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【小説】「半世紀前までは森の国だったのに…」変わりゆく根釧

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安達はがっかりした様子でため息をつく。アオちゃんとは、アオジ、俗にこの地方で野雀と呼ばれている、胸部と腹部が緑かかった黄色のなかなかかわいい小鳥である。草原や林のふちを好む種類の小鳥である。

川北と安達は、ニシベツ実業高校酪農科三年生である。科学部の活動の一環として、環境省から委託された鳥類標識調査を手伝っているのだ。

「アオジだって、まだ、渡りのルートは解明されていないんだぞ」

科学部OBで水道局長の原田が二人のやり取りに、口を挟んだ。そうなのだ。アオジがこの根釧原野から本州以南に渡ることは分かっている。しかし北海道のどこから本州に渡るのか、襟裳岬なのか、室蘭なのか、函館なのか、それすらよく分かっていない。それを解明することが、自分の使命だと原田は信じている。

「さあ、この子たちにリングをつけるぞ。いつも通り二番リングだな」

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原田の言葉にうながされて、二人はリング装着用のプライヤーとリングを準備した。鳥袋の口をそっと開くと、つぶらな瞳でアオジがこちらを見つめている。アオジをそっと手のひらでくるむと、心臓の鼓動が速まっているのが伝わってくる。

まず医療用のライトで目の虹彩を確認した。「Aだな」と川北。Aとは、成鳥(adult)のことである。虹彩が透き通って赤いと、成鳥の証しである。

鳥を弱らせないように、手早くノギスで翼長や尾長、それに管幅(足の直径)などを計測し、野帳やちょうに記入していく。最後にリングのナンバーを確認して、専用プライヤーでリングを足に装着した。そして、作業小屋の窓から、そっと放鳥する。鳥袋が空になるまで二人はそれを続けた。

「アオちゃんばっかり捕獲されるってことは、何か大事な兆候だってことにそろそろ気が付かないか?」

二人が一息つくと、科学部顧問で理科教師の三里が問いかける。

「と……言うと……?」

川北と安達は、三里に急に言われて口ごもる。

「アオちゃんが繁殖しているのは、どこが多い?」

水道局長の原田が助け舟を出す。安達がうーんと首をひねりながらつぶやく。

「林の中よりも、林のふちが多いかな」

「つまり、林縁りんえん種ってことだよな」

川北は、ポンッと膝を打って答えるように言う。

「草地の縁のササ原にも多いよな」

「そうすると、草原種でもある、ということになる」

三里はそう言うと、さらに続けた。

「アオちゃんが、林縁種でもあり草原種でもある。そして、林縁種や草原種が多いということは、この土地の植生はどうなっていると考えられる?」

「草原が多くなったっていうことは……」

川北と安達は、日本史、特に現代史のことを思い出した。

「そうだ、根釧原野はパイロットファーム計画で、一気に草地が増えたんだった」

「そして逆に、森林は激減してしまった」

原田はフッとつぶやいた。そうなのだ。この土地は、半世紀前までは森の国だった。それが今は、草原の国とも言えるほどに、森がなくなり、草地が広がったのだ

「生息している鳥が、すっかり変わってしまっている可能性が高いな」

「ポイントカウント法の調査箇所を増やさないとな」

川北と安達は、自分たちの調査が、この土地のこれまでの歴史と、これからの歴史に関わっていることに、三里と原田に気が付かされ、わずかながらも恐れを感じた。

「さあ、今日は終わりにしよう。最後に鳥の回収をして、網をたたもう」

三里にうながされて、三人は朝の調査を終える支度をしだした。

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