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ジョニー・トーらの香港への“思い入れ”と“愛情” 『七人樂隊』が描く時代の移り変わり

Real Sound

 本作のプロデューサーでもあるジョニー・トー監督は、エピソード『ぼろ儲け』で、香港の90年代の経済の状況を、狂騒的に映し出している。『エレクション』(2005年)に代表されるように、香港マフィアの黒社会をスタイリッシュに描いてきたトー監督は、ここでは株に投資する若い世代を描いている。しかし、食堂を舞台に、会話を中心に話を進めていく内容という意味では、“らしい”一作である。

 充実したクライムアクションを数多く残し、惜しくもこの世を去ったリンゴ・ラム監督が手がけたエピソードは、彼の遺作となった『道に迷う』。名優サイモン・ヤムが演じる、家族と香港に里帰りしにきた一家の父親を主人公にした物語。モダンな街並みに姿を変え、思い出と異なる香港の街に戸惑いながら、彼はかつて自分をかたちづくった土地を逍遥する。

 刻々と発展し変化していくのが、香港という街の特色でもある。世代や文化の移り変わりとともに、そんな変遷を受け入れていくことが、そこに愛着を持つ者たちの生き方なのだ。「映画」という媒体によってクリエイターたちと繋がる、日本の香港映画ファンにとって、この一作がたどり着く境地は、リンゴ・ラム監督の遺言だと感じられることだろう。

 そして、最後の異色なエピソードを手がけたのは、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地黎明』(1991年)など、新たな視覚効果で話題を集め、娯楽作品を次々と監督して「香港のスピルバーグ」と呼ばれたツイ・ハーク。

 精神科医と患者の会話から、思いも寄らない展開に発展していく、このエピソード『深い会話』は、香港映画の楽屋ネタがたっぷりつまっていて、最も笑える鮮やかな一作となっている。香港映画といえば、楽しくわくわくするイメージも強い。そんな娯楽的なテイストや皮肉なユーモアを、本作にスパイスとして入れてくれたことで、ハーク監督は作品全体の調和を、良い意味で崩してくれている。

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 今年で、中国への返還25周年を迎えた香港。近年の香港映画界もまた、本作で描かれている街の変遷のように、さまざまな意味で様変わりしている。しかし、映画界の数々の伝説となった足跡は消えることがない。本作の監督たちは、そんな偉大な伝説を懐かしく振り返りつつも、それらをかたちづくってきた、ツイ・ハーク監督のエピソードが象徴する、一種の“過激さ”や、自由な発想を、未来の映画づくりにも変わらず存続することを願っているはずである。本作『七人樂隊』は、そんな明日の香港映画への応援の演奏であり、われわれ観客がいま香港のクリエイターに望んでいる姿勢そのものなのではないだろうか。(小野寺系)

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