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倒産前、最後の飲み会…サラリーマンが語り合った「夢」とは

幻冬舎ゴールドライフオンライン

※本記事は、氷満圭一郎氏の書籍『ヒミツのレクイエム』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。

プロローグ 失業という始まり

誰にだって夢はある。生活に疲れたオジサンにも。そんな夢は、絶望の中にこそ、おずおず顔を出してきたりする。

「チャレンジに行こうぜ」

こんな話題が出たのは、会社が倒産する二カ月程前、同期の五人で飲み会を開いた時の事。二〇二一年五月の上旬であった。新型コロナウィルスがまだ日本でも世界でも猛威を振るっているさなかに、私たちは飲み会を開催したのだ。

不定期で、同期会と称して時々飲むのだが、その日は本当に久しぶりの同期会で、コロナ禍にあって飲み会など避けなければならないところだし、まん延防止等重点措置というやつが出ていたけれど、どうしてもそれをしておきたい訳があった。その日私たちは、これが最後の同期会になるかもしれぬという予感をそれぞれが持ち寄って、居酒屋に集まったに違いなかった。

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会社が深刻な経営危機に陥っていたのだ。何が残念といって、我々の勤務する会社『HBK(富士ブレーカ工業)』は、その名の通りブレーカーを作っている会社で、飲食やホテルのように直接コロナの影響を受けていた業種でないにも関わらず、相変わらず苦境に陥っているということだ。

コロナ以前にも、コロナ禍にあっても業績不振ということは、つまりそもそももう駄目になっている会社、ということにほかならず、そんなことは長年勤めている我々に分からないはずがない。皆、そこそこの地位に就いているのだ。ことに私など総務課の人間だから、会社の金回りに関してある程度分かっている。全く楽観視などできないばかりか、最悪の状況も十分予測できた。

とはいえどうなるか私が決めることではないから、なるようにしかならない状況を見守るほかなく、それが情けないし、表には出さない不安が胸の奥につかえている。飲み会に集まった同期の連中も、多かれ少なかれ同じ胸の底に違いなかった。

そこそこの地位であるがゆえに、業績不振に関し無関係とはいえず、かといって会社の再建方針に関われる地位にあるわけでもなく、いかんともしがたい立場に歯がゆさを覚えている中間管理職たち。

同期会が始まった。貸し切りの個室で五人は掛け声小さく乾杯し、小声ながら陽気にしゃべり出す。「本日のつまみはカマンベールチーズにイカの塩辛、俺の頭みたいに発酵しちゃってまーす」「発酵しすぎでハゲちゃってまーす」などと愉快に盛り上がっていたけれど、酒がほどよく入っていくにつれ、「会社潰れたらどうすっか?」そういう話題が自然出てくる。

けれど飲み会で深刻ぶる我々ではなかった。その代わりに、私たちは夢を語り合ったのだ。これまでまじめに夢を語ることなどしたことがなかった。酒を飲めば会社や妻への愚痴、子供のこと、好きなAV女優のこと、どうでもいい話題のオンパレードだ。

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