男と女は全く別の生き物だ。それゆえに、スレ違いは生まれるもの。
出会い、デート、交際、そして夫婦に至るまで…この世に男と女がいる限り、スレ違いはいつだって起こりうるのだ。
—果たして、あの時どうすればよかったのだろうか?
できなかった答えあわせを、今ここで。
今週のテーマは「結婚2年目。夫の帰宅時間が、連日急に遅くなった理由は?」という質問。さて、その答えとは?
▶【Q】はこちら:「夫が、帰ってこない…」結婚2年目。妊娠を望む妻に対し夫が帰ってこない事情
木曜の17時。仕事の合間に一応、妻の絵梨花にLINEを入れる。
― 俊:ごめん、今夜も遅くなります!
結婚前の僕からしたら、だいぶ進歩だと思う。なぜならそもそもLINEなどの連絡が苦手だったから。
でも結婚してからは、「遅くなるなら、ひと言でもいいから連絡してほしい」と絵梨花から言われたので、僕なりに早めに連絡するようにしていた。
結婚して約2年になる。妻が子どもを欲しがっているのは知っている。
でもここ最近、僕は早い時間に帰宅できていないし、日曜以外妻と話す時間はほとんどない。
申し訳ないとは思っているけれど、僕がいつも遅いのには理由があった。
A1:自粛期間中に付き合い始めたので妻は知らないが、本当は飲みに行くのが大好き。
絵梨花と出会ったのは2年半前のこと。きっかけは、知人の紹介だった。
というのも飲みに行くことが好きだった僕だが、自粛期間中は大人数での食事会なんて夢のまた夢のような状態で、仕事以外の時間を持て余していた。
それと同時に年齢も32歳になり、結婚に対しても真剣に考え始めていた。
そんなタイミングで紹介された絵梨花。ただすぐに会うことはなく、先にLINEをつなげてもらう…という新しい形だった。
だから僕たちは最初の1ヶ月間、LINEでずっと会話をしていたのだけれど、その時点で結構気が合うなと思っていた。そして最初に会った時、「この人とずっと一緒にいるのかも」と思った。
だから二度目に会った時、僕のほうから「結婚を前提に交際してほしい」と申し込んだ。でも直感は正しくて、今でも絵梨花と結婚できて幸せだと思っている。
順調に交際がスタートとした僕たちだが、ある日絵梨花に不思議な質問をされたことを覚えている。
あれは付き合って3ヶ月目くらいだったと思う。六本木で映画を観た後にカフェでお茶をしていると、絵梨花が急に真顔でこんなことを聞いてきた。
「変なこと聞くけど、俊って浮気したことある?」
「どうした突然?ないに決まってるでしょ」
「そっか…。なら良かった」
これは本当のことだった。僕は浮気ができるような器ではない。
「ご存じの通り、僕そんな器用じゃないし。そもそも、2人同時進行とか大変じゃない?」
「そこなの?もっと倫理的な観点じゃなくて?」
「いや、そこも大事だけど(笑)。純粋に面倒だなと思って。だって気力も体力もお金も2倍使うことになるんだよ?」
世の中には平気で浮気をする人もいるかもしれないけれど、僕はしない派だった。なぜなら本当に面倒だから。1人の女性を相手にするだけでも大変なのに、その労力が2倍になるなんて信じられない。
「絵梨花はできる?」
「私は浮気なんてしないよ、絶対に」
「でしょ?僕も同じだよ」
もしかすると、あの時彼女は僕の浮気を疑っていたのだろうか?なぜなら後々、LINEの返信についても怒られたから…。
「俊、どうしてLINEの返事をくれないの?」
日曜日。僕の家のソファでゴロゴロしていると、昨晩から泊まっていた絵梨花が僕に対してスマホを突きつけてきた。
「え?ごめん!既読つけたから、それが返事のつもりだったんだけど…」
既読がつくのは便利な機能で、生存確認ができる。それだけではない。僕の中では既読マークをつけた時点で返信のつもりでもあった。
だが絵梨花は納得いかない様子で怒っている。
― …やばい。また同じパターンかな。
実は以前に交際していた彼女たちも、毎回このパターンで怒っていた。僕の返信が遅いとか、大事にされている気がしないとか…。そういうことを毎回口うるさく言われ、相手が愛想を尽かすか、僕が嫌になってしまうことが多かった。
でも絵梨花は、違った。
「いいよ、わかったよ。じゃあ既読ついたら、“了解”ってことね」
「絵梨花ありがとう〜!!」
― こんなありのままの僕でいいんだ…!!
そう思い、僕は絵梨花との結婚を決意した。そしてプロポーズをし、交際わずか半年で籍を入れた。
A2:単純に仕事や他の付き合いが忙しい。妻に甘えている。
しかし結婚してから、色々と状況が変わってきた。まず半年後に、僕は営業部に異動となった。
「絵梨花、これからすごい忙しくなるかも」
「そうなんだ。頑張ってね」
その言葉に偽りはなく、本当に忙しくなってしまった。必然的に接待が増えて帰りも遅くなる。
しかもタイミング的にコロナの自粛ムードが緩み、会食以外の付き合いも増えていった。
けれどもそれに、絵梨花は納得していない様子だった。
僕はもう出社していたけれど、絵梨花はリモートワークが続いており、毎朝僕だけが家を出ていく。
朝、律儀に玄関までお見送りをしてくれる絵梨花。そのことは嬉しかったのだけれど、この日絵梨花の機嫌が悪かった。
「俊、今日も会食なの?」
爽やかな朝。頑張って仕事に行こうとする僕の背中に、絵梨花の不機嫌な声が刺さる。
「うん、クライアントさんから呼ばれちゃって…。コロナ明けて、一気に会食が復活したって感じ。でもさすがに今夜はもう飲みたくないな」
ここ連日、さらに会食が増えていた。週末の友人との飲みは好きで行っているけれど、別にクライアントさんとの飲みは進んで行きたいわけではない。仕事だ。
でも絵梨花は懐疑的な視線を僕に投げかけてきた。
「今日で何日連続?」
「今週は水曜からだから、3日連続かな」
「あのさ…私ももうすぐ35歳だし。子どもとか考えてる?」
「ん?も、もちろん」
考えていないわけではない。でも最近忙しいし、時間的余裕がなかった。
「毎晩帰りも遅いし、どこで何やっているんだか…」
たしかにここ最近、平日は仕事の接待で、週末は友人たちとの飲みやゴルフが入っており、家のことがおざなりになっているのは否めない。でもこれも付き合いだ。
「絵梨花。僕は仕事してるんだよ?毎晩、接待だって言ってるよね?」
「わかってるけど…」
「朝から喧嘩したくないから、もう行くわ」
なんとも言えない思いを抱えたまま、僕は家を出た。
ただこの日、僕は色々と考えた。
そもそも絵梨花と出会ったのは、自粛期間真っ只中のこと。外食をしたくでもできなかったし、友人たちと自由に飲むことも許されていなかった。
だが僕は本来飲み歩くのが大好きで、独身時代はほぼ毎日外でご飯を食べて、近くの行きつけのバーに寄ってから家へ帰っていた。
だから僕からすると普段通りなのだが、絵梨花はこういう僕を知らない。
― こっちが本当の僕なんだけどな…。
そう思いながらも、絵梨花にもっと時間を割くべきだとはわかっている。
コミットが足りなかったと思う。いつまでも独身気分でいるわけにもいかない。
だから僕はスケジュールを見ながら、せめて毎週日曜は絵梨花のために時間を割こうと決めた。
そして早く帰宅できる日に、マークをつけた。
「ちゃんと努力しよう。夫婦なんだし」
そう思いながら。
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2022年11月20日