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「タワマンには興味ない!」子ありでも“港区在住”にこだわる32歳女たち

東京カレンダー

人生のステージが変わるたび、女の友情はカタチを変える。

そしてドラマの舞台も…。夜の港区から、昼の港区に変わるのだ。

20代は深夜の西麻布で、30代は昼の麻布で。女たちは時に嫉妬し、時に優越感に浸る。

これは大人になった女たちが港区で繰り広げる、デイゲーム。

◆これまでのあらすじ

共通の知人の結婚式で、7年ぶりに優子と菜々緒に再会したサトミ。同い年の子どもがいる優子を早速家に招待するが…。

▶前回:夜遊び仲間の“悪友”に7年ぶりに再会。環境が変わっても女の友情は成立する?



ママ友になっても終わらないマウント合戦


「おじゃましま~す」

友達の優子が娘を連れて、六本木にある我が家にやってきた。

先週、共通の知人の結婚式で7年ぶりに再会したのをキッカケに、うちでランチをすることになったのだ。

ママ友がほとんどいない私の平日の息抜きは、もっぱらSNSの投稿や動画編集。

Instagramは3万人のフォロワーがいるので、投稿しがいがある。でもYouTubeの方は鳴かず飛ばずで、なかなか再生回数が増えない。

だから、たとえ自宅であっても友達とランチするのは気分転換にもなるのだ。

「簡単なもので申し訳ないけど」

私はそう言いながら、チーズや生ハムやフルーツのお皿をテーブルに置き、シャンパンで優子とグラスを合わせた。

「サトミの子とうちの子、小さいのがふたりいるの可愛すぎる~!」
「ね!たくさん写真撮ろっ」

1歳0ヶ月と、1歳1ヶ月。月齢1ヶ月違いの赤子がふたり並ぶ姿は、予想以上に平和な光景だった。

優子の娘は人見知りで最初は泣いたものの、すぐに慣れて、息子と一緒に積み木を触っている。

そんな微笑ましい光景を見ながら飲むお酒は、最高だ。ひとりで飲むより全然楽しい。

やっぱり優子を誘ってよかった。この時は心からそう思っていたのだが…。


「サトミ、子どものごはんを温めるのに、電子レンジ借りてもいい?」
「もちろん」

優子がレンジを使った後に、私も息子のごはんを準備する。

それぞれが我が子の食事に意識が向いているなか、優子が口を開いた。

「サトミは港区に住んでると思ってたよ。ずっと憧れてたもんね…。昔から彼氏を選ぶ基準も、どこに住んでいるかを最重視してなかった?」

― えっと……?



優子は、何が言いたいのだろう。

「別に、そんなこともないけど」

天然なのか、わざとなのか…。彼女は時々こういうことを言う癖があるのを私は思い出した。

20代の頃なら、ピシャリと言い返して優子を黙らせていただろう。

だけど、今はけんかをしたくない。7年ぶりに再会したのも何かの縁だし、同い年の子どもがいるのだ。

ただ、言われっぱなしなのも癪に障った。

優子夫婦は、結婚後すぐに有明のタワーマンションを購入したという。それを自慢したいのだろうか。

― 一言だけ言っておくか…。

「去年の頭に麻布十番から六本木に引っ越したんだよね。子どもが生まれたあとも、この辺なら子育て環境も充実してるし徒歩圏内で息抜きできるところに行けるし、飽きないだろう、って。夫が」

私は笑顔で言い、優子が口を挟む前にさらに続けた。

「優子が住んでるところって周辺にショッピングモールしかないし。それもなんだか、ね…」
「それって、有明ガーデンのこと?あそこ、すごく便利だよ」

― 便利とかそういうことじゃないっての。

優子はその後、自宅のマンションの豪華さや、広さを自慢し始めたため、空気はさらにピリついた。

マンションに共用のラウンジや散歩道、トレーニングジムがあり、子どもが遊べるキッズフィールドもついているらしい。広さも2SLDKで、確かにうちよりも広い。



我が家の1LDKの部屋は55平米で、家賃は28万円。タワマンでもないし、豪華な低層でもない。

夫は経営者だが、立ち上げて間もない事業はまだ軌道に乗っていないし、私は専業主婦。

夫の収入で言えば、港区の中では、下の方だと思う。それでも、家賃の高い港区にこだわる理由は見栄なんかではない。

安心するのだ。見慣れた街や、洗練された人が多いことや、サービスのレベルの高さに。

優子はそれをわかっていない気がした。

息子はすでに離乳食の中華丼を食べ終わっていて、麦茶をストローで上手に飲んでいる。

「ただいま~」

優子との会話が途切れたタイミングで、ドアが開く音と低い声が廊下から聞こえ、私は顔を上げた。

「あ。パッパ!パッパ!」

夫の帰宅に気づいたのは、私よりも息子が早かった。

事務所で何本か打ち合わせがあると外出した夫が、なぜか昼過ぎに帰ってきたのだ。


「どうしたの。こんなに早く」
「先方が昨日会食で飲みすぎたらしく、リスケになっちゃって。誰か来てるの?」

夫には、昨日も今朝も優子が遊びに来ることを伝えているのに、聞いてないのが丸わかりだ。

「サトミ。私、帰るよ。そろそろお昼寝の時間だし」
「待って優子、全然まだいてくれていいんだけど…」

そう言っている最中に、優子の娘は彼女の腕の中でスヤスヤと眠ってしまった。

優子は、どうしようか迷っているようだ。それを見た夫が声をかける。

「優子さん、こんにちは。よかったら娘さんが起きるまで飲みませんか?僕はまだ仕事が残っているので、スマホで人と連絡取りながらになっちゃうけど」
「えっと、じゃあお言葉に甘えて…」

せっかく子どもが寝てくれたのに、今帰るのはもったいないと思ったのだろう。

優子が子どもをリビングに寝かせ、3人で飲み始めようとした時だった。

「サトミ、私の主人も来たいって言ってるんだけどダメかな?ちょうど連絡がきていて…」

優子の夫は在宅ワークなのだが、仕事がほぼ終わっていて、すでにタクシーを呼んでしまったらしい。

私は断る理由もなく、息子がこぼしたご飯を拭きながら了承した。





「じゃあ、改めてかんぱ~い」

リビングで寝ている子どもたちを起こさないよう、私たち4人は小さな声で乾杯した。

「あれ?今日、菜々緒ちゃんはいないんだ。結婚式の後は一緒だったんでしょ?」

開口一番に優子の旦那さんが言う。名前は平蔵というらしい。

「平蔵さん、菜々緒と知り合いなんですか?」
「うん。うちの会社から仕事を依頼したことがあるんだよ。この前の結婚式の話を聞いて判明して」

優子の旦那さんはエンジニアで、菜々緒はWEBザイナーだから、確かにそんなことがあっても不思議ではない。

「東京はこんなにも人がいるのに、つながるところではつながるから面白いよな」

私の夫がビールを飲みながら言うと、皆うなずいた。

その後、会話が弾み和気あいあいとした空気が流れ、優子と私も、いつの間にか笑顔で話せるようになっていた。

「優子、そろそろ僕たちは帰ろうか」

気づくと17時を回っていて、窓の外は暗くなっていた。

「そうだね。ごめん、サトミ。ずいぶんと長居しちゃった」
「ううん!全然。またすぐ会おうよ。今度は菜々緒も一緒に」

優子たちが帰ったあと、私はテーブルの上を片付け、お皿を洗い、子どもの夕食の準備を始めた。

2時間ぐっすりと昼寝をした息子はご機嫌で、夫に絵本を読んでもらっている。

― ちょっと疲れたけど、でもやっぱり楽しかったな~。

ほろ酔い気分でそう思っていると、夫が息子と遊びながら私に聞く。

「サトミさ、優子さんの旦那と連絡先交換してた?」



「あ~あれね。インスタのアカウント聞かれたから、フォローし合っただけだよ」
「そっか…でも、気をつけなよ。なんていうか、あの人から、女好きな雰囲気を感じたからさ」

確かに私との距離をすぐに縮めてきたし、菜々緒のことも「菜々緒ちゃん」と呼んでいた。

だけど、妻の優子ともすごく仲がいいように見えた。少なくともうちよりは。

「別に悪口とかじゃなくて、男同士だからなんとなくわかるんだ」

― 産後から今日まで、一度も私に触れてこないような男に言われても…。

そう思いながらも、夫にまだ女として見てもらっていることに少し安心する。

家事を終え、息子も寝かしつけ、お風呂に入りながらInstagramを開くと、優子の夫からのメッセージがきていた。

『平蔵:今日はありがとうね!サトミちゃんの手料理、とっても美味しかったよ。おしゃれで可愛いだけじゃなくて料理もうまいなんてすごいなぁ^^ よかったら、今度料理教えてほしいんだけど、平日で空いてる日あるかな』

― 何、これ…?

温かいお湯に浸かっているのに、全身に鳥肌が立った。

私は、そのメッセージをスクショした。そして、それを菜々緒に送った。とにかく、誰かの意見が欲しかったのだ。

『ねぇ、菜々緒。今日、優子の旦那さんと会ったんだけど。菜々緒も知り合いなんだよね??これなんだと思う?』

結婚後、異性との関わりがほとんどなくなり免疫がなくなっているだけかもしれないから。

もしかしたら、夫の杞憂はあながち間違っていないのかもしれない。

私はお風呂の温度を上げて追い焚きしながら、菜々緒の連絡を待った。


【登場人物】7年ぶりに再会した32歳女たち



▶前回:夜遊び仲間の“悪友”に7年ぶりに再会。環境が変わっても女の友情は成立する?

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サトミは菜々緒に相談するが、菜々緒からは思いもよらない返答が…


 
   

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