
家に帰ると玄関先に赤ちゃんが! 独身男の不思議な体験を描く、笑えて心温まるヒューマンドラマ。※本記事は、香輪直氏の小説『君と抱く/夢想ペン作家日和』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。
赤ちゃんと過ごす二日目
そして、ここからは華ちゃんを過去の俺のところへ送り出すちょっと前のこと。
俺は十年前すごく不思議な体験をした。まだ独身だったおれは、未来の俺から娘華ちゃんを三日間預かってお世話したんだ。色々大変だったけど、今は亡きおやじさんに助けてもらいながら、なんとかお世話できた。このことは他人には話せない。ばかばかしい作り話だとか言われてそれらが矛盾だらけで理解できないだろうからだ。そんなの仕方ない、体験した俺でさえよく理解できていない。
この無謀な提案を奥さんに説明しなきゃならなくなったとき、そりゃ~大変苦労するだろうと思っていた。俺自身が過去にここにいる華ちゃんを預かった経験があるから大丈夫だからそうしよう。ってたとえ笑顔で話したって信じるわけがないだろうからな。
だから俺は過去に残しておいたはずの思い出たちを探すことにしたんだ。おやじさんが住んでいた家はいまはもう妹家族がリフォームをして住んでいておやじさんの遺品や俺の独身時代に残した物なんかは天井部屋にしまいこんであるのだった。そこを探せばそれらはあるはずだ。
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「もしもし、俺だけど久しぶり元気か? 突然で悪いんだけどさ天井部屋の物で探したい物があってさ、いつなら行っていいかな」
「あら、ひさしぶり~お兄ちゃん。天井部屋? 何を探すの?」
「ほら俺さぁ十年前に赤ちゃん預かったことあっただろ、華ちゃんね。あのときの写真を見つけたいんだよ」
「えっ、何で今頃? それに華ちゃんはそこにいる華ちゃんじゃないんでしょ……」
「あれ、おやじさんから華ちゃんのこと聞いてないのか?」
「うん、何?あのときの赤ちゃんはそこにいる華ちゃんだっていうの~?」