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離婚寸前の夫に内緒で外泊。翌朝、女のスマホを鳴らした意外な人物とは

東京カレンダー

『20代のうちに結婚したほうがいい』

一昔前の価値観と言われようとも、そう考える女性も少なくはない。

そんな焦りにとりつかれ、30歳目前でスピード婚をした広告デザイナー・穂波。

しかし穂波は、すぐに後悔することになる。

「なんで私、焦ってプロポーズをうけてしまったんだろう」

私にふさわしい男は、この人じゃなかった――。

◆これまでのあらすじ

颯斗とも、一樹ともうまくいかないという現実に、穂波は自暴自棄になっていた。そのとき、颯斗から「不快な気持ちにさせるかもしれないけれど、言いたいことがある」という旨のLINEを受け取る。

▶前回:「彼女には、内緒ね」男にセカンド扱いされた女は、怒りのあまり…



「颯斗が私に言いたいことって…なんだろう…?」

一樹が出社した後のしんとした部屋に、不安げな穂波の声が響く。

颯斗からの次のLINEは、すぐに届いた。

颯斗:実は、先週の月曜、正式に佐奈と別れたよ。

「へえ。なんだ、そんなことか」

穂波はハーブティーを飲みながら、つぶやいた。

颯斗と佐奈は、なんだかんだで別れないと思っていたから驚くが、わざわざ報告される筋合いもないように感じる。

― もう颯斗のことは、たぶん、好きじゃないし。

穂波は、颯斗をまだ恨んでいた。抱かれたのになびいてもらえなかったあの日の屈辱は、簡単には消えない。

返事もせずLINEを閉じかけたとき、ふと気づく。

「あれ、先週の月曜って…」

月曜といえば、朝から佐奈にLINEをもらった日だ。

オパールのヘアゴムの忘れ物について聞かれ、颯斗に恨まれるのは面倒だから「自分のではない」と嘘をついた日。

― ということは、もしかして…颯斗と佐奈が別れたのって、あの忘れ物が原因?

佐奈は、ヘアアクセサリーを見て颯斗の浮気を知り、本気で別れたいと思ったのかもしれない。

「もしそうなら、かわいそうなことをしたわ」と同情したとき、颯斗から、追加のLINEが来た。

颯斗:で、話があるんだけど、今から電話できる?

― え。別れたって報告以外に、まだ用事があるっていうの?

颯斗はこの直後、電話越しにまさかのセリフを口にする―。


電話をつなぐと、颯斗は開口一番、まったく面白くなさそうに笑った。

「はは、佐奈にフラれて1週間も寝込んじゃったよ。なんも手につかなかった。佐奈、ものすごい形相で、別れたいって言ったんだよ」

適当に相槌を打ちつつも、「話」をもったいぶる颯斗を、もどかしく感じた。

「佐奈と別れた話はもういいわ。興味ない。言いたいことってなに?」

「あ、うん。もし気を悪くしたら、すぐに電話を切ってくれていいんだけど」

「…なに?」

颯斗は、急に口ごもった。30秒ほど経っても、何も言ってこない。

「え、なに?私、そんな暇じゃないんだけど」

本当はかなり暇だが、それは別の話だ。

「用があるならさっさと言って?」

「ごめん。あのさ…俺と一緒にいてくれない?これから、隣にいてくれないかな?」

「えっと…それは、恋人としてってこと?」

「そう。そのために、2人で会って話がしたい。今夜、会えない?」

「…もしかして、私のことバカにしてる?都合のいいこと言ってる自覚は、ある?」

穂波は突き返した。

― 別れたからって、私を誘うの?

まるで心の穴を埋める道具と思われているみたいだ。不愉快極まりなかった。

「…ありえないから」

「そう言うと思った。…でも、なんだかすっごく、穂波に会いたいんだよ」



一方的に電話を切り、「ありえないから」ともう一度つぶやく。

― 佐奈の穴埋めのために、私をアサイン?失礼もいいところね。

またしてもプライドが踏みにじられ、怒りが湧く。気持ちを抑えるために穂波は部屋を出て、リビングで深呼吸した。

「ふう…」

そのとき目に入った光景に、穂波はすっと血の気がひくのを感じる。

朝のリビングが、いやに色あせて見えたのだ。

カウンターキッチンの上で積み重なっている、テイクアウト容器の残骸。リビングテーブルに置いたイッタラ製の花瓶は、随分前から空っぽのままだ。壁のカレンダーは、夫婦の予定がないせいで、10月のままになっている。

満たされた生活の気配はまるでなく、部屋のあらゆるディテールから、不幸が滲み出ていた。

「なんていうか…嘘みたいな部屋ね」

穂波は今まで、自分は確実に幸せになる人間だと思って生きてきた。持って生まれた美貌と頭脳。類まれなるセンスに、運。

だからこそ、目の前に横たわっている不幸が、とても現実のものとは思えないのだ。

― さっきの颯斗の発言もありえないけど…私の今の状況のほうが、ずっとありえないか。この状況からどうにか抜け出すには、どうしたらいいの?

「あ」

穂波は、思いついた。

― 今の颯斗からの電話って、もしかして…私の幸運が引き寄せた、チャンスなのかな?だったら、賭けてみようかな。

突然の思考の転換に、穂波の口角はすっと上がった。

さっそくスマホを手に取り、颯斗とのLINEトークを立ち上げる。

穂波:やっぱり今夜、会おう。仕事、何時に終わるの?



「18時に東京駅で仕事が終わる」という颯斗の予定に合わせ、穂波は18時半にタクシーで駅前に到着した。

タクシー乗り場の脇に、ブラウンのコートを着た颯斗が立っている。

「穂波…来てくれて、本当にありがとう」

「来ただけだからね。別に、彼女になるとか、まだ言ってないから」

言いながら無造作に颯斗にバッグを押し付け、コートを羽織る。

颯斗の姿を近くで見た途端、2種類の感情がせめぎあった。不幸な現実から連れ出してもらえるのではないかという期待と、自分を都合よく扱ってくることへの不満。

モヤモヤした思いのまま連れて行かれたのは、夜景の見える焼肉レストランだった。

焼肉を堪能しながら穂波は、徐々に心の中の不満が消え、期待が膨らむのを感じた。

なんでもない話が、疲れるくらいに笑える。互いに5杯のお酒を飲むうちに、あっという間にコースは終わってしまった。

― なんか、すっごい楽しかった。

「ごちそうさまでした。あーめっちゃ笑ったわ。しゃべりすぎてしんどい」

「ね。穂波といると、本当に楽しいや」

店を出て、東京駅に向かって歩き出す頃には、自然に颯斗と肩が触れ合う距離になっていた。

「穂波さ、聞いていい?」

「ん?」

「今、旦那さんとはどうなってるの?離婚するって話は進んでるの?」

「んー。ほぼ離婚してるよ」

「それはつまり?もうすぐ正式に離婚するってこと?」

「ま、そんな感じ」とごまかす。

離婚の話は、なにも進んでいないというのに─。


「じゃあ、俺、旦那さんのことは気にしないで、堂々と穂波を誘ってもいいの?」

穂波は、酔った頭を回転させた。

一樹との離婚自体は、問題ない。ただ、離婚の理由が自分の浮気になるのだけは避けたいと思う。

「うーん。タイミング的に、旦那にはまだ知られなくないかな」

― だって、財産分与があるからね。

あくどいことを考えながらも、木々のイルミネーションに目を奪われるふりをした。

「キレイだね」

「ね」

穂波は無言でイルミネーションを見つめた。自分の顔が、イルミネーションによって美しく映えていることを意識しながら。



「ああ…今日の穂波、本当にきれいだな。なんか、緊張する」

「そう?」

「うん。今日会ってみて、俺、やっぱり穂波と一緒にいたいと思った。…つまり遊びじゃない。わかってくれる?」

穂波は気分がよかった。こんなにいい男から、愛を懇願されている。その事実を噛みしめる。

「俺さ、今日穂波ともっと一緒にいたい。でもさすがに、帰らなくちゃだよね?」

「…帰らなくてもいいよ」

― 大丈夫よね。一樹には「花苗の家に泊まります」とでも、嘘のLINEを入れておけばいいし。

「え、本当に?良いの?」

「本当よ」

不意打ちのキスをすると、颯斗は照れてうつむいた。穂波は上気した頬で「寒いねぇ」とその腕にしがみつく。



ホテルのスイートルームで目覚める朝は、最高だ。

9時。

真横には、美しい颯斗の寝顔。大きな窓から朝日が部屋中に満ちて、深いベージュの絨毯を照らす。

穂波は体を起こすとすぐに、昨晩ベッドの中で颯斗から言われたことを思い出した。

「明日、丸一日デートさせて」。

平日だというのに、颯斗は今日、仕事を休むのだという。ということはきっと、今日どこかで正式に告白をされるのだろう。想像するだけで、満足のため息がもれた。

― さて。一樹は、どうしたかしら…。

ようやく思い出してLINEを見るが、返信は何ひとつ来ていなかった。「花苗の家に泊まります」の嘘のメッセージは、既読スルーされている。

― ふーん。急な泊まりにも、もう無関心ってわけか。ま、都合がいいや。

自由な気持ちになった穂波は、スイートルームを堪能するべく、ひとり朝のバスタイムを楽しむことにした。

大きなバスタブにお湯を張り、端に温かい紅茶を置く。のんびりとInstagramを見ながら最高の気分にひたっていた、そのとき―。

画面いっぱいに表示される着信画面で、のびやかな時間が、突如破壊される。

穂波は一瞬、ついに一樹から催促の電話が来たのかと思った。

しかし、事態はもっと最悪そうだった。

画面には、「花苗」の2文字が表示されていたのだ。

― え、なんで花苗から電話なの?ちょっと…いやな予感がする…。


▶前回:「彼女には、内緒ね」男にセカンド扱いされた女は、怒りのあまり…

▶1話目はこちら:スピード婚は後悔のはじまり…?30までの結婚を焦った女が落ちた罠

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花苗からの電話。おそるおそる出てみると…


 
   

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