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『すずめの戸締まり』は朝ドラの総集編? “すべての映画がドラマになる”が進行中

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 2時間2分という上映時間の間に鈴芽は宮崎、愛媛、神戸、東京、東北を移動するのだが、各地域に一日しか滞在していない。

 『小説 すずめの戸締まり』(角川文庫)の目次を読むと、各章のタイトルが「一日目」、「二日目」と書かれており、「五日間」の冒険と「六日目と後日談」で構成されていることがわかる。

 つまり鈴芽はたった一日で、扉を締めるアクションパートとその土地で暮らす人々との交流を描いたドラマパートを消化していくのだが、いくらなんでも過密スケジュールすぎる。朝ドラの“総集編”と書いたのは、この過密さゆえだ。

 現在の朝ドラは本放送が月~金に放送された後、土曜日に「その週の総集編」が放送されるのだが、ストーリーを優先するため、細部のディテールは削ぎ落とされてしまう。

 朝ドラの魅力は、一見どうでもいいような日常のやりとりを毎話続けることで、各登場人物や彼らが暮らす土地の魅力を丁寧に描けることだ。

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 しかし、総集編では、細部の魅力が削ぎ落とされてしまう。これは半年に一度、放送される長尺の総集編であっても同じ印象だ。

 『すずめの戸締まり』に1番感じたことは、朝ドラの総集編を観た時に感じる忙しなさである。だから本作を観ていると、尺の都合で削ぎ落とされたエピソードが、たくさんあったのではないかと想像してしまう。

 もしかしたら新海監督は、アニメでいうと2クールくらいのエピソードの脚本を作った後、ギリギリまで物語を削ぎ落としていったのかもしれない。

 樋口真嗣が監督し庵野秀明が製作と脚本を担当した映画『シン・ウルトラマン』にも、同じ手触りを感じた。

 本作は特撮テレビドラマ『ウルトラマン』のリメイク作だが、映画館で観た時は30分のドラマを5作並べて、一つの物語に圧縮して繋げた物語という印象だった。

 新海は『君の名は。』を、樋口と庵野は『シン・ゴジラ』(樋口は監督、庵野は総監督)を、2016年に大ヒットさせたが、2022年に両者が手掛けた映画が、テレビドラマのダイジェストにしか見えないことに、筆者は困惑した。

 倍速視聴やファスト映画が求められる世間の風潮に適応した結果だと言えばそれまでだが、ZIPファイルのように情報が圧縮された過密な物語は、鑑賞後に観客が解凍して行間を自ら補完し、SNS等で考察されることを前提に作られているのだろう。

 つまり、他の映像や情報に触れることで、初めて映画が完成する仕掛けとなっている。これはテレビアニメの新エピソードを劇場公開した『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』や『劇場版 呪術廻戦 0』といったアニメ映画や、各映画や配信ドラマが物語として繋がっているマーベルのヒーロー映画にも言えることだ。

 上記の作品も独立した映画というよりは、連続ドラマの一部という印象である。つまり「すべての映画はドラマになる」とでもいうような自体が映画館では進行しているのだ。ドラマ評論家を名乗っている筆者としては、歓迎すべき状況なのだろうが『すずめの戸締まり』の忙しなさがこれ以上、圧縮・加速していった時、自分は振り落とされるのではないかと不安である。(成馬零一)

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