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アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第14回 鳥貴族

MOVIE WALKER PRESS

MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説「ピンキー☆キャッチ」を連載中。第14回は新メンバーの獲得に成功した都筑が決起集会をするも、最悪の店を選んでしまう。店を出て仕切り直しをしたい都筑だったが…。

■ピンキー☆キャッチ 第14回

偽りの楽園から解放されはしたものの、週末の新宿はどの店も賑わっている。河岸を変えようにも簡単には見つかりそうになかった。

「すみません、知り合いのBARも予約で埋まってました」

鏑木がお手上げのポーズをとる。おどけてくれてはいるが、一座の空気が徐々に重くなってきていることは全員が感じているだろう。四人は大海に放流された稚魚のように、ネオンの街を彷徨い歩いた。5軒目だったろうか、とある居酒屋に満席を告げられた時、都築は静かに目を閉じた。

“これまでか。もうこれ以上は場が持たない”

みんなには申し訳ないが出直すよりほかはない。三人はなるべく明るく取り繕ってくれてはいるが、その気遣いが今は刃物となって胸をえぐった。すると咲恵が突然「あ!鳥貴あるじゃん!ここ広いから入れるかも、聞いてきます!」と駆け出した。

「鳥貴、、、  鳥貴族か、、」

耳にしたことのある店名だ。確かリーズナブルな焼き鳥のチェーン店だったか。三島もここがあったかと後を追ったが、都築は表情を曇らせた。

「こんな店、さっきの店と大差ないだろうに。味など度外視の安居酒屋だ」

きちんとした大人の鏑木がいる手前、そうした店は避けたかった。が、幸か不幸か席は空いていたようだ。向こうで咲恵と三島が満面の笑みで大きな丸を作っている。

「行けるようですね、、。鏑木さん、もし気が進まなければ会合はまた日を改めさせてもらいますが、、」
「気が進まないって。あれ?都築さん鳥貴行ったことないんですか?」
「ええ僕はああした学生向けの居酒屋はちょっと、、」
「そうですかぁ!鳥貴初体験か!これはいいや、じゃあ行きましょう行きましょう!!」

ニヤニヤした含み笑いを浮かべながら、鏑木は都築の肩を押した。


、、、、二時間後、都築は恍惚の表情で店を出た。

「ここは神が定めた安息の地だ」

心からそう思った。個室こそ無かったが、胸高に設けられた板が美しい波状に客席を囲い、プライバシーは十分に保たれていた。都内でありながら一席一席のスペースにも余裕があった。
何よりもフードメニューに舌を巻いた。「まずはスピードメニューで」と三島が頼んだキャベツ盛はシャキシャキと新鮮で、ニンニク風味のタレが堪らなく美味かった。おかわり自由と聞き、アゴが軋むほど食べた。味付煮卵はダシの旨味が染み込んでおり、何より絶妙に煮込まれた黄身の芸術的な色合いに吸い込まれそうだった。

そして本命の焼き鳥だ。ぼんじりの溢れ出る芳醇な脂で溺れかけた。ワサビが添えられたささみ塩焼きで酒が進み、むね貴族焼きはその名を冠するのに相応しい味わいであった。咲恵が追加したつくねチーズ焼とピーマン肉詰のコンボで気が遠くなり、レバーのクリーミーな風味で我を失った。

鏑木も手慣れた様子でフェイントをかけてきた。ふんわり山芋の鉄板焼はまさに雲のような食感で、濃厚な山芋のエレベーターは瞬時に都築を天国へと運んだ。そしてとり釜飯にはジラされた。漏れ出る香りに心惹かれながらも、炊き上がるまで30分間のおあずけを受けた。そしてその期待値を遥かに上回る美味が脳を駆け巡り、横を通りかかった店員に思わず握手を求めた。

そして何より、これら全ての商品の価格が税抜319円均一である現実を理解するのに努力を要した。会計時にはレジを担当した店員と少々揉めた。立派な大人が四人でだ、これだけたらふく飲んで食って、合計が一万二千円を切るというのだ。そんな訳がない、計算し直してくれと都築は食い下がった。しかし何度計算してもその金額だった。

四人の距離は一気に縮んだ。絶妙に微妙だった距離感は美味い料理と美味い酒が砕いてくれた。帰りの駅へ向かう道すがら、鼻の穴に指を突っ込んで目を見開いた鏑木の変顔で二人が笑い転げている。都築は久しぶりに空を見上げた。新宿の街の明かりで星こそ見えないが、夜風が酔った身体を心地よく撫ぜた。そして何よりもこの店を、鳥貴族を紹介してくれたこの新メンバーが心強かった。見てくれだけでなく、ホンモノを見定める目を持った頼れる奴らだ。

「何黄昏てるんですか!」

頬にヒヤリとした缶を当てられ、驚いて飛び上がった。咲恵が氷結を持ってガハハと豪快に笑っている。

「二次会、コンビニ飲みでいいですよね。三島さんのおごりです」
「ライブギャラ入ったんで飲んでくだっさい!三千円!使っちゃおう!!」
「三島君いただきます、都築さんもほら!」

雑踏に立ってこうして飲むことなど初めてだったが、なんとも解放感があって楽しかった。酒はどこで飲むかではなく、誰と飲むかが重要である事をつくづく知った。内容の無い話で笑い転げ、結局一人3缶ずつ空けた。

「ライブギャラすっからかんだぁ!!」

足元のおぼつかなくなった三島が空に吠えるのと同時に、都築に緊急メッセージが入った。東中野に怪人が出現したとの知らせだった。しかし今日は事前に届けを出していたため、ピンキーの現場への送迎は後輩が代わってくれている。すっかり酔いの回った頭で都築は考えた。これは新メンバーに現場を見てもらういい機会なのではないかと。

「うぉい!緊急研修!!怪人が出たからさぁあ、ちょっと見に行きましょ~!」

「はい行こう!」「やっつけちゃおう!」「きゃあ怖い!!」とはしゃぎながら四人でタクシーに乗り込んだ。自分も含め、全員が泥酔状態だった。気分も良く、気も大きくなっていた。無論酒を飲んだ状態で現場に向かうなど言語道断なのではあるが、野次馬に紛れて遠巻きに見ればいいと考えていたのだ。

この時点では。
 
   

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