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東大卒の夜遊びコラムニスト・ジェラシーくるみ『もう、港区女子と呼ばないで』

東京カレンダー

東京大学出身、今はしがない会社員。

その傍ら、港区で遊んできた経験から培ったリアルな恋愛観が多くの共感を呼び、SNSの総フォロワー数は6万超えのジェラシーくるみ。

学生時代から港区で遊び続けた、彼女だからこそわかる「港区のリアル」を書き下ろしてもらった。


下町育ちの女子大生が、憧れの街・六本木へ

しびれる夜が欲しかった。


下町と呼ばれる東京の東側で育ち、高校時代はGG(ゴシップガール)の真似をして窓ガラスを全身鏡に「クラブでのさりげない踊り方」を練習した。

大学に入ってから20歳までは門限があったが、サークルの合宿だと親に嘘をつき、六本木の小さなクラブで初めて踊り明かした夜。朝ご飯を奢ってくれたお兄さんの「マジで何もしないからホテル行こう」を一瞬でも信じかけたバカな私。

羽目の外し方も、鼻に抜けるメンソールタバコの苦い香りも、酒場での秒で吹っ飛ぶ1万円の軽さも全部この街で学んだ。

六本木の街で同じ大学の悪友と出会ってからは夜遊び癖が加速し、半年もすると「朝ご飯見つけよ」と六本木交差点で5秒で“つるとんたん朝デート”の相手を見つけられるまでに成長した。

夜の街に免疫がつくと、まだ明け方まで営業していた頃の『六本木 蔦屋書店』で卒論の徹夜作業、からの六本木ヒルズのベンチで工事の音を聞きながら仮眠をとり始発を待つこともざらにあった。

旅行先で異国のクラブにひとりで乗り込む度胸もついた。



人が平等に持つ「若さ」「時間」がクーポン券だとすると、そのクーポン券を何に換えるかが20代前半の勝負だ。私たちは若さと引き換えに、この街をむさぼるように消費し尽くし、夜遊びや恋愛に精を出した。


「えっハタチなの!?」「ってことは大学生?」「東大生がこんなとこ来ていいの?」のお決まりのコンボに飽きたら、職業や経歴を偽りどこまで嘘を展開できるか試した。

赤坂のスナックで働いているらしい生き別れの双子を探しているとか、駆け出しの陶芸家だとか、お酒の勢いを味方につけて口からでまかせのおとぎ話に酔いしれ、相手の反応を見ては友人とクスクスと笑った。

飴職人のように自由自在に嘘を引き伸ばすと、実家暮らしの平凡な大学生という自分の影から自由になれる気がした。


若さや時間を正しく学びに費やした同窓生たちは、今や世界各地で活躍している。

私は変わらずしがない平社員なので、クーポンの引き換えには無事失敗したのかもしれない。


社会人1~3年目、カラオケのタンバリン芸

暇を持て余していた大学生の間は、ノートをちぎって「商社」「代理店」「弁護士」「外銀」などの項目を9マス書き、ナンパされた男の職業でビンゴゲームをした。罰ゲームで逆ナンもした。

六本木ヒルズや東京ミッドタウンや元麻布、檜町の各種タワマン訪問も一通り済ませ、こっそり写真を撮って仲間内で共有した。

有名人が隣に呼ぶのはいつもモデルのように可愛い子ばかりで、私のような一般人は家に誘われたり下世話な話を振られたりするだけ。

『エンタの神様』時代からずっと好きだった芸人と飲んだとき、彼は目の前で私の友達と熱い接吻をかわした。

ずいぶん手慣れたもので、誰かにカメラを向けられても撮られないよう、相手の長い髪で自分の顔を隠す器用なテクを持っており、今もテレビで彼を見かけるとあの姑息なキスが思い浮かぶ。


『エーライフ』のVIPや星条旗通りの『glam』では毎週のように誰かの誕生日パーティーが開かれていて、主役の名前を知らぬまま名無しの誕生日を祝うこともしばしば。

可憐な花びらが散らしてある顔写真入りのフォトケーキはごりごりに映えるものの、奥歯に花びらが詰まって食べづらく、庶民派の舌としては『コージーコーナー』のミルクレープが恋しくなった。



六本木で一番楽しかった思い出は、社会人1〜3年目の頃に詰まっている。

有り余る体力とストレスをぶん回し、会社のトイレで髪を巻いて意気揚々と出陣した。


この街の住人とのカラオケは戦だ。即興の替え歌で飲ませる技術とタンバリン芸は、エクセルやパワポスキルの前にいち早く身についた。

同世代の仲間とカラオケではしゃいだ翌朝は、身に覚えのないあざが戦士の傷のごとく手脚に残っていて、心地よい疲労と達成感が身体を包んだ。

コンビニに行く気力もない日のブランチは、冷蔵庫の隅にあった賞味期限切れの豆腐にスライスチーズと胡椒をかけてチンしたもの。名もなき料理でも腹は膨れることを身をもって知った。

被服費と毎晩のタクシー代でひいひい言っていた私に「毎日男とご飯食べれば月の食費2万に収まるじゃん」と教えてくれた友人は、外銀マンとマカオで豪遊した翌年に会社の同期と結婚し、今はポメチワと夫と三軒茶屋で暮らしている。


ゲームのギルドのように、港区の街を冒険する日々

「社会に出ると本当の友達はできない」という大人の伝承を覆すかのごとく、貴重な合コン仲間もできた。

出自はバラバラだけれど、容姿・ノリ・学歴・経験値の4つの指標を掛け合わせた総合能力値は大体一緒。その中の数人とは何度か旅行に行き、人と話さずに終わった週末の夜にだらだら電話するくらいには親密な仲だ。

ゲームのギルドさながら、気になる男性をハントする戦略を話し合ったり、得意分野を掛け合わせて陣形を組んだりして、六本木〜西麻布〜広尾〜十番とエリア移動しながら港区の街を冒険した。


経営者が鼻の下を伸ばして開くパーティーや接待飲み会よりも、共に社会で揉まれている同世代サラリーマンとの合コンが好きだった。

合コンはいつだって団体戦。一次会終盤での女子の「トイレ行ってくる〜」で第二回戦のゴングが鳴り響く。

お手洗いでメイク直しと同時に「GS(ゴールドマン・サックス)の友達が『マンシーズ』で飲んでるけど行く?」「早稲田の同期が飲んでるけどどうする?(元)ラグビー部でちょうど4人!」と対戦カードの協議。

トイレに行きそびれたメンツはLINEという名のオンライントイレでリモート参加。

数多の現場経験を積んだおかげか、独身と偽って合コンに紛れ込む「人狼」を暴き出す嗅覚も身についた。

合コン現場で見事に伴侶を見つけて家庭を築いた子もいる。


みんなの記憶に残る夜になるかどうかは、女子の連携の強さと事件の数がものをいう。

べろべろに酔った後に自分から男の家に行き、なぜか靴をなくしてリラックマの靴下で女子反省会の『すしざんまい』に合流した子、セパ(セクハラパワハラ)両リーグ制覇上司のもとで悩んでいるとき、バーで隣の卓の女性と意気投合し、そのお姉さんの会社に引き抜かれてスピード転職を果たした子。

書くのもはばかられるような汚い事件もちらほら。

仲間内でバカをやって、ドラえもんのように地面から3ミリだけ浮き足立って、今宵の出会いにひとさじのロマンスを期待する。

西麻布遊園地や六本木動物園でワイワイするのが社会人の青春だった。


もちろん仲間内でも、嫉妬や恨めしさのような薄暗い感情が交差することはある。

彼から誕生日にもらったアルハンブラ、ボーナスで買ったカプシーヌMINI、親から受け継いだトリニティリング。

調子の悪いときは友人の友人のアカウントまでインスタパトロールをし、自分の持ってないものを「ひとーつ、ふたーつ」と皿屋敷のごとく夜な夜な数えた。


「もっといい人がいるはず」港区で遊べるのはいつまで?

蓋をひっくり返してみると、誰しもが容姿やキャリア、実家の複雑な親子関係やただれた恋愛に心を消耗していたのだが。

楽しそう、幸せそうと思われるために振る舞い、表面張力ぎりぎりで日々を過ごすのは20代前半特有の病なのだろう。


社会人2年目の頃だったか。六本木で同棲していた彼とひどい別れ方をして「もっといい人がいるはず」とひたすら飲み歩いていた私を見かねたのか、年上の既婚男子が助言してくれたことがある。

「ここら辺で遊ぶと、イケメンもいれば実家が極太の奴、投資ファンドで億稼いでる奴、センスあって面白い奴とかいろいろいるじゃん。それに慣れた女の子は、各分野のいいとこ取りをした、全種目で優勝できる人間が存在するって勘違いするんだよね」

ぎくっとした。私は五角形のグラフが隙間なく塗りつぶされた満点の男を探していたのかもしれない、と。

栄養バランス満点のコーンフレークみたいな男は存在しない。


そして20代も半ばに差し掛かると「港区の遊びは25歳が賞味期限」の定説が嫌でも頭をよぎる。

「25か。港区遊びはそろそろ卒業だね」と初対面の私に忠告する、余計なお世話オブザイヤー受賞おじさんにも遭遇した。

その脂ぎった横っ面にパンチをかますべきだったが、私は自分の金でここに住み、自分の金で高い鮨にも行くんじゃ!と自分のささやかなプライドを取り戻すのに精一杯だったおかげで、右手を痛めずに済んだ。


アラサーになってからは心にも財布にも余裕が生まれ、遊び方も徐々に変わってきた。

なかなかにアングラな西麻布のバーや、極めて下品でハイクオリティな芸を体験できる赤坂のゲテモノスナック、脚がぶつかりそうな距離でポールダンスを観られる鳥居坂下の真っ暗な狭小酒場。夜遊びの幅は自分の知恵と工夫次第でいくらでも広がるのだ。

そして麻布十番の商店街や南青山の裏通りなど、白昼の娯楽も尽きないのが港区のいいところ。


憧れの夜の街に足を踏み入れ、街の磁場にビリビリしびれたあの日。あれから幾星霜、港区を卒業するどころか、いまだ住民税を払い続けている。

深夜の『ボストーク』で男の愚痴を吐き合っていた悪友たちとは、真っ昼間の『天現寺カフェ』で資産運用やシミ予備軍について話すようになった。

「もっといい人はいねぇが〜」という身の程知らずなナマハゲ症候群から脱した私は、他者へのジャッジが諸刃の剣だとようやく学んだ。自分の内に潜む傲慢モンスターとの闘いの戦果だ。

嫉妬の手放し方や寂しさの手懐け方だって、ずいぶん上達した。


この魔都・港区で摩擦を繰り返し、サンダルを履き倒した夏の足の裏くらい分厚く硬くなったツラの皮。

あの失礼オジの言葉も、今なら鼻で笑えるかもしれない。賞味期限?塩漬けにでも燻製にでもしてやりますのでご心配なさらず、と。


■プロフィール
ジェラシーくるみ 著書『恋愛の方程式って東大入試よりムズい』(主婦の友社)が好評発売中。Twitter ID:@graduate_RPG48


 
   

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