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桃太郎は半グレだった? 京極夏彦らが集めた「ひどい民話」が本当にひどい

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 民衆の間で口承されてきた物語である「民話」。その中でも選りすぐりの下品かつ適当な話を紹介し魅力を語り合うトークライブ『ひどい民話を語る会』が、このたび書籍化。10月28日にKADOKAWAより発売されている。

参考:京極夏彦が語る、妖怪と世相の関係性 「災厄が過ぎ去って、平時がもどって、やっとお化けは活躍できる」

 出演者の一人である小説家・京極夏彦が序文で曰く、〈その昔――ネットもゲームもテレビもラジオも漫画本も小説本もなーんにもなかった時代。歌や踊りを除けば、娯楽コンテンツの王者は「話」でした〉。そんな時代の爺さん婆さんが囲炉裏端で子供たちに物語を聞かせる時は、話を盛るわ誇張するわ不謹慎だろうと気にしないわ、その場のウケを最優先していた。そして生まれた「ひどい民話」のバリエーションの一つ、というか多くを占めるのが、ウンコやオナラを小道具として使ったシモネタ話である。

 「雁取り爺」に出てくる爺さんはオナラを我慢するためお尻に栓をした状態で、なぜか屋根で寝ている。結局我慢できずにオナラは出てしまい、尻から発射された栓は雁に命中。大喜びで雁汁を作る。その様子を見ていた隣の婆さんは羨ましがり、自分の家の爺さんにも同じ事をやらせようとする。ところがいざ真似をしてみると、オナラで噴射された栓は下に飛んでいき、婆さんに命中。婆さんは死んでしまったのでした。めでたしめでたし、でもなければ何の教訓もない。

 笹の葉で切れた玉袋から落ちた、爺さんの金玉。それが親鶏に温められ、フンヌケフー(腑抜け)と鳴く鶏の産まれる「篩(ふるい)借り」。爺さんのイチモツに止まって捕らえられた雀を婆さんが雀汁にしようと煮たところ、味見で全部平らげてしまい、変なオナラの出るようになる「屁こきばあ」。嘘の上手な小僧が両親に悪戯を咎められ川に流されそうになるも、嘘を駆使して脱出。最終的に両親の方が小僧によって川に流される「嘘つき小僧」などなど、本書で紹介されるひどい民話は、馬鹿馬鹿しいだけでなくシュールだったり人でなしだったり、どこか味わい深かったりもする。

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 ひどい民話には、話の面白さ以外にも醍醐味がある。その一つが、同じモチーフから生まれたバージョン違いのひどい話の収集である。たとえば昔話の代表格である「桃太郎」は、よく知られている展開と異なる話が各地に伝わっている。桃太郎が山に行って取ってきた巨大な松の根っこで家を破壊してしまい、鬼を退治せずに話の終わる「山行き型」もあれば、半グレの桃太郎が家を追い出されて仕方なく鬼退治に行くパターンもある。屋根から便所に爺さんの服もしくは本人が落っこちて、婆さんが洗濯に行くという尾籠な前フリの付いた「厠の屋根葺き型」も、桃を食べて若返った爺さんと婆さんが桃太郎を産む「回春型」もある。本書で指摘される、まともな桃太郎の出てくる話は意外と少ないという事実から、良いのか悪いのか、人にも物語にも無限の可能性があるのだと気付かされる。

 もう一つ醍醐味といえるのが、物語の緩さだ。本書に収録されているコラム「対子供の民話テクニック」(黒史郎)によると、〈唐突に始まって尻切れトンボで終わる話や、途中かなり端折ったな、とわかる話など、明らかな“欠落”の見てとれる民話がたまにある〉という。民俗学者が採集した民話は、高齢の人から聞いたものも多い。何十年も前に記憶していた話を完全再現などできるはずもなく、欠落部分は当時の語り手によって飛ばされてしまった可能性がある。また毎晩子供に「何か話して」とせがまれた大人が、くたびれて話を省略したり、規模を縮小した場合もある。こうした大人の事情の産物かもしれない欠落が、話に妙な引っ掛かりをもたらすのである。

 「福は寝て待て」で早起きの爺さんは権現様にお参りしに行く途中、犬の死体を見つける。〈せっかく犬が死んでいるんだから〉と拾い、それをまだ寝ている朝寝の爺さんのところに持って行って投げる。すると死体は小判になって寝ている爺さんは福を得たのでした、めでたしめでたし。

〈「せっかく死んでいる」という部分は、黒さんが作ったわけではなく?〉(村上)
〈そのいい回しは僕が作ったかもしれないですが、でもそういう感じの話でした(笑)。〉(黒)
〈「せっかく」の部分付いていなかったら余計おかしいよ。犬、死んでいたから持ってくって、そもそもおかしい。〉(京極)

 このように欠落部分を考察する中で、語り手による話のアップデート疑惑が浮上するスリリングな場面を、本書では目撃できたりもする。

 読書の秋に名作を読みすぎて、〈物語って出来すぎていると面白くないんです〉(京極)なんて境地に達した人は、ひどい民話で気分転換もいいかもしれない。

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