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特殊効果の神フィル・ティペット、古巣へ叱咤激励 30年を費やしたストップモーションアニメの裏側

シネマトゥデイ

長い年月を経て完成した『マッドゴッド』 – (C)2021 Tippett Studio

 特殊効果の第一人者として『スター・ウォーズ』『ロボコップ』シリーズや『ジュラシック・パーク』などを手がけたフィル・ティペットが監督した長編ストップモーションアニメ『マッドゴッド』(公開中)。クリーチャーの第一人者が、完全まで30年を費やした本作の舞台裏や映画作りの魅力をふり返った。(取材・文:神武団四郎)

 人類最後の男に命じられ廃墟と化した地上に派遣されたアサシンが、不気味な怪物たちが創造と破壊を繰り返す地獄のような光景を目撃する本作。ティペットは1980年代末に自主制作として撮影を開始したが、視覚効果のデジタル化が進むなど、仕事を取り巻く状況の変化などから作業は中断してしまう。「当時12ページの脚本を用意していたが、そのアイデアは曖昧だった」とティペットが述懐するように、完成した作品もドラマ性よりクリーチャーたちの世界に浸りきる体感を重視した作品になっている。

 アートや夢など、さまざまなものから受けたインスピレーションを消化するように世界観を広げていったと明かすティペット。強い影響を受けたという画家ヒエロニムス・ボスの代表作「快楽の園」との共通点も少なくない。「あるビジョンがひらめくと、ひとつのシーンが一気に見えてくる。それをくり返しながら、長い時間をかけさまざまなエピソードを盛り込んだ」と言い、その結果、広がりが生まれたと分析する。起承転結に頼らない展開に、戸惑う観客もいるのではとたずねると「作っている時は観客がどう思うかなんて考えもしなかった」と笑う。「だからロカルノ国際映画祭のプレミア上映を皮切りに、さまざまな映画祭に招待されたときは夢を見ているようだった」と嬉しそうに語った。

「あるビジョンがひらめくと、ひとつのシーンが一気に見えてくる」(C)2021 Tippett Studio

 セリフによるドラマを省いたのは、サイレント映画のように映像だけで感情に訴えたいという理由もあった。「会話やそれが導き出すストーリーは省いて、純粋な動きだけで映画を展開させたかった。言葉という壁を越えたことで、どの国でも字幕を付けずに見てもらえることになったよ」

 本作には、ストップモーションアニメを中心に、ロッドパペット(棒づかい人形)や影絵、俳優がスーツやメイクで演じるなど、さまざまな手法が使われている。「私のストーリーボードをもとに話し合い、手分けをして作っていった。時間はたっぷりあったので、ストーリーに合わせてどう撮るかを考えるには適していた」と言うティペットのもとには、トム・ST・アマンドやエリック・レイトン]、ドン・ウォーラーほか『ロボコップ2』(1990)などを共に手がけた「経験豊富な熟練アニメーター」が再集結した。その多くはCGアニメーションへの転向組のため「みんなこの機会を本当に気に入ってくれた」と嬉しそうにふり返る。

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 そんなレジェンドたちに加えか、CG世代のクリエーターも参加した。「彼らは『スター・ウォーズ』や『ロゴコップ』のメイキングを見てこの世界を目指したが、プロになった時にはCGの時代になっていた」という若者たち。彼らの情熱が、本作復活のきっかけだった。「当時撮ったフッテージを引っ張り出して見ていたら、スタジオの連中がやってきて『40年代のチェコの作品ですか?』と聞いてきた。お蔵入りの私のプロジェクトだと伝えると、自分たちもやってみたいと言うんだ」というティペットは、それを機にプロジェクトを再開する決心をしたと明かした。

『スター・ウォーズ』を思い出すクリーチャーの戦いも(C)2021 Tippett Studio

 さらに大学生や高校生もボランティアで参加。はじめて映画作りに携わる若者たちは、少年時代の自分の姿と重なったようだ。「私自身、多くのメンターの指導でストップモーションをマスターできた。若者たちに教えることは、彼らへの恩返しのようなものだね」と言い、「自分も作りたいという情熱を持った若者たちがいなかったら、『マッドゴッド』は完成しなかった」と目を細める。そんなティペット自身はどれだけのカットでアニメートを担当したのか聞いてみると「そんなこと覚えてないよ!」という答が返ってきた。「たくさんのアニメーターが参加してくれたけど、仕事の合間を縫って通ってくれたんだ。セッティングの多くは私がしたし、若手へのサポートを入れると全体の80%には関わっているんじゃないかな」

 再開した『マッドゴッド』の制作中、ティペットはダイナソーコンサルタントとして『ジュラシック・ワールド』(2015)に参加している。ただ『ジュラシック・パーク』(1993)以来、約20年ぶりのシリーズ復帰については「よい印象を持てなかった」と告白した。「ILMやコリン・トレボロウ監督から、クリエイティブ面で手伝ってほしいと言われて参加したんだ。ところがハワイの現場に行くと、おもな仕事はビデオカメラを持った連中のインタビューを受けることだった」と顔をしかめるが、それはフランチャイズの宿命だとティペットは考える。「監督の責任だとは思っていない。そもそもフランチャイズ化することは、冒険ができなくなるということなんだ。新しく映画を作るなら、何か新しい視点を持ち込んでほしい」と古巣への叱咤激励を口にした

「彼らが外科医だとすると私は鍛冶屋さ」フィル・ティペット

 グロテスクだがどこかユーモラス、バトルシーンになるとはじけるように暴れ出す。本作のクリーチャーたちは多くの映画でファンを魅了してきたティペットの持ち味が生きている。「すべてのアニメーターは独自のプロセスやスタイルを持っている。だから映像を見れば誰が動かしたかわかるんだ」と言うティペット。しっかりプランを立て、細かくシートに動きのタイムラインを書くアニメーターも少なくないが、ティペットはそんな準備とは無縁だという。「私のアプローチは荒削りだ。彼らが外科医だとすると私は鍛冶屋さ。もちろん大作映画を任された時はきっちり仕事をしたけどね」と笑い、その理由を手で作ったとわかるものが好きだからと話す。「ストップモーションだけでなく、彫刻でも椅子でもキャビネットもそう。いつも私はどこかに指紋が付いてるものに惹かれてしまう。そういうものにはアーティストの思考とプロセスが見てとれる。つまり人間味があるということだ」。

 ティペットが30年もの時を経て完成させた『マッドゴッド』。ここでティペットが残した痕跡が、ストップモーションとクリーチャーとへの限りない愛情。それを味わうことができるのが本作いちばんの魅力なのだ。

映画『マッドゴッド』は新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開中

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