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【確認中】「舞台は生で観る体験だけがすばらしいわけではない」舞台芸術の可能性を広げる「EPAD」の活動とは?

MOVIE WALKER PRESS

舞台芸術のアーカイブをオンラインで閲覧可能にし、舞台芸術をより身近に、そして未来へつなげる様々な活動を行っている「EPAD」。MOVIE WALKER PRESSはEPADの取り組みに賛同し、スペシャルサイトを12月1日からオープン。「普段映画を観るように、気軽に舞台を楽しんでほしい!」という思いのもと「初心者におすすめの舞台作品は?」「どんなアーカイブがあるの?」など、舞台芸術の楽しみ方を提案します。

EPADの正式名称は「緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化 支援事業」。2020年に、新型コロナウイルス感染症による舞台芸術業界の危機に対応した文化庁の文化芸術収益力強化事業の一環として、寺田倉庫と緊急事態舞台芸術ネットワークの共催でスタートした。

2020年当時、映画業界でも、行政による公的支援に加え、休館を余儀なくされたミニシアター系映画館に対する「SAVE the CINEMA」や「ミニシアター・エイド基金」などが有志により発足するなど様々な支援が行われたが、「ひとが物理的に集まれない」という事態は、舞台芸術業界にも大きな危機であった。

EPAD実行委員会の三好佐智子さんは、EPAD事業申請の背景に「経済的な危機に陥った芸術団体に、なんとかして支援したい」という緊急性があったと語る。「当時はそもそも公演が出来なくて手も足も出ない状態。スタッフやキャストがUber Eatsのバイトをしている状況で、興行が打てなくても皆さんの元にお金が届く方法がないかと、のちの実行委員会が知恵を絞りました」。

そういった状況を打開するため、アーティストや劇団などが有する既存の記録映像などを収集し、収集対価、および配信可能化作品の権利対価を支払うことで、経済支援を行なった。その合計額は5.4億円にのぼる(2020年度)。同時に、コロナ禍以前から舞台芸術の作品・資料収集に取り組んできた早稲田大学坪内博士記念演劇博物館が構築した「Japan Digital Theatre Archives」が同事業でOPEN、EPADで収集したデータが日英表記され、配信可能化作品は3分まで動画を見ることができる。

■「舞台映像を配信化するための第一歩は、様々な権利処理」

EPADが担う大きな役割のひとつが、舞台記録映像のアーカイブ及び配信可能化のための権利処理のサポートだ。演劇業界全体における、権利処理の「標準化」を推進している。「舞台記録映像において誰が権利者であり、誰の許諾をとらなきゃいけないんだろう?というところを骨董通り法律事務所の福井健策さん、田島佑規さんを中心に、整理しました」。

上演主体と各権利者の契約関係の整理が進んで行われていた欧米と異なり、日本の演劇業界では、各権利者との関係は誰にとっても必ずしも明確とはいえないローカルルールや慣習などに委ねられていた部分が少なくなく、著作権法に基づく権利関係の標準的な理解や、契約書などによる明確なルールが定められていないケースも散見された。それが映像配信へのハードルの高さにもつながっていたという。「国内でもコロナ禍以前から、上演の段階で映像化や配信化を見据えた契約を行なってきた2.5次元ミュージカルなどの、配信の先駆者がいます。同時に、『演劇は“生”で、消えるからいいものなんだ』というこだわりで作っている方にとっては、映像化にも抵抗があったり、さらに配信にあたっての正しい権利処理を制作が知らなかった、ということがありました。そのことで、2020年に他国と比較して日本の舞台芸術映像の配信は遅れていたとも考えられます」。

事業が発足した2020年度に収集された公演映像は1283本、配信可能となったのは293本。限られた公演日数で上演される演劇作品を、いつ、誰でも、どこでも見られるようにするための配信可能化にあたり、権利処理の煩雑さが大きな課題だったと三好さんは語る。「例えば、作品の上演と放送には音楽著作権の使用許諾が必要ですが、原盤権と呼ばれる、原盤制作者(レコード製作者)の許諾は法的に必要ありません。だから日本の舞台作品では、国内からザ・ビートルズやマイケル・ジャクソンといった海外まで、既存楽曲を比較的自由に使う慣習がありました」。

ところが配信化にあたっては原盤権利者の許諾も必須となるため、レーベルが海外にあったりすると、権利者への交渉や、コンタクトすら難しい。こうした“配信の壁”と呼ばれる、リテラシーとノウハウが必要な手続きに対し、EPADは権利処理チームを設置した。「弁護士、弁理士、権利処理専門のスタッフと、日本レコード協会、MPA(日本音楽出版社協会)、JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)といった楽曲の権利団体と連携して、楽曲の配信許諾を得るための権利処理をサポートしています」。

楽曲関係以外にも、様々な権利者が関わっているのが舞台芸術だ。「いままで無自覚に使われていたものがたくさんありました。許可を取らずに著作権の保護期間が残っている小説を原作にしていたり、翻訳者や出版社の許諾を得ていなかったり。楽曲の振付について振付師さんが権利を持っている場合もあります。創作時に知らなかったり、配信を想定せずに作ったりした作品について、権利処理チームが一つ一つ整理して、壁を越えようとしてきました」。

権利処理の標準化を目指すものではあるが、実際には作品一つ一つに、配信可能化までにクリアすべき権利処理と、それを踏まえた映像編集の判断が必要となる。事務局の三好さんは、劇団「サンプル」や「ハイバイ」で制作を務めていた経験もあり、制作現場と権利処理の間で作品の配信可能化に向き合う立場だ。

権利関係がクリアにならなかった楽曲については音声をカットするなど、配信ができるよう編集をしなければならないことがある。「アーティストが命がけで作っているものなので、私たちも切り刻みたくはない」という三好さんは、配信可能化と並行した、アーカイブ化事業の意義についても語る。

「『どんな作品でも配信しなければならない』とは考えていません。実際に収集した作品のなかには、作品の根幹に配信が難しい要素がある、だけど作品としてはおもしろい、というものもありました。アーカイブ化して、保存することにも大きな意味があります。とても過激だったりナイーブな事件を扱っていたりする作品でも、“記録すべき作品”があると考えています。また、配信の権利処理はできなくても、非営利の館内閲覧や教育利用は、法的には可能です」

■「誰もが舞台作品を見るチャンスがあるという平等性、幸せをみなさんに届けたいと思っています」

EPADのもとに集まった配信可能化作品は、国際交流基金のSTAGE BEYOND BORDERS(SBB)プロジェクトのYouTube(50本を配信開始期間から1年間、無料で国内外から閲覧可能)や、U-NEXT、ビデオマーケット、MIRAILといった映像配信プラットフォームで観ることができる。「バリエーションに富んだ作品がラインナップできるよう、意識している」そうで、2022年度は能、舞踊から漫画原作の商業作品まで広く集まった。

「ぜひ見て欲しいなと思っているのが、“劇場にその時来られなかったけど、(その作品を)観たかった人”」だと語るとおり、各種配信プラットフォームでの公開に加え、THEATRE for ALLとの連携、SBB配信動画での日本語を含めた7言語字幕など、アクセシビリティに配慮した配信により、物理的な距離をはじめ、様々な事情で劇場に来られなかった人が作品を楽しめるチャンスが生まれている。

なかでもSBBにおいてミュージカル「『刀剣乱舞』髭切膝丸 双騎出陣 2020~SOGA~」が118万回再生(※2022年11月22日現在)を超えるなど、すべての作品が舞台映像としては異例の規模の視聴数を集めた。が、視聴数のみにとどまらない手応えも感じているという。「『刀剣乱舞』には、海外からのコメントが沢山ついていて、配信のお礼や「『刀剣乱舞』を日本代表として選んでくれてうれしい!』といった反応をくれました。それを見て、日本文化の代表っていっても、いろいろな切り口があるよね、なにかがつながった感じがしました。またSBBの映像を見た海外のフェスティバルから、現地で一緒にクリエイションしたいというオファーが届いたり、台湾の学生からは上演許諾の申請が来たり、映像から始まるチャンスが生まれています」。

現在活躍する多くのクリエイターにとっても、NHKの「芸術劇場」(1959~2011)など、映像を通じた観劇体験は大きな刺激を与えてきたという。「映像すら観ることができなくても、舞台芸術の”音”を聴いていたという人もいます。誰もが東京でライブエンタメを見られるわけじゃないけど、いま見られるチャンスがあるという平等性、幸せをみなさんに届けられたらと思っています」。

上演作品の配信化は、観劇に生じたさまざまなハードルを解消し、未見の作品に出会うきっかけとなる。一方で、映像作品としての演劇公演は、あくまで「当時、上演を観られなかったかわりに」観るだけのものなのだろうか。「公演を生で観られる人は限られていること、その体験だけがすばらしいと言うのはおこがましいという前提を、私は持っています。舞台を観る権利は誰にでもある。ただクリエイターの、演劇が”生”であることを尊いと思う気持ちについても、もちろんそうだという意識もあって。『生か映像か』の二択じゃない回答があるんじゃないか?というトライアルの中に、8KとDolby Atmosでの収録があります」

公演の高品質映像・立体音響での新規収録は、2021年度から始まった事業の一環。収集作品と同様にアーカイブ化や配信可能化に加え、上映会も実施している。先日は、2022年に東京を皮切りに全国各地で公演を行ったマームとジプシー「cocoon」(初演2014年、再再演2022年)の、新規収録映像をスタジオ視聴したという。

「Dolby Atmosは、本当にすごいです。『cocoon』のその時の映像は4Kだったにもかかわらず、すごい体験でした。これは一つの別分野ができるかもしれません。もちろん現場は大変で、『三好さん、いまDolby Atmosに対応している演劇なんてないですよ』と現場のスタッフから不満を言われたりすることもあるのですが(笑)、『cocoon』の出来上がりを観ると、本当にやってよかったと思いました」と手応えを語る。

「主宰の藤田(貴大)さんに感動を伝えたら、『8Kで撮られた映像を、役者がすごく楽しみにしている』と言ってくださったんですよね。コロナ禍で公演中止や延期を経て、彼らが命がけで作ったものを残せて、本当によかったなと思います」。テクノロジーが可能にした、生の役者たちが作り上げるいまここにしかない空間を未来に残すための試みは、演劇の新しい可能性を広げている。高品質収録については、ほかにスターダンサーズ・バレエ団やこまつ座の諸作品を収録、配信可能化も予定している。

EPAD事業はこれまでに1700本の作品収集を達成したが、大規模なデジタルデバイスの摩耗が予測される2025年に向け、最終的には3000本近くを目指しているという。高品質での新規収録も含めた、「貴重なものを収集して未来に残していく」という取り組みを続けるほか、権利処理サポートについても続けていく。

さらに、事業初期から連携している早稲田大学演劇博物館に加え、今後は映像や資料を持つ他大学とも連携を視野に入れている。そこで見えてくるのは、学術や教育分野も含めた、EPAD事業の舞台芸術業界における役割だ。

「学術・非営利利用の場合でも、『ここまで利用できる』というラインが決まると、他大学の授業などで出せる映像が増えていく。その大学のなかだけで見られるのではなく、EPADという中間機関に集まることによって、使える人が増える。EPADは、ジャンクション(交差点)のような役割を目指しています。2020年から2022年にかけても少し意識が変わってきたと思うので、2025年、2026年ぐらいにはもっと意識が変わってくることを期待しています」。

取材・文/北原美那
 
   

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