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妻が高学歴でないことに不満を抱く東大卒の夫。息子の小学校受験前、ついに最低な一言を放って…?

東京カレンダー

「結婚しない男女が増えている」と言われる昨今。しかし東京の婚姻率は人口1,000人当たり5.5%で、なんと全国1位を誇っている。(※『令和2年 東京都人口動態統計年報』)

特に「東京都区部」と呼ばれる東京23区は、その中枢を担っているのだ。

ただ、結婚すればそれだけで幸せなのだろうか?

東京23区内は、エリアによって生活している人たちの特徴が全く異なり、価値観や悩みも違う。

それぞれの区に生息する夫婦が抱える、苦悩や問題とは…?

▶前回:「もう、ここには住んでいられない…」タワマン高層階に住むセレブ妻が、力なくつぶやいたワケ



受験戦争に巻き込まれる千代田区夫婦/愛美(36)のプレッシャー


「晴翔、もうそろそろかな…」

息子が通う幼稚園の駐車場に車を停めた私は、小さくつぶやいた。

お迎えの時間になるまで車内で待機していた私は、スマホから顔を上げ窓を開けてみる。すっかり冷たくなってきた空気を吸い込むと、肺のほうまでヒンヤリするような気がした。

晴翔の受験が迫っている。

正確に言うとまだ1年あるけれど、もう1年しかない。11月頭くらいから、1個上の年長組さんの受験結果が続々と聞こえてきた。

「確実に受かる」と言われていた子が落ちたり、意外な子が受かっていたり…。

― あぁ、晴翔はちゃんと受かるのかな。

こればかりはどうしようもないのかもしれない。でも母として、やれることはすべてやってあげたいと思うのが親心。

ただ私は息子の合格を願うと同時に、万が一晴翔の受験に失敗したら、夫の家族から何を言われるのかわからないという恐怖のほうが大きかった。


「ただいま~」

20時を回る少し前、夫の雄二郎が帰宅した。

「おかえりなさい」

いそいそと玄関先まで迎えに行き、スーツの上着を受け取る。そして夫が着替えている間に、用意しておいた料理をダイニングテーブルの上に並べた。

四番町にある今の家は、結婚する際に雄二郎が購入したものだ。とはいえ、彼のご両親がかなり援助してくれたけれど…。少し古いが窓を開ければ風通しが良く、私はこの家が好きだった。

「今日の晴翔はどうだった?」
「うん。元気だよ」
「いや、そういうことじゃなくて…」

私と話しても埒が明かないと思ったのか、少しイラ立ったような顔をした雄二郎はすぐに晴翔へ声を掛ける。

「晴翔、ちゃんとお勉強はしたのか?」
「したよ〜」



雄二郎のご実家は、彼の曽祖父に当たる代から貿易関連の会社を営んでいる。

お父様の代でだいぶ土地を売り払い「実家が狭い」なんてよく嘆いているけれど、それでも未だに200平米弱の家を三番町に持っているのだ。

そんな彼の家には、ある無言のルールが存在している。

― 男は黙って、東大へ。

それが暗黙のルールだった。女の子なら、下から聖心女子か東洋英和。男の子なら、暁星から東大へ。

私の知る限りお父様はもちろんのこと、雄二郎の叔父様も、お兄様の雄一郎さんも全員このコースだった。そこに例外は存在しない。

「晴翔、来年は受験なんだから。ちゃんと勉強しないとダメだぞ」

そう言う夫の声がかなり険しいことに気づき、私は乾いた絶望感と緊張感に打ちひしがれる。

「雄二郎さん。晴翔の受験のことなんだけど…」
「うん、どうした?」
「もし万が一、失敗したらどうするの…?」



千代田区には、名門と呼ばれる有名公立小学校がたくさんある。

特にこの番町エリアにある番町小学校は、港区にある青南小学校や白金小学校と並んで「名門公立小学校トップ3」と名高い有名校だ。

番町小学校へ入るために、わざわざこのエリアへ引っ越してくる人も多い。

それだけではなく、番町小学校から麹町中学校。そして日比谷高校からの東大という公立のエリートコースが、ここ千代田区番町だと叶う。

だからこそ「必ずしも晴翔を私立へ行かせなくてもいいのでは?」という思いがあったのだ。

「別に公立でもいいのかなって…。こんな小さいうちから、窮屈な思いをさせるのがかわいそうで。晴翔にはもっと伸び伸びと、受験とか気にせずに育ってほしいなとも思うの」

でもそんな私の思いは、雄二郎の一言でかき消された。

「何を言ってるの?そんなの、ありえないでしょ」


「そもそもさ…。こんなこと愛美に言っても仕方のないことだし、言いたくないけど」

普段は大人しくて、口数が多い方ではない雄二郎。しかし今日は夕飯にビールを出したせいか、いつもより饒舌な気がする。

「ほかの家庭はさ、妻側にもある程度学があるから…」

夫の言葉に、耳のあたりが熱くなる。直接は言わないけれど、私の学歴や出身に対して不満があることはずっと前から知っていた。

「別に今さらだし、いいんだけどね」

と彼は言うものの、心の底から納得しているわけではないのは明白だった。

雄二郎の周りにいる友人の奥様は東京出身者が多く、聖心女子学院に白百合学園。そして雙葉に東洋英和と、名門お嬢様校出身の女性ばかり。

一方の私は大学まで地方にいたので、関西の特に有名でもない外大を出ている。家柄も関西では中の上かもしれないけれど、東京に来たら全く通用しないレベルだった。



「それは…。ごめんなさい」
「…いや、こっちこそごめん。別に愛美は悪くないんだけどさ」

実は雄二郎のご両親が、私との結婚を反対していたことも知っている。そして未だに義両親から、妻としても母としても認められていないような気もしている。

「ごめんね。私が東京のお嬢様学校出身じゃなくて」

私は食洗機を使わずに、水量を多めにして食器を洗い始めた。悔し涙が夫にバレないよう、背を向けながら…。



それから2週間後。

「ねぇママ。東大ってどういうところ?」
「えっ?」

晴翔を幼稚園へお迎えに行き、息子を車に乗せたところで突然そう聞かれ、私は驚いてしまった。

正直、私にはわからない。なぜなら行こうと思ったこともないし「東大は日本で一番賢い大学だよ」くらいしか言えることがないから。

「パパもお爺様も、叔父様もみんなが通った大学だよ」
「ふーん、そうなんだ。じゃあ僕もそこに行く!」
「えっ!?晴翔も、東大に行きたいの…?」
「うん!だって、なんかカッコいいじゃん」

晴翔のキラキラとした目を見つめながら、私は涙が込み上げてきた。なぜなら母親である私が、息子の可能性を一番に信じてあげられていなかったと気づいたからだ。

私は、晴翔がお受験に失敗することを極端に恐れていた。もし不合格にでもなれば、夫や義両親に責められることは間違いないから。

だから“お受験=かわいそうなこと”だと勝手に決めつけ、受験から逃げたいとさえ思っていたのだ。

息子は、こんなにもお受験に前向きだったというのに。

「…そっか。じゃあ今度のお休みの日、パパに聞いてみようね」
「うん!」

『No.4』の近くに車を停め、朝食用のパンを購入する。賑わう店内から出てきた私は、グルッと周囲を見渡してみた。



ここ千代田区は古くからの名門校が多く、教育熱心な家庭がかなり多い。区としても、教育環境の整備に力を入れているように思う。

また23区の中でも緑が多い街なので、伸び伸びと過ごしやすい場所でもある。

そんな千代田区で受験戦争に巻き込まれ、嫁姑問題に巻き込まれ…。古い家のしがらみの中でがんじがらめになり、自由を奪われた気でいたのだ。

晴翔が生まれてからは「子育てに専念してほしい」と言われたので、仕事も辞めた。専業主婦なんて嫌だなあとも思ったし、古い家のしきたりに辟易したりもした。

でも考えてみれば、こうやって息子と伸び伸び過ごせる時間と場所がたくさんある。これはある意味、最高のギフトだ。

何より雄二郎のご実家や、彼自身が頑張って稼いできてくれるからこそ、安心して暮らしていける。

「おうちに帰ったら、パパにありがとうって言おう!」
「わかったー。でもなんで?」
「いつもありがとう、って言うだけでいいから」
「はーい」

多くは望まない。ただ家族と子どもが幸せでいてくれたらそれでいい。

少し遠回りをして、皇居の周りを車で走ってみる。春には咲き誇るであろう、綺麗なピンク色の桜の絨毯を思い浮かべながら…。


▶前回:「もう、ここには住んでいられない…」タワマン高層階に住むセレブ妻が、力なくつぶやいたワケ

▶1話目はこちら:大金持ちの彼にプロポーズされた瞬間、なぜか絶望した女。2カラットの指輪も貰ったのに…

▶NEXT:11月28日 月曜更新予定
港区から絶対に出たくない妻


 
   

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