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「貧困で野球を断念させたくない」…沖縄の野球少年を支援する『宮城大弥基金』が始動

ベースボールキング

◆ 猛牛ストーリー【第47回:宮城享さん】

 リーグ連覇を達成し、昨年果たせなかった日本一も成し遂げたオリックス。監督・コーチ、選手、スタッフらの思いを「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。

 第47回は、宮城大弥投手の父、享さん(54)です。経済的な理由で野球を断念することがないように、沖縄県内の幼少期から高校生までを支援する目的で立ち上げた『一般社団法人 宮城大弥基金』が、12月1日から正式に募集を開始。基金設立への享さんの思いをうかがいました。


◆ 宮城の奪三振が少年少女たちの力に

 「私たちも辛い思いをしてきましたが、いろんな方々に支えられてきました。みんながみんな、裕福ではありませんから少しでも助けになればなと」

 享さんは静かな口調で、基金設立への思いを語った。


 沖縄県宜野湾市内に『一般社団法人 宮城大弥基金』が設立されたのは、今年2月9日のこと。経済的な理由により、将来が嘱望される沖縄の野球少年・少女が競技を断念することがないよう、用具代や遠征費などの活動費を継続して支援することが目的だ。

 設立当初は野球に限らず幅広いアスリートの支援を予定していたが、「基金の方向性を明確にするため」(享さん)、最終的に対象競技は野球に絞った。

 対象は、沖縄県在住で野球を継続して志す幼少期から高校までの選手数人。12月1日から来年3月7日まで『一般社団法人 宮城大弥基金』のホームページで希望者を受け付ける。世帯収入などの書類審査のほか、競技に取り組む姿勢などを、享さんらが実際にプレーを見て判断する。

 基金の原資は、宮城の奪三振数1個につき1万円や、アンバサダーを務めるスポーツメーカー『ミズノ』の契約金を充てる予定。享さんが勤務していた『オリックス自動車』の支援も得られた。また、基金に賛同する法人や個人からの寄付(1口500円から)も受け付ける。


◆ 「大弥が今あるのも、いろんな方々の支援があったからこそ」

 基金の設立は、プロ入り前から享さんと宮城の約束だった。

 宮城家の家庭環境は、2019年のドラフト当日夜に放送されたTBS系『ドラフト緊急生特番!お母さんありがとう』で広く知られている。

 中学時代の交通事故で左手が不自由な享さん。今ほど障がいを持つ人への理解が得られない時代で就職環境も厳しく、ルーとご飯だけの“具なしカレー”が食卓に並ぶなど、苦しい家計のやりくりが続いた。

 保育園に通っていた宮城が、「野球をしたい」と与えられたのは700円のおもちゃのグローブ。小学校で入った少年野球では、つぎはぎのユニフォームでプレーしたことも。

 宮城は興南高の1年・2年時に夏の甲子園に出場。3年時にはU-18・W杯の日本代表入りを果たしたが、享さんは勤務先から給料を前借りしたり、昼間と夜間のダブルワークで遠征費などを捻出したりして、「プロ野球選手になりたい」という宮城の夢の実現に奔走した。

 「部屋が狭くて、家族で寝る時に冷蔵庫をベランダに出したりしていましたが、(貧しいことを)恥ずかしいと思ったことはありません。父が昼も夜も働いてくれていたことは、当時は知りませんでした」と振り返る宮城。

 「経済的な理由で野球などのスポーツを断念し、その後、道を外す人間を数多く見てきました。大弥が今あるのも、いろんな方々の支援があったからこそ。プロ入りが決まれば恩返ししようと2人で話していました。大弥が4歳から野球を始めたので、就学前の子供も対象にしました。基金を活用してもらって、1人でも2人でも野球を辞める選手がいなくなれば」と享さん。

 今年5月に本土復帰50周年を迎えた沖縄。1人当たりの県民所得は1989年度から全国最低が続き、子どもの貧困率は全国平均の2倍以上となる約30%だという。


◆ 郷土・沖縄への強い思い

 基金には、享さんの沖縄への強い思いが込められている。

 本土の高校からも誘いがあった宮城に、享さんは「大弥が本土の高校に行きたかったら行ってもいいけれど、もし、お前が大阪桐蔭に進学して(甲子園で)興南とぶつかったら、お父さんは興南を応援するよ」と告げたという。

 「私たちが過ごした時代背景として『本土に負けない』というのがあったんです。具志堅用高さんが活躍している時代で、あの頃の楽しみはボクシングと高校野球しかなかったんです。本土に行って戦う子供たちを熱狂して応援するんですよ」

 県民の一体感を生み、県民の背中を押してくれる存在が高校野球だった。親子の縁より郷土への思い。それほど、沖縄愛が強いのだ。


 基金の本格的スタートを受け、宮城は「一軍で投げることが前提で、1年を通して投げなければ(基金を)動かせません。何年間も続けられるようケガなくやるのがベストなので、励みになります。結果もしっかりと出して、そういうものがあると知っていただけたらうれしい」と話す。

 プロ野球選手会事務局が「選手個人がこのような基金を設立するのは初めてではないか」という今回の試み。

 就学前から高校卒業まで、最大で支援は15年近くも続く。球界だけでなく、支援の輪の広がりに期待したい。


取材・文=北野正樹(きたの・まさき)

 
   

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