パリ大会でブレイク必至のスター候補を紹介するシリーズ「TOP PROSPECT(=トップ・プロスペクト。「有望株」の意味)」。第2回は、世界ランキング1位の車いすラグビー日本代表、小川仁士選手です。
小川 仁士(おがわ・ひとし)|車いすラグビー
高校3年時にモトクロスのレースで頚髄を損傷し、入院先で出会った車いすラグビーを始める。障がいの程度によって与えられる持ち点は、2番目に重度の1.0クラス。東京2020パラリンピックは日本代表に選出され、銅メダルを獲得。今年は世界選手権メンバーに初選出された。
ヤンチャに見えるけれど……⁉
――サプライズ選出された東京2020パラリンピックでは、キラキラと輝くブリーチカラーが印象的です。小川仁士選手(以下、小川):以前はフルタイムで働いていたのですが、車いすラグビーで世界一を目指している現在はアスリートとして企業に雇用してもらっています。それで「今しかできない!」と思って、髪をブリーチしたんです。大会を迎えるたびに、髪色を変えていて、今ではそれが欠かせないルーティンになっています。

小川:うれしかったのと同時に、驚きました。誰も自分が選ばれるとは思っていなかったんじゃないですか。東京パラリンピック期間は、家族旅行をする計画を立てていたくらいです(笑)
――その後も、日本代表として定着。コートの中での判断力や、常に動き回ることができる走力を磨いています。小川:日本代表の実感がなかった東京大会とは違って、2022年10月の世界選手権はそこに照準を合わせてトレーニングをして、勝ち取った日本代表。その分、「やってやるぞ」という強い気持ちが湧いています。

クールな背中を追って
――リハビリで出会った車いすラグビーの印象はどうでしたか?広告の後にも続きます
小川:これは“車いすラグビー選手あるある”エピソードなのですが、入院中に車いすラグビーを題材にした映画『マーダーボール』を観ました。幼いころからバスケットボールは苦手意識があったので、新たに始めるなら車いすラグビーの一択でした。同じ施設で行われていた、日本代表の合宿も見学し、激しい攻防戦に心奪われました。でも、始めた頃は、ラグビーつまんねぇって思っていました。今振り返ると当然なんですが、教えてもらったのは、地味な車いす操作技術ばかりでしたから。
――すぐに夢中になることはなかったのですね。小川:自分の障がいは、モトクロスの草レース中の事故によるものです。モトクロス選手はケガが多く、鎖骨の骨折はかすり傷といわれます。実際に自分も毎年のように腕や脚を骨折していました。だから、今回のケガも治るだろう。当時はそう思っていたので、車いすスポーツもほどほどに取り組めばいいかなと考えていたんです。

小川:リハビリのために、施設に行ったとき、体の大きい車いすの男性が通ったんです。理学療法士の先生に、「あれが島川選手だよ」と教えてもらいました。すごいの一言でしたね。もう、一目惚れです。自分と同じ障がいだと聞いてびっくりしたことを覚えています。その後、しばらくして、その島川選手らに施設にある体育館の裏に呼び出されたんです。「何だろう」とびくびくしていたら、チームへの勧誘でした。それで強豪クラブのBLITZに入ることになったんです。
――車いすラグビーにハマったきっかけは何ですか?小川:最初はつまらないと思っていた車いすラグビーですが、入院仲間とプレーしていくうちに楽しくなっていきました。もともとフットサルやサッカーをやっていたこともあり、チーム競技は好きでしたしね。リハビリ施設から卒業した後も、当時、選手数の少なかったBLITZに入ったおかげで、競技歴の浅いうちから日本選手権にフル出場できました。やはり試合は楽しくて。日本代表の池崎大輔選手とか、障がいの軽いハイポインターに立ち向かっていくのが面白くてハマっていきました。
ローポインターとは何か
――車いすラグビーの選手は、障がいの程度に応じて0.5〜3.5点の持ち点が与えられており、障がいが重い選手ほど持ち点が低く、コート上の4人の持ち点が合計8点を超えてはならないルールがあります。小川選手の1.0クラスはどのような役割が求められるクラスですか?小川:一番重度の0.5クラスよりはボールを扱える分、最後にトライで得点を取るシチュエーションが少なくありません。一方、ボールを持ちながら走る場面は、障がいゆえ、リスクがあるのであまりないです。1.0クラスの選手は(1.5クラスなどと比べると)スピードがないので、相手より先回りすることが求められます。

小川:本当に、そうですね。自分たちローポインター(持ち点の低い選手のこと)はボールを持つことも少ないし、到底メイン料理にはなれません。でも味付けは料理には欠かせないですからね。自分ですか? 例えるなら、「一味唐辛子」かな。好きな人は好きだけど、合わない人は合わないみたいな……。
――「一味唐辛子」ということは、周囲の選手と合わせつつも、自分の味をはっきりと出したいということですかね。そういう意味では、自分の特性を出すために、コート内の状況を分析しなければならないですし、プレー中も頭の内はフル回転ですね。