は根本的な構造が異なる」としながら、「映画を作った経験から、ストーリーテリングの衝動や視覚的構成、俳優たちの台詞など、芯となるクリエイティブな衝動は、舞台演出と全て一致していると気づきました。これは大きな発見でした」と語る。

一方、主に映像表現を活動の場とするローレンスは、「舞台では、毎晩同じ台詞を発することによって言葉や言語について研究するような感じでしょうか。舞台を経験した友達からは、『毎晩、感じ方が違うような気がする』と聞いています。ライラの演出は、台詞を発する言葉遣いや役柄の研究に細心の注意を払っていたので、このように全員が深く役柄に関わるような映画になったのだと思います」と述べた。

『その道の向こうに』は、トラウマを抱えた、素性も生き方も違う二人が最少の言葉や感情表現を重ねることで理解し合う奇跡のような瞬間を描いている。毎晩行われる公演で、会場を埋める観客と共に舞台を作りだす経験をしてきたノイゲバウアー監督の繊細な演出が、映像でも功を奏している。まさに世界中の人々がパンデミックから受けた傷を癒している2022年、映画業界から少し距離を置いていたローレンスが「いますぐこの映画を作らなければならない」と感じた“表現者の勘”は正しかったのだろう。

文/平井伊都子
 
   

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