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『鎌倉殿の13人』ニセモノの髑髏が示す“証” 三谷幸喜が新境地で描く“本物“のその後

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 そして今回、髑髏は公暁の元へと渡る。謀反を起こした理由を「知らしめたかったのかもしれません。源頼朝を祖父に持ち、源頼家を父に持った私の名を」と公暁は政子に語った後、実朝の部屋から持ってきた髑髏を見せて「これぞ、鎌倉殿の証」「4代目は私です。それだけは忘れないでください」と言う。

 ニセモノだった髑髏は、持ち主を転々とした末に「鎌倉殿の証」へと変わっていく。ニセモノの髑髏は、義時が守ろうとしている武家社会の根拠のなさを示している。

 ニセモノが演じているうちに、やがて本物になってしまうという物語を、三谷幸喜は繰り返し描いてきた。ドラマで弁護士を演じた俳優を連れてくることで、故郷の村に産業廃棄物処理場が建設されることに抵抗するドラマ『合い言葉は勇気』(フジテレビ系)や、映画の撮影だと騙されて連れてこられた俳優が伝説の殺し屋を演じることになる映画『ザ・マジックアワー』は、その筆頭だ。

 この二作は、俳優が重要な役割を担うのだが「演技をしているうちにニセモノが本物に変わっていく」物語は、映画、舞台、ドラマといったフィクションを作る行為に置き換えることが可能である。

 ニセモノが本物に変わる物語を、多くの人々の思惑が絡み合う群像劇として描くことで、三谷は人気作家へと成長していったのだが、『鎌倉殿の13人』が新境地と言えるのは「ニセモノが本物になってしまった物語のその後」を描こうとしているからだ。

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 それは、カリスマ的存在だった頼朝を失った義時が、鎌倉幕府をまとめるために闇落ちしていく物語として描かれてきたのだが、物語はいよいよ最終局面を迎える。

 「北条の鎌倉」を作ることを決意した義時は、運慶(相馬一之)に「神仏と一体となった己の像を作らせる。頼朝様が成し得なかったことがしたい」と言う。天才芸術家の運慶は、義時のことを見守ってきた作者の分身とも言える存在だ。だからこそ三谷は「お前は俗物だ。だからお前の作るものは人の心を打つ」と義時に言わせたのだろう。

 「ニセモノが本物に変わる物語」から「人が神仏を目指す物語」へと、本作は変わりつつある。

(成馬零一)

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