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「もう無理…」夫と久々に密室でふたりきりに。そのとき男が放った衝撃のひと言とは

東京カレンダー

「女の敵は女」

よく言われる言葉ではあるが、これは正しくもあり間違ってもいる。

女同士の友情は感情が共鳴したときに仲が深くなり、逆に感情が衝突すると亀裂が生じ、愛情が憎しみへと変化する。

この亀裂をうまく修復できなったとき、友人は敵となる。

だが、うまく修復できればふたりの仲はより深いものになる。

ここに、性格が正反対のふたり女がいる。

ひょんなことから東京のど真ん中・恵比寿で、同居を始めたことで、ふたりの運命が回りだす…。

◆これまでのあらすじ

諒子とマリは、大学の同級生同士。ひょんなことから再会し、現在は同居中。そんな中、諒子は学生時代に恋仲だった男・錠との仲が復活する。同居するマリとも、ぶつかり合いながらも、仲を深めていた。諒子は公私ともに順調で……。

▶前回:離婚間近の35歳女が向かったのは夫以外の男の部屋。その驚きの口実とは?



Vol.8 笑顔の裏には…


各所との調整に難航したものの、錠の脚本は、なんとか撮影までたどり着くことができた。

「これが、俺の書いた台本か…」

初めて自分の名前が入った撮影台本を手に、錠も感慨深げだ。

「錠おめでとう。やっとデビューだね」

諒子は、錠と恵比寿のフレンチ『アムール』で決定稿完成のお祝いをしていた。

撮影準備は忙しいが、せっかく錠との仲が軌道に乗ってきたのだ。この機会を逃すわけにはいかない。

都会の喧騒を忘れるような、緑あふれる一軒家レストラン。

フランス語で“愛”を意味する店名が表す通り、大安吉日のこの日の店内は、ほとんどが男女二人組であった。

― カップルばかり…って、私たちもそのうちの一組なのよね。

今さらながら、諒子は実感する。17年前からずっと好きだった人とやっと付き合えたことを。

仕事も順調で、もう何も欲しいものはない……と、思いたいところだが、幸せを得るとどうしても『それ以上』を求めてしまうのは人間の性だ。

幸せそうな笑顔でサーロインを頬張る錠を見つめながら、諒子の頭によぎる想いがあった。

それは…。

― 私、錠と結婚したい。


大学卒業後、わき目もふらず仕事に没頭し、マンションも購入した諒子。

だが、ずっとひとりでいいと思っているわけではなかった。

ファミリータイプの部屋を購入したのは迷いの表れ。将来の結婚を意識してのことだ。

退去することを想定しても、買い手がすぐつくよう、少々背伸びした人気物件を選んでいる。

今はマリと一緒に住んでいるが、彼女のことだから離婚が正式に決まり、新しい男を見つけたらすぐ出ていくだろう。

― でも私、年齢もギリギリ…早く決着つけなきゃ。

もし結婚するなら子どもは絶対欲しい。

いくら価値観が多様化しているといえども、結婚して子どもを持つことが諒子の幼い頃から刷り込まれた夢なのだ。

諒子はいま、仕事で目標に達しつつある。

さらに女としての幸せも、すべて手に入れる――。

そんな新たな野心が芽生え始めていた。

― 相手に不安はあるけど、私がしっかりしていればいいんだからね…。



その夜、諒子は恵比寿の自宅には帰らず、錠とシティホテルで一夜を過ごした。

互いに仕事が山積みということもあり、翌朝はブランチのあとそのまま別れ、帰宅する。

これ以上ない幸せに包まれて乗り込むタクシーの中で、諒子はマリにどんなノロケ話をしようか胸を躍らせた。


愛するふたり、別れるふたり


「ただいまー」

玄関に入るなり、諒子は声を上げた。

きっと、マリは「どうだった?」とニヤニヤしながら出てくるだろうと予想していた。

― あれ…?

何も応答がない。

玄関でマリの靴を確認すると、その隣には巨大なバレンティノのスニーカーがあった。

白沢のものだろうか。本人談だが、彼とは「イイ感じ♡」だと聞いている。

― 家主の私が気を使って外でお泊まりしてきたというのに…。

こうなったらギリギリまで帰宅がバレないように驚かせてやろうと、抜き足差し足で、廊下を歩く。

「…、…」

マリの部屋の前からは、か細い声が漏れ聞こえる。

― ああ、最悪!

なりを潜めるのもバカらしくなった諒子は、部屋の壁をドンと叩き、わざと自分の存在をアピールした。

「すみません!」

するとすぐに、やたらとガタイのいい大男が出てきたのだった。



「あっ…」

濱口海斗。マリの夫の現役メジャーリーガーだ。

そういえばシーズンが終了し、日本に帰国したという報道を昨日のネットニュースで見た。

会う、というか見たのはマリの結婚式以来だ。

「マリをよろしくお願いします。お邪魔して申し訳ありませんでした」

丁寧にお辞儀をした海斗は、それでも諒子の身長よりまだ高い。

「あ、はぁ……」

圧倒され、諒子は言いたいことも忘れてしまう。

海斗はそそくさと帰っていってしまった。

「なんだ、濱口選手を呼んでいるなら教えてよ…。サイン欲しかった」

動揺しながらも、わざと冗談めかして部屋の中にいる彼女の姿をのぞいた。

「来ないで!」

モノトーンを基調としたNYスタイルの都会的なマリの部屋のインテリア。

その中に、今まで見たことのない彼女の姿があった。


部屋の隅では、マリが泣いている。

ピンク色に染まった瞳。

そのまわりは腫れぼったく、まるで二重整形のダウンタイムのような顔だ。

「ごめん、マリ…。何があったの」

何があっても、満面の笑みでいるマリのいつもの姿はそこにはなかった。

学生時代を思い返しても、こんな様子の彼女を見たことない。

「何かされた?」

「いいから、ひとりにさせて」

心配だったが、諒子はその言葉に従う。

無理に問い詰めるより、そっと自分を立て直してもらってからのほうが、マリのプライド的に良いような気がしたからだ。



― 大丈夫かな…。

マリのことが気が気でない諒子は、自分の部屋でなく、リビングで仕事をし、彼女が部屋から出てくるのを静かに待つ。

なかなか仕事の手も進まないまま、窓の外が薄暗くなったころ――。

マリが部屋から突然出てきた。

「おっと、びっくりした。大丈夫?マリ」

「ロウリーズ行かない?肉食べたいんだけど」

マリの声はいつもと違って、低く、そして枯れていた。



電話すると席があるということで、早速ドレスアップしてガーデンプレイスに向かう。

アメリカが本場の『ロウリーズ・ザ・プライムリブ』。

マリが在米時、海斗とディナーでよく行っていたという。

一番分厚いカットの骨付きローストビーフと、アラカルトをいくつか。マリは目に付いたものを片っ端から注文した。

「ちょっと、こんなに食べられないよ」

テーブルいっぱいに並べられた料理の数々に、諒子は唖然とする。

「そう?いつもこんな感じだったけど」

そりゃ、野球選手と行けばそうなのだろう。マリの無計画さに呆れ、冗談交じりに指摘する。

「海斗さんと同じペースでこんなに頼んでもね。自分の食べるものだけ頼めばよかったのに」

「そうだね。彼は、もういないんだ」

彼の名前が出た途端、マリの顔は歪んだ。

「あ、ごめん……」

諒子の謝罪に首を振り、しばしの沈黙の後、彼女はか細い声で呟いた。

「今日ね、正式に離婚した。彼、部屋に入ってくるなり”離婚しよう”って。最後までゴネたけど、やっぱり駄目で」

その言葉に、諒子は驚いた。

「マリ、まだ再構築しようとしていたんだ……。新しい出会いを求めていたりしていたから、てっきり」

「気休めに決まっているでしょ」

「ま、そう、だよね…」

明るさを保ちつつも、時折声が裏返るマリ。言葉の奥に隠された様々な想いを諒子は察した。



「でも、なんで離婚に?ずっと仲良かったんでしょう?」

「うん。そうだけど……愛ゆえよ。私の悲しむ顔、見たくないって」

「…へ?」

質問の答えとして意味が通じていない。思わず聞き返してしまったが、その曖昧さでピンときた。

― まさか、海斗さんが浮気して…とか?

だが、そんなことを今にも折れそうな状態の彼女に尋ねることはできなかった。

そしてマリはいきなり明るい声を上げる。

「濱口改め、藤本マリ!諒子の住む独身の国に戻ってきました!」

完全に情緒が不安定だ。ただ、気持ちはわかる。

「ちょっと、声大きいって」

いさめながらも、やれやれといった気持ちで諒子は静観することにした。

マリの明るさは自分の弱さを隠すため。だからといって無理をしているわけでない。

彼女にとって明るく装っている方が精神的に楽で、気分を上げる手段でもある。

そのことは、諒子は今までの付き合いでよく理解した。

諒子は彼女に合わせ、つとめて明るく肉を食らう。知らぬ間に、くだらない話で笑いあっていた。

― 彼女のこと、大嫌いだったはずなのにな。

マリといると、なぜか笑いが絶えない。

こんな夜がこの先もずっと続くよう祈る自分がいた。


▶前回:離婚間近の35歳女が向かったのは夫以外の男の部屋。その驚きの口実とは?

▶1話目はこちら:35歳独身女がセレブ妻になった同級生と再会。彼女が放った高慢なひと言に…

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マリの隠された弱さに気づいた諒子。彼女を元気づけるためにしたこととは


 
   

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