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私たちにはラブソングが必要不可欠だ 『First Love 初恋』が生み出した奇跡

Real Sound

Netflixシリーズ『First Love 初恋』 Netflixにて、全世界独占配信中

 Netflixシリーズ『First Love 初恋』を見終え、その余韻にどっぷり浸っている。全9話、時間にして約500分、すっかり没入してしまった。まるで描かれた20年あまりを、登場人物たちと共に過ごしたような気分だ。

【写真】「初恋」の花言葉を持つライラック

 11月24日に配信がスタートした『First Love 初恋』は、宇多田ヒカルの名曲「First Love」(1999年)、「初恋」(2018年)にインスパイアされて作られたドラマシリーズ。脚本、監督を手掛けた寒竹ゆり氏自身が宇多田ヒカルと同学年であり、主人公である也英(満島ひかり)と晴道(佐藤健)とも同じ世代の設定。だからだろうか、彼らを捉えるカメラが同級生かのように優しく寄り添うのだ。

 観ているこちらまで2人のことを20年来の友人のような親近感を覚える。なんなら彼らの家族も、そして今彼らが務めている先の同僚たちのことも、すっかり顔見知りなのだと言いたくなるくらい。それほど丁寧に2人の思い出を共有したからこそ、也英と晴道の運命の恋を応援せずにはいられない。

 だが一方で、也英と離れ離れになったあとに出会った晴道と婚約者・恒美(夏帆)との数年間もちゃんと描かれる。これが仮に、もっと時間の制約がある作品で、恒美との馴れ初めがさらっと数分しか描かれていなかったとしたら「今すぐ也英のもとへ行っちゃえばいいのに!」なんて簡単に言えたかもしれない。だが、そこにも也英とはまた違った形の愛情があったのだとわかってしまうから、もどかしい。

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 不慮の事故や大災害で人の運命が大きく動かされるのはもちろんだが、日々のちょっとした出会いや小さな選択の一つひとつが、人生を構成するピースになっている。それがたとえ報われなかった恋であっても、胸が張り裂けそうな悲しい別れだったとしても。それらがいつか「今の自分には必要なものだった」と思えたら……という希望の物語でもある本作。その切なる願いのような熱を感じるのは、もしかしたら製作背景と、この物語がリンクしているからかもしれない。

 Netflixから寒竹監督に本作の企画について打診があったのが、2018年の年末だったという。それから約4年。途中、世界的なパンデミックが起こったことで、立ち消えてしまう可能性もあったそうだ。しかし、そんな苦難を前にしても、キャストもスタッフも作品に対する熱意を途切らせることなく向き合ってきたことで、本作は完成した。それは20年の月日が経っても決して消えることのなかった晴道の恋心にも通じる、ピュアで熱いものづくりへの想いが生み出したひとつの奇跡。

 いや、むしろ障壁があったからこそ、じっくりと作り込まれたとも言えるかもしれない。特に北海道の四季をとらえた各シーンは絵画のように美しく、そのままポストカードとして切り出せそうなくらいだ。また、まとまりの良さの理由には、シーンごとに登場人物たちの服装が青、赤、黄、白……と、統一されていることにありそうだ。

 その配色に、ある人は宇多田ヒカルの楽曲の歌詞を連想するかもしれない。またある人は「初々しい気持ち」「血の繋がり」「解放感」「純真な思い」といったシーンごとに象徴するものを感じ取るかもしれない。あるいは雪や雑踏の中で自然と登場人物に目が行くように視覚的な誘導なだけかもしれないが、そうした細かな部分にまで思いを馳せることそのものが楽しい。

 また、そんなふうに丁寧に作り込まれた本作を観ていると、もっと解像度を上げて日常を見つめてみたくなってくる。悲しいかな、人は忘れていく生き物だ。それが今の自分を構成する大事なピースだったはずなのに、すっかり忘れてしまうことも決して珍しくない。脳のメモリは日々のことですぐにいっぱいになってしまうし、若き日の自分はちょっぴり恥ずかしくて意識的に記憶の隅に追いやってしまうこともあるから。気がつけば、ぼんやりと生きていくことに慣らされてしまう。

 だからこそ、私たちにはラブソングやラブストーリーが必要なのかもしれない。「運命」と呼びたくなるような出会いに体温が上がったり、「あの人に近づきたい」「今なら何でもできる気がする」と細胞1つひとつが沸き立っていく感覚。その瞬間が実際にあったり、いつその瞬間が来てもいいようにと爪を研いでいた、そんなピュアな自分を思い出すことができるから。

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