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東京という巨大な街の渦へーアカデミーへも美術の世界へも飛翔できない現実を抱えて

幻冬舎ゴールドライフオンライン

淀んだ溜め池を臨む作業場(アトリエ)の窓辺にたたずみ、修作は過ぎ去った日々にとりとめなく思いを馳せる。幼き日の不安定な境遇、高校・美大受験での挫折、実らずに終わった恋愛の数々、職業生活の蹉跌——常に生きづらさを抱え、愛を求め続けてきた半生を振り返り、狂おしく紡ぎ出されるモノローグの中、修作は改めて思い至る。文学、美術の創造行為のみが変わることなく自身の救いであったことに。※本記事は、森下修作氏の小説『ノスタルジア』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。

中日頃、はじめて来訪者が、修作にあった。沢辺が近づいてきて、

「速水という人が、お前を訪ねてきた」

とそう耳うちした。

「ああ……」

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「批評家の知り合いか?」

「いや、そうじゃない、ちょっと、以前に……」

「なんだ、批評家かと思ったよ」

「いやちがうんだ」

沢辺はかたすかしをくったように、仲間のほうへと歩いていった。その名前には覚えがあった。だが、見に来てくれてありがとう、との連絡を結局とらなかった。いやとれなかった。

速水さんとは、ひょんなことから、借家に帰らずに一月以上も共に速水さんのマンションで生活しながら、連絡先を控えることもしていなかった。

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