田臥勇太以来の日本人NBA選手も、渡邊雄太「まだスタートライン」。
田臥勇太以来の日本人NBA選手も、渡邊雄太「まだスタートライン」。
 渡邊雄太のNBA初得点は、フリースローだった。 10月27日、メンフィス・グリズリーズ対フェニックス・サンズ戦。グリズリーズの2ウェイ契約選手の渡邊は、4Q残り4分31秒に交代で出場してコートに立ち、正式にNBA選手となった。


渡邊のデビュー戦となったフェニックス・サンズ戦。チームは117-96で勝利した。 (photograph by AP/AFLO)

 渡邊雄太のNBA初得点は、フリースローだった。

 10月27日、メンフィス・グリズリーズ対フェニックス・サンズ戦。グリズリーズの2ウェイ契約選手の渡邊は、4Q残り4分31秒に交代で出場してコートに立ち、正式にNBA選手となった。田臥勇太が2004年11月と12月に合計4試合に出場して以来、実に14年ぶりの日本人NBA選手の誕生だ。

 その渡邊の最初の得点機会は、残り1分36秒にやってきた。自分より13cm背が低いトロイ・ダニエルズ(サンズ)にマッチアップされた渡邊は、そのミスマッチを突き、アグレッシブに攻めた。スピンムーブからのシュートで相手のファウルを誘い、フリースローラインに立った。

 すでにグリズリーズが22点の大量リードを取っており、勝敗を左右するような場面ではなかった。それでも、やることはいつもと変わらない。ドリブルを2回つき、ボールを回して手の中に収め、顔の前に構える。曲げた膝を伸ばしながら、手首のスナップをきかせてボールを放つ。バスケットボールを始めてから今まで、何万回と繰り返してきた動作だ。ボールはスパッと音をたててネットを通過。ほっとしたのか、表情が少し柔らかくなった。

2本しっかり決めきれた。

 2本目も同じルーティンでシュートを放ち、同じようにボールはネットに吸い込まれた。

 試合後、渡邊は日本メディアによる代表電話取材のなかで、初得点の場面を振り返った。

「最初の得点の形はフリースローだろうが、レイアップだろうが、ダンクだろうが、別にそんなにこだわりはなかった。あの場面は自分がガードにつかれていたんで、そのミスマッチをついていこうということで、アグレッシブに攻めた結果フリースローを2本もらえた。当たり前っていえば当たり前なんですけれど、あそこでフリースロー2本しっかり決めきれたのはよかったなと思います」

「フリースローは決めて当たり前」──それは、渡邊が小さい頃から、父・英幸さんに何度も言われてきたことだった。ディフェンスがいるわけでもなく、自分1人で、毎回同じ位置から、同じルーティンで打てるシュートだから、毎日練習し、試合でもその練習通りのことができれば入るのが当然、というのが父の信条だった。

フリースローに特別厳しい父親。

 もっとも、決めて当たり前のシュートだからといっても、必ず全部決まるわけではない。1人で打つシュートだからこそ、ちょっとした身体の使い方の狂いや、気持ちの揺れが出てしまう。

 ジョージワシントン大3年のときに、こんなことがあった。2点リードした終盤に、渡邊はフリースローを2本とも外してしまったのだ。幸い、相手のラストショットが外れて逆転の惨劇は免れたが、日本からインターネットで試合を見ていた英幸さんは、すぐに息子に「あれは2本決めて4点差にしなくてはいけない場面だぞ。しっかり練習しろ!」と辛口のメッセージを送ったという。

 昔は厳しかった父も、息子が渡米した後はプレーに文句を言うことはなく、むしろ励ますメッセージを送ることが多かったのだが、フリースローだけは別だった。当時、英幸さんは、その思いをこう語っていた。

「彼のように、どうしても身体能力で黒人プレーヤーに劣ってしまう選手は、フリースローのようなところで勝るしかない。彼が今後もアメリカで生きていくには、フリースローを確実に決めることは必須だと思います」

NBAは日常の努力の先にある。

 子供のころに家の前や、空地、あるいは尽誠学園高校の体育館、渡米した直後のセントトーマスモア(プレップスクール)の体育館、4年間過ごしたジョージワシントン大の体育館──。フリースローはどこでも練習した。渡邊にとっては、子供のころからの日常の光景だ。

 NBA最初のシュートがフリースローだったことについて、英幸さんは「派手でなく、雄太らしいなと思います」と言う。

 派手ではなく、日常の努力の先にある世界。渡邊にとってのNBAはそういう世界だったのだ。まわりの友達がNBAはテレビの中の世界だと思っていたときに、渡邊は自分の毎日の練習の先にNBAがあると信じて、練習した。そう信じていたからこそ、たどり着くことができた。フリースローの場面は、まるでその象徴のようだった。

「きょうは本当にオマケみたいなもの」

 もっとも、渡邊にとっての日常はまだ続いている。

 目標としてきたNBAレギュラーシーズンのコートに立てたことについて聞かれると、渡邊はまずは「素直に嬉しい」と喜んだ。「ずっと自分が目標としてきた舞台ですし、そこで、たったの4分間ですけれどプレーして、しっかり点も取れたっていうのは、きょうの試合のことは今後の自分の記憶の中にずっと残るだろうなと思います」とも言った。

 しかし、それで満足してしまうわけではなかった。現実はしっかり見えていた。

「きょうはどっちかというと、本当にオマケみたいなもの。チームメイトのみんなが頑張って点差をあけて、コートに立たせてくれた。自分が必要だからコートに出たとか、そういう場面ではなかった。コートに立てたっていうことは当然すばらしいことだと思うんですけれど、正直、まだまだ自分のなかで満足はしていませんし、あくまで、本当にスタートラインに立っただけだなっていう感じですね。今後、もっと重要な時間で試合に出たり、ローテーション入りを果たしたりだとか、そういうことが目標です」

 目標としていたNBAの世界は、毎日、目の前にあったやるべきことを続けてきた結果、日常生活の中に入ってきた。

 それでも、渡邊の日常が変わるわけではない。フリースローラインに立ち、ドリブル2回、ボールを回してから構えて、シュート。いつもと同じように、繰り返し練習する。決めて当たり前のシュートを、次の試合でもまた決められるように──。

text by 宮地陽子
「日々是バスケ」

(更新日:2018年11月6日)

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