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『silent』川口春奈&目黒蓮が贈るこの秋いちばんのラブストーリー

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有線のイヤホンは、2人がつないだ手みたいだった。でも片方だけのワイヤレスイヤホンは、まるではぐれた心みたいで。もう2人が同じ世界にいないのだと断絶を象徴しているようだったし、世界のどこかにいる、もう片方のワイヤレスイヤホンを探しているようにも見えた。

ドラマ『silent』(フジテレビ系、毎週木曜22:00~)がスタートした。脚本は、昨年、第33回フジテレビヤングシナリオ大賞を受賞した新人作家の生方美久。連続ドラマの執筆は初めてというルーキーを、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』の村瀬健プロデューサーが抜擢。さらに、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』の風間太樹がメイン監督を務め、『アンナチュラル』『MIU404』の得田真裕が劇伴を手がける鉄板のスタッフィング。

ドラマファンからは放送開始前から「今期ナンバーワン」の呼び声が高かったが、そんな期待のハードルを軽やかに上回る最高のスタートを切った。

あのときの紬の告白を、想はちゃんと聞いていた気がする



その人を好きになったきっかけは、声だった。壇上で作文を読む佐倉想(目黒蓮)の声と言葉に惹かれて恋におちた青羽紬(川口春奈)。2人を音楽が急速に近づける。

いつも有線のイヤホンをつけて音楽を聴いている想。最初に想から曲を聴かされたときの紬のあの態度は知ったかぶりだろう。好きな人に少しでも近づきたくて、見栄を張ったり、嘘をついたりする。始まったばかりの恋は、いつも人をぎこちなく背伸びさせる。

きっとあれは想の意地悪だと思う。だって、いつもイヤホンをしていても、想には紬の声は聞こえていた。だから、あのときも本当は聞こえていたのに、わざと聞こえないふりをした。ちゃんと自分から気持ちを伝えたかったから。

橋の上で想は紬に告白する。恥ずかしそうに笑って、紬の耳にイヤホンをつける。聴こえてくるのは、スピッツの「魔法のコトバ」。離れてしまった大切な人を思う歌だ。その選曲が2人のこれからを暗示する。

時は過ぎて8年後。紬の隣にもう想はいない。大学進学で東京へ行き、程なくして突然別れを告げられた。LINEの短いメッセージだけで終わった恋。大好きな声を、最後に聞くことさえなかった。もらったイヤホンも壊れた。残ったのは、君から教えてもらった音楽だけだった。

でもそうやって共有し合うことで、世界が広がっていく。知らなかったはずの曲が、いつしかお気に入りになる。イントロを聴いただけで、何年経っても、何十年経っても、一緒に聴いたあの風景へタイムスリップさせてしまう。そうやって、紬と想はいろんな音を分かち合った。

意を決して紬は想に告白する。だけど、イヤホンのせいで想には届いていなかった。なけなしの勇気をくじかれたみたいで、紬は接ぎ穂を失う。

あのとき、湊斗が泣いたのは決して嫉妬なんかじゃない



今、紬の隣にいるのは、戸川湊斗(鈴鹿央士)。高校の頃から紬と想の恋を見守ってきたクラスメイトで、想の親友だった。

だけど、ある日、紬は世田谷代田の駅のホームで想を見かける。「佐倉くん」と呼んでも、想は振り返らない。でも、あれは間違いなく大好きな佐倉想だった。

その日から、紬の心にも、湊斗の心にも、佐倉想の存在がどんどん大きくなる。紬は、大好きだった想にもう一度会いたくて。湊斗は想が現れたら、きっと紬はいなくなってしまうという不安で心をかき乱される。

そんなイントロダクションから始まった3人の恋の協奏曲が、せつなく胸をかきむしる。最初に心を掴んだのは、湊斗だった。もともと紬の恋を後押ししたのも湊斗だ。でも、あのときからきっと湊斗は紬が好きだった。想がいなくなって、やっと自分の出番が回ってきた。

それは自分が代役であるということだ。穴埋めに過ぎないことくらい、湊斗がいちばんよくわかっている。

「想がいたら、青羽さん、お前と付き合ってなくない?」

級友の無神経な言葉に言い返せないくらい無力なことを、誰よりも自分がいちばんよくわかっている。でも、紬を大切に想うのと同じように、湊斗にとって想は大事な友達だった。だから、想が聴力を失っていると知り、手話について「できれば覚えたくないですね」と、「また普通に話したいです」と唇を噛んだ湊斗がせつなかった。「佐倉くんの声が好きだったんだ」と話す紬の横で、涙が止められなくなる湊斗がいとしかった。

あのとき、湊斗が泣いたのは決して嫉妬なんかじゃない。2人が再会したら、もう紬は自分のもとには帰ってこない。それが嫌で泣いたんじゃない。

想の声が、紬が好きだと言った想の声が、もうこの世にないことが悲しくて泣いた。友達の身に起きた出来事を思って泣いた。どこまでも主成分優しさなんだ、湊斗は。そんな湊斗を、鈴鹿央士が笑顔で表現する。

鈴鹿央士の笑顔にはグラデーションがある。紬が愛しくてたまらない笑顔。心のさざなみをやり過ごすための笑顔。「ヘラヘラ生きてる聴者」だけど、ヘラヘラ笑うことでしか心を守れない人の笑顔。

鈴鹿央士のあまりにも繊細で豊かな表現力に、正直、心を持っていかれてしまった。

あの「うるさい」が“2人だけにはわかる”魔法のコトバになる



でもその後に、さらに胸を引き絞るようなシーンが待っていた。ついに再会した紬と想。必死になって想に話しかける紬の言葉を、想は断ち切る。「声で話しかけないで」と手話で。

あのとき、想は何を思ったのだろう。息を大きく吸って、一瞬、顔を上げた。そして紬に向き直ったあと、またためらうように息を吸った。目の前のこの人は自分が聴力を失っていることを知らない。ここで手話をしたら、すべてがわかる。もう自分の耳が聴こえないことを。あの頃、君が好きだった「佐倉くん」ではないことを。

それは、どんなに怖いことだっただろう。どんなに勇気のいることだっただろう。

でも想はそうするしかなかった。だって、目の前に現れた紬があまりにも何も変わっていなかったから。8年前と同じように、明るくて無邪気なままだったから。変わってしまったのは自分だけだということが苦しくて、苦しくて、傷つけたかった。壊したかった。

声は発していないのに、息を吸う音が、衣擦れの音が、無性に響くあの手話は、それらの音すべてが声の代わりに叫んでいるようだった。決して紬には届くことのない想の気持ちを。

高校時代は穏やかに微笑む顔ばかりが印象的だった想が、ここでは顔いっぱいに傷口が裂けるような、辛そうな顔をしていた。こみ上げる嗚咽が、言葉以上に想の苦しみを語っていた。それを演じる目黒蓮の渾身のお芝居に、さっきまで湊斗に振り切っていたメーターが一気に想へと傾く。ただ見入るしかないラスト5分だった。

でも、これだけ一生懸命想が伝えようとしても、その言葉を紬は何一つ理解できない。作文で想は「言葉は何のためにあるのか」「なぜこのひとつの星に複数の言語が存在するのか」と疑問を抱いていた。

ずっと言葉は人と人をつなぐものだと思っていた。でも違った。言葉は人と人を引き裂くものだった。同じ言語を持たない者は、決してわかり合えない。そんな絶望感に打ちひしがれるようなシーンだった。

大好きだったあの声を聞くことはもうできない。長電話もできないし、音楽だって貸し借りできない。音のある世界で生まれた恋は、終わった。

でも、大好きなあの言葉は残っている。雨の音は聞こえないけど、音のない雪なら一緒に感じることはできる。音のある世界で出会った2人は、もう一度、音のない世界で恋におちることができるだろうか。『silent』は、そんなラブストーリーになっていく予感がする。

いとしさのいっぱいつまった「うるさい」が、最後は拒絶の言葉になった。

きっと最後に想はもう一度、手話で「うるさい」と紬に言う気がする。音のない世界で生きる想の「うるさい」は、“2人だけにはわかる”魔法のコトバになるはず。

そう信じたくなる最高のラブストーリーが、始まった。

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