“アイドルとファンの恋愛”という禁断の関係がリアルに描かれている話題の小説『アイドル失格』(KADOKAWA)。そんな刺激的なストーリーを書き上げたのは、大阪を拠点に活動するNMB48の人気メンバー・安部若菜だ。最近では、アイドルとそのファンが結ばれる「推しと結婚」というワードも注目されている。現役アイドルの彼女が今作に込めた想いから、ファンとの恋愛も妄想してもらった。
――今回が小説家デビュー作ということで、出版のきっかけから教えてください。
安部 子供の頃から本を読むのが好きで、漠然と「小説を書きたいな」と思っていました。そのときに、吉本で「作家育成プロジェクト」が開催されて。自分の書きたい本を出版社の方々にプレゼンして、手が挙がったらチャンスがもらえる。私のための企画だと思って挑戦したのが始まりです。
――「アイドルとファンの恋愛」をテーマにするのはそのときに?
安部 そうですね。でも最初は、この題材にするのは抵抗があったんです。やっぱりアイドルが主人公の時点で私と重ねられると思うし、すぐに「これ実話なんじゃないの?」って言われてしまうから(笑)。ただプレゼンという場で自分を生かせて、1番引きのあるテーマは何か?ということも考えたり、アイドルが描くアイドルの小説は他にもあったりするので、どう差別化できるのかも意識しました。
◆“ガチ恋”オタクを描いた理由
――『アイドル失格』という本のタイトルもキャッチーですね。
安部 タイトルにはわかりやすく「アイドル」というワードを入れたかったのと、太宰治の「人間失格」から取ったんです。「アイドル」と「失格」というかけ離れた言葉を結びつけるのが面白いと思って、1番しっくりきたものを選びました。
――今作では、地下アイドルグループのセンター・小野寺実々花、そして彼女を推す大学生の吉野ケイタの視点が入れ替わりながらストーリーが進んでいきます。ケイタを普通のオタクじゃなく、“ガチ恋”オタクにした理由は?
安部 ファンの方を見ていて、誰しもが推しと付き合いたいと思っているわけではないですし、逆にそういうことを考えていない人のほうが多くて。その好きの方向性が同じものを見てるなかで、“ガチ恋”に変わるのが興味深いなって前々から思っていたんです。読んでもらったファンの方からは、「ケイタに共感し過ぎて読んでるとツラい……」って声も結構ありました。
――執筆にあたってNMB48の活動だったり、二次元キャラにガチ恋した自分のことも落とし込みながら書かれたそうですが、実際に誰かに話を聞きに行ったりはしなかったですか?
安部 それはなかったです。でも、あまり知らないグループのオタクのツイッターを読み漁ったりはしてましたね(笑)。“ガチ恋”の定義ってフワフワしてて、「好き!」っていうだけかなと思ったんですけど、ツラさもあるんだなっていうのがすごく印象に残りました。確かに私もアニメのキャラが好き過ぎたときは毎日泣いてたんですよ。
――それはどういう思い?
安部 だって、こんなに好きなのに絶対叶わないじゃないですか。なんで好きになったんやろ……って。そういう推し活の一喜一憂の部分も作品に反映させました。
――ほかにこだわった箇所はありますか。
安部 ファンとしてライブを見に行くシーンです。書いていて楽しかったし、筆が進みました。実際にアイドルのライブを見に行って、そのときの感動をそのままぶつけた感じですね。私もアイドルが好きだから、オタク心理は書いていて楽しかった。
◆現役アイドルが考えるファンとの恋愛
――二人が惹かれ合い、揺れ動いていくシーンは一緒に泣きながら書かれたとか。
安部 実々花とケイタが下北沢のお店で最初に出会うシーンは1番時間がかかりました。やっぱりアイドルがファンに会いにいくってすごいハードルの高いことじゃないですか。どんなことがあったら、その行動に辿り着くんやろうっていうのはずっと考えていましたね。一見、立場が違うように見える二人の間で通じるものを感じ取ってもらえたら嬉しいです。
――実際に大阪だと街中でファンとばったり会うとかも?
安部 全然ありますね。1回地元のスーパーで声を掛けられたことがあります(笑)。油断した格好をしてたのでめっちゃ恥ずかしかったです……。上下ジャージの頭ボサボサで買い物してたら、「安部若菜ちゃんですよね!」って声を掛けられたんで、パニックになりながらアイドルのスイッチを急いで入れました。
――安部さん的にはファンとの恋愛はありですか? なしですか?
安部 最近は「推しと結婚」が流行っていたりするから、憧れはあります。推しとして好きだった存在が、恋人や夫婦になったりするのは素敵なことだと思うし、どうやってそこに至るんやろうっていう興味がありますね。でも自分がファンの人とっていうのは考えたことがなかったです。
――今年でアイドル5年目、年齢も21歳ですもんね。
安部 まだ結婚を考える時期じゃないっていうのもあるんですけど、私がファンの人と知り合う機会があったとしても、幻滅されちゃう気がして逃げちゃうと思います。いつもメンバーから「私服がダサい」って言われるし、昨日も「I‘m Fine!」って書かれた靴下を履いてるのが見つかって総ツッコミされて(笑)。そうなると気も抜けなくなるし、無意識にアイドルのスイッチをずっと入れないといけないのは大変かなって……。
――ファンだけに限らないですが、最近だと現役アイドルが交際宣言したり、結婚してもアイドルを続けていたり、アイドルの恋愛も多様化していますが安部さんはどう感じますか?
安部 多様化は悪いことではないと思いますし、アイドルの結婚とかには賛成ですね。今までは何かを捨てないとアイドルになれなかったりしましたけど、カタチが変わってもアイドルを続けられる時代になってきてますよね。ファンの立場としては、結婚はイヤ!っていう方もいると思うんですけど、アイドルを続けてくれることが1番嬉しいことだと私は思っているので。今まではなんでそうなってなかったやろうっていうぐらい自然に受け入れています。
――例えば、安部さんがその選択をしてもファンの方は変わらないと思う?
安部 もちろん年齢とかキャラクターにもよると思うんですけど。もし私が30歳までアイドルをしていて結婚したら、それは一緒に喜んでくれるのかなって思いますね。
――SPA!でも「アイドルと付き合う方法」っていう下世話な特集があったりしますけど、取材するとなかなか上手くいかないパターンが多いんですよね。
安部 アイドルが隠して恋愛するっていうのは上手くいかないと思うんです。とくにファンとの恋愛って1番叩かれることですよね。だから結婚も長いことアイドルをやってきた人だからこそ出来ることなのかなって。これが2、3年活動して急に「結婚します」って言われても真面目じゃないように見えるというか。アイドルを真剣に10年ぐらいやってきて、土台があれば受け入れてもらえることかなって感じてます。
――48グループではまだ前例がないです。
安部 だから、いつか結婚してもアイドルっていう現役メンバーが生まれるかもしれないですよね。もしそうなったときにどんな反応になるのか想像もつかないですし、見てみたい気はしてます。
◆次はアイドル以外の題材で
――漫画化や映画化のプレゼンもされたそうですが、この本が広がっていくほど、ご褒美も豪華になりそうですね。
安部 あまり物欲はないので、旅行に行って、その土地の美味しいものをたくさん食べたりしたいです。あとは、NMB48劇場が地下にあって陽が当たらないから改修工事とか(笑)。メンバーとかスタッフさんがすごい応援してくれたので、NMB48のために使いたいです。
――次回作の構想はありますか?
安部 なんとなくのネタは書き溜めているんですけど、アイドル以外のことを書いてみたいですね。今回は少し重たいテーマでしたが、ほのぼのしたことが好きなので大阪を舞台にした小説を書いてみたいです。
取材・文/吉岡 俊 撮影/後藤 巧
アイドルとファンの恋愛を現役アイドル・NMB48安部若菜が描く
2022年11月26日