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作曲AIは音楽家の仕事を奪わず、“地位”を向上させるーーagehasprings・玉井健二とPARTY・梶原洋平が語り合う「AIと創作」

Real Sound

玉井:僕は音楽制作を俯瞰で見るポジションを多くやっていることもあって、メロディーを作るのがすごく早いので、サクッと作って、「これでアレンジしてみて」と渡したりもしてきました。ただ、それを数十人だけに渡すのであればなんとかなるのですが、いまは関連各社含め抱えているクリエイターの数が数百人規模になっていることもあって、僕の手が回らなくなってしまうという問題も発生してしまったんです。そんなとき、クリエイターがアレンジ力を上げる教材として、作曲AIを使うことはできないかと考え、AIについて勉強したり、詳しい人に教えてもらっているうちに、FIMMIGRMの原案となるイメージができました。

ーー梶原さんはどのような経緯で『FIMMIGRM』の開発に関わることになったのでしょうか?

梶原洋平(以下、梶原):僕は元々ミュージシャンだったのですが、その時のバンドがソニーからメジャーデビューするタイミングで、玉井さんにプロデュースしていただく機会があったんです。その後バンドは解散しましたが、幸運にもスタッフとしてagehaspringsにジョインさせていただくこととなり、色々と勉強させていただきながら、お仕事させていただいていました。

 その後、テクノロジー関連の会社に入ったあとも、ずっとお仕事をご一緒させていただいていたのですが、玉井さんから作曲AIの開発に誘われたことで、このプロジェクトに参加することになりました。

 ちなみに僕がその話をいただいたのは、いまのようにAIが話題になり出したタイミングより5年ぐらい前ですね。そのころ、海外では弁護士の判例や医師のガン判定にAIが使われることが話題になりだしていましたが、当時の段階で作曲AIを作るという玉井さんの発想はめちゃくちゃ進歩的な発想だったので、その話を聞いた時にすごく驚きました。でも、専門家のノウハウにはAI化しやすいという面もあるので、玉井さんが持っている作曲ノウハウは、AI化にピッタリだと思いました。

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〈「ピアノの誕生でオーケストラの仕事は減らず、リズムマシンでドラマーは忙しくなった」〉

ーー『FIMMIGRM』の開発にあたって、どんなことが課題になったのでしょうか?

梶原:玉井さんのノウハウをAI化するにあたって、一番重要なのはそのノウハウを数値化することです。また、AIに学習させる際にどういった学習データを選ぶかということも課題のひとつでした。音楽の良し悪しは数学的に説明することが難しく、仮にその説明が感覚的になってしまうと数値化が困難になるからです。でも、玉井さんは歌詞や曲の内容を説明する時の理論立てが非常に明確に構築化されているのはよく知っていたので、AIモデルを数値理論化しやすい状況だったのは大きかったです。

ーー開発が完了するまでにはどのくらいの時間がかかったのでしょうか?

梶原:AI自体が学習を始めてからはすぐに育った印象があります。とはいえ、途中で学習データとなる楽曲を絞り込む必要があることがわかり、開発を始めてからそれなりの形になるまでには、大体1年くらいかかりました。

玉井:セレクトは僕がやりましたが、すごく時間がかかったし……そういうことから逃れるために始めた作曲AIの開発なので、そこは非常につらかったです(笑)。ただ、膨大な数の曲をその場のバイブスと空気で選曲していったこともあって、自分の中で曲を体系立てて整理していく時間にもなりました。

ーー曲を体系立てて整理していく時間になったとのことですが、その時にどんな気づきがありましたか?

玉井:1番は「文化の違いとはなんぞや」ということですね。たとえば、英語圏と非英語圏の音楽の違いはリズムにあります。その時にリズムが改めて大事だということに気づきました。

 よく、いまの若者が映画やドラマを倍速で見るという話を聞きますが、僕らの世代ではかつてそれはありえないことでした。でも、カルチャーの根源にはリズムがあって、それがずっと人間の歴史が続く限り進化していく。だから、その先を予測することはもうやめた方がいい、と思うようになりました。実際に最新であることを考え始めた瞬間、それは最新ではなくなるんです。

 そう考えると、音楽を作るにしても、いつかそれが一周することを信じてその時々の最高を目指す方がいい。無理にそういうものについていったり、その先を目指すよりも本質的に良いと思えるものを作れる方がずっと大切なんです。あとは自分がそれを信念を持って実現できる人間であれば、それでいいという確認が出来ましたね。

ーー『FIMMIGRM』では一度購入したトラックを他の人が購入できなくなり、独占使用できるという特長がありますが、今後、その曲と似た曲が生成される可能性はないのでしょうか?

梶原:基本的に『FIMMIGRM』が作る曲は、特別な技術によって同じ曲は二度と生成されないようにプログラミングされています。とはいえ、AIが音とリズムを組みわせて曲を生成する仕組みなので、その組み合わせによってはもしかしたら何億分の1の確率で似た曲ができてしまう可能性もあります。そういうことも想定して、リスクをいかに減らすかということを念頭に置きながら開発しています。

ーー以前、ビートルズの楽曲をAIが機械学習し、ビートルズ風の曲を作った際には「AIが作曲家にとって変わる」という懸念がありましたが、今後、作曲AIが普及していくことで、AIとクリエイターの関係性はどのように変わっていくと思いますか?

玉井:作曲AIの話になると、よくみんなそのことを言いますが、そういう“人間に取って代わると言われるもの”は昔からあったと思います。たとえば、ピアノなんかはまさにそれです。でも、ピアノができたからといって、オーケストラの仕事が減ったわけではないし、リズムマシンができた時もドラマーの仕事はなくならず、なんならドラマーが引っ張りだこになっているぐらいですから。作曲AIによって、なんらかの変化はおきますが、その分だけ競技人口の増加も起きると考えています。その視点で考えると、僕は逆に音楽を作る人の価値がむしろ上がっていくと思いますね。

 たとえば、世の中に自分のオリジナル曲を持っている人はほとんどいません。一方で自分が撮影した写真や動画は持っている。それはプロの技術が無くても簡単に撮影できるツールがあるからこその話であって、もし同じようにオリジナル曲が簡単に作れる作曲AIがあれば、写真や動画のようにオリジナル曲を持っていることが当たり前になっていくと思います。

〈誰もが音楽を作れてしまう世界における「ヒット曲」とは?〉

ーーでは、AIが作曲するようになったとしても、人間の作曲の仕事自体がなくなることはないと?

玉井:そう思いますね。そもそもAIがビートルズっぽい曲を作れたとしても、人間がビートルズっぽいと判断する要素には、メロディーのみならず曲の構成、アレンジ、歌唱法などいろいろあると思います。そういう人間にしか嗅ぎ取れないところで音楽が判断されるのであれば、当然人間が作った方が有利なんですよ。だから、AIは人間の仕事を奪う存在ではなく、ピアノと同じように一家に一台ある身近なツールになっていくと思います。

ーーなるほど。そうなればプロかどうかは別として、結果的に自分で音楽を作ったり、アレンジする人の数自体は増えていきますね。

玉井:オリジナル曲を当たり前に持ってる人が爆増することで、僕らの価値もどんどん上がる。そして音楽に対する評価も適正化すると思います。つまり、現時点でもなんとなく「作曲できる人はすごい」と思っている人は多いと思いますが、なんとなくではなく、どういう作曲がすごいということが、よりみなさんに理解してもらいやすくなる。僕らは『FIMMIGRM』を通じて、そういう世界を作ることも同時に目指しています。

ーーもし、AI作曲によって誰もがオリジナル曲を持てるようになり、自分の好みに合わせて作られた音楽を聞くようになる時代がやってくるとしたら、その時代に生まれるヒット曲はどのようなものになると思いますか?

玉井:おそらく曲に対する”新しい”とか”古い”という評価は少なくなると思います。それは上の方から降ってくるカルチャーを待ち望んでいた時代特有の概念なので。その代わりに”なんか好き”とか”なんか良い感じ”といったような感覚的な評価が今以上に増えていくはず。だからこそ、自分で曲を作ったことがある人が増えた方が僕らにとってはいい。

 ここの部分に関しては、欧米とアジアではその感覚的な捉え方がちょっと違うと思っています。これはどっちがいいとか悪いということではなく、単に違うというだけですが、英語圏向けに曲を作った時は、その曲がなぜ、そうなったのか理由を聞かれることがすごく多いんです。でも、その反面、曲が売れているかどうかやジャンルだけで判断される市場もたくさんあります。

 ただ、どの音楽も基本的には誰かの思いをツールを通して形にしたものなので、そこに何かの思いはあったはずです。だから、今後はその思い自体が好きか嫌いかという感情にもっとフォーカスして音楽の価値が問われることが増えていくとすれば、それはむしろほんとうに優秀な音楽クリエイターにとって良い時代の到来だと思います。

ーーテクノロジーが進化することで人間の感情に立ち返ることができるということですね。

玉井:そうです。だからこそ、実は作曲がそういう意味ですごくクリエイティブなことだと気づく人が増えると思いますね。そして、それに気づかせてくれたのがAIだ、という話です。

ーーそういう意味ではAIが作曲家の仕事を奪うかもしれないという懸念は、杞憂でしかなかったと……。

玉井:作曲AIの開発前には実はいろいろな業界の先輩たちに相談しているんですよ。でも、大半の方から「お前はなんてことをしてくれるんだ!」と嫌な顔をされました(笑)。その時に、人間にとって当たり前だと思っていたことが変わることに対する恐怖は、どんな世界にも必ずあるんだなと思いました。

ーー実際に作曲AIをプログラミングしていく側の梶原さんとしても、これが人間の仕事を奪うことになるかもしれないという懸念はなかったのでしょうか?

梶原:まったくありませんでしたね。テクノロジーはそもそも不可逆なものですし、人間は必ず便利な方に流れていきます。そして、それは巻き戻せないし、誰かがやらなくてもそういうことはいずれ起こります。

 それに、いまはこれまでPCを開いて見ていたメールがスマホで見られるようになったり、以前よりも便利になったことも多い。だからといって、みんながそれで暇になったかというとそうではなく、逆に忙しくなった気がします。

 さっきのクリエイターの人口が増えるという話と同じで、音楽の場合もAIを使うことで便利になってくると、それで新しい仕事が増えて、音楽クリエイターももっと忙しくなると思います。

玉井:そういうことが起きた時にみんな「今回は特殊だ」という言い方をしますが、強いて言えば、今回のことで特殊だなと思うのは、オリジナル曲を誰もが持てるようになるという意味で、『FIMMIGRM』がある種のゲームチェンジャーになり得るということです。

梶原:音楽の場合はそういったことが起きるのが、ほかの分野と比べて遅いのですが、例えば、いまはVR空間で自分の好きな服を着せるなどしてオリジナルのアバターを誰もが作れるようになりました。そういう習慣が広がっていくと音楽の分野でも、誰もが自分で聴くためのオリジナル曲を持つようになるし、それが次のスタンダードになっていくと思います。その意味では、いまのうちに土壌を整えておくためのツールが『FIMMIGRM』だと言えますね。

玉井:それと、そもそも作曲家ではない人が作ったボーカロイドなど、新しいソフトやプラグインができるたびに、それを自分が使うことに対する後悔があるんですよ。だからAIが作曲できるということがわかった時は、絶対に自分で作ろうと。音楽クリエイターによる音楽クリエイターのためのツールは、もっとあってもいいと思います。

 あと、ファッションの分野で自分のデータを入れるだけでサイズや色などを指定しなくても瞬時に自分に合った商品が作られて届くサービスがあります。そういう時代に、音楽だけなにも変わらないままでいいのか?という疑問もあって。だから、そのまま変わらないでいると、音楽は進化していくクリエイティブに置き去りされてしまうだろうし、実際にそうなった時に取り戻すのがとんでもなく大変だと思うんですよ。そういうことを避けるという意味でも『FIMMIGRM』のようなツールは今後、求められていくと思います。

〈「ストリートから出てきたものは、プロから最初は馬鹿にされてきた」〉

ーーこれまでに『FIMMIGRM』を使ったことがあるユーザーからは、どのようなフィードバックがありますか?

梶原:使っていただいたユーザーさんからは「すごく面白い」と言ってもらえることが多いですね。ただ、1番多いのは、やっぱり著作権周りのことに関する質問です。そこはいつも慎重に対応せざるをえないので、権利関係に詳しい弁護士の先生に監修をお願いしています。

玉井:著作権に関して言わせてもらうと、それが確立される論理的根拠になっているのは人権なんですよ。身分の違いに関わらずその人が作っていることを証明してあげる権利が著作権の由来ですが、人間が作ることが前提になっているので、AIが作ったものにはそもそも曲が生まれた瞬間に著作権という概念はありません。だから、「著作権はどうなりますか?」という質問が来たとしても、著作権とはこういうものだから、それは自分で決めてくださいと開発側としては言えます。

 逆に言うと、そこを自分で決められるというのが、これから出てくる新しい概念だと思いますね。クリエイター側が著作権を持つかどうか決められるので、ネットに公開して歌い手さんに「自由に歌ってください」とあらゆる意味で堂々と言えるし、受け取って歌う側もその後に問題になるような懸念を感じなくて済むなど、メリットはやはり大きいと思います。

梶原:そういったことができる『FIMMIGRM』を使って、みんなに素材をたくさん提供する人が出てきたり、それを使ってミックスだけする人も増えていくと思います。そうなればおもしろいですね。

ーーカスタム可能な素材を提供していく人が増えていけば、二次創作で終わらずn次創作として次々に繋がっていく流れもできそうですね。ちなみに今後は、グローバル展開も予定されているのでしょうか?

玉井:そこに向かわないと意味がないし、『FIMMIGRM』が世界中で1番使われている作曲AIになってほしいです。それと、曲を自分では作れない人が、なんらかのフリー音源に自分の歌を入れる形で発表したものを、いざメジャーレーベルが出そうとすると権利処理が大変です。そこをクリアできるのも『FIMMIGRM』の強みなので、意外と早い段階でビルボードチャートに入るようなヒット曲が生まれるかもしれません。

梶原:どの分野でもこれまでストリートから出てきたものは、メインストリームのプロから最初は馬鹿にされていました。音楽業界でいえば、ヒップホップやシンセを使った曲はそういうものでしたが、そこからヒットが出ればその評価は変わります。だから、まったく曲を作ったことがないけど、センスのいい人が『FIMMIGRM』を使ってヒット曲を出してくれると、僕らとしても嬉しいです。

ーー最後に改めて、今後、追加したい機能などを含めて『FIMMIGRM』の展望を教えてもらえますか?

玉井:普段の仕事でも「夏っぽい曲をお願いします」とか、ニュアンスでリクエストされることがあるので、今後はそういったかたちでも曲を作ることができる機能を追加するなどしながら、アレンジやサウンドデザインの部分でもう少し緻密かつ多岐にわたって作る曲を選べるようにする予定です。それと『FIMMIGRM』と関連したサービスを作って、やれることも増やしていきたいです。

梶原:いまはあらゆる人に使ってもらえるようにしたいということで、動画クリエイター向けにチューニングしていますが、今後はなるべく使いやすい導線や仕組みを実装しながら、より作曲に絞ってチューニングしていこうと思っています。それとアレンジもワンクリックするだけで自動である程度のクオリティまで持っていけるようにしたいと思っています。(取材・文=Jun Fukunaga)

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