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吹雪の中に15時間…寒さと飢えが襲う「地獄の苦しみ」の記録

幻冬舎ゴールドライフオンライン

かつて、国内開発を目指したFSX(次期支援戦闘機)。現在、日米共同開発が進められている。本書は、著者の終戦の日の思い出から、航空自衛隊の技術、航空産業、そして国防への思いが綴られている。航空自衛隊所属の技術者として歩んできた著者にしか書くことができない書であると言える。現実の社会情勢も踏まえ、国防のあり方を分析し、FSXなどの知見を現役技術者、自衛官に継承する一冊。※本記事は、山田秀次郎氏の書籍『コントレイル』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。

【前回の記事を読む】数日間の入念な検討…「型通りの判断を許さない」天気との戦い

鹿島槍への道

二十八日

以下は、この日のアタックメンバーの一人である村田光明君の記録である。

私達は十二時、南槍の頂上に立った。猛烈な吹雪だった。

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黒部よりの雪片は、ヤッケに当たり顔を刺した。ミトンは稜線に出た瞬間、ガチガチに凍り、その形は押してもたたいても変わらなかった。マツゲは真っ白いつららとなり、そこには微笑んでくれる祝福もやすらぎもなかった。風と雪と寒さと飢えだけだった。私は逃げ帰ることしか考えていなかった。

その朝、四時半に我々は小雪が降ったり止んだりの中を、テントを出発した。停滞のⅭパーティーの声援に送られて。彼等は我々のために、昨夜十時の天気図を作り、今朝の一時より食事を作ってくれた。前方のかすんだ雪稜の上に、サポートのBパーティーの灯がぼんやりと浮かんでいた。その灯は、深い雪のためにともすると止まりがちであり、左右にゆっくり揺れていた。

国境稜線は吹雪だった。風と雪が黒部より吹き上げて、音を立て、ヤッケに当たりオーバーズボンをたたいた。右の雪庇に気を付けながら、腰から胸までもある吹き溜まりの中を黙々と進んだ。

やっと冷池小屋。屋根が出ているだけ。森林の吹き溜まりの中で、震えながら私達はカンパンをかじった。魔法瓶のココアを飲んだ。暖かいものといえばそれだけだった。

小屋からは登り。ピッケルで雪を崩し、固め、這うようにして一歩ずつ登った。足元より雪はくずれ落ち、地獄の苦しみ。唯、アリのようにのろのろと進んだ。

やっと平、また斜面。布引岳までの森林の中を腰まで、時には首まで埋まりながらこれまたやっと進む。ラッセルが無くなってホッとする間もなくまた吹雪、荒れ狂う風と雪の音のほかは、自分の激しい息遣いだけ。その時私の頭の中にあったものは、あと一歩前進すれば、あと一歩行けばという気持ちだけだった。

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