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「今日はだめ…」彼の家で映画鑑賞。腰にのびてきた彼の手を、女が振り払った理由

東京カレンダー

「彼って…私のこと、どう思っているんだろう」

連絡は取り合うし、ときにはデートだってする。

自分が、相手にとっての特別な存在だと感じることさえあるのに、“付き合おう”のひと言が出てこないのはどうして?

これは、片想い中の女性にとっては、少し残酷な物語。

イマイチ煮え切らない男性の実態を、暴いていこう。

▶前回:「夜は、気にならなかったのに…」初めての昼間デートで、男が美女にがっかりした理由



「付き合おう」という言葉にこだわりすぎたせいで(涼花・31歳の場合)


ベッドがきしむ気配で目を覚ますと、見慣れない天井が視界に入った。木製のシーリングライトのシルエットが、薄ぼんやりと浮かび上がっている。

― そうだ。昨日、夏樹と…。

枕もとで充電していたスマホに手を伸ばすと、まだ6時前だった。

― どうしよう、始発は動いてるし…このまま帰ろうかな。

だが、体を起こしかけたとき―。

「…もう起きちゃったの?」

となりで毛布に包まっていた夏樹が、眠そうな声で聞いてきた。そして、私に覆いかぶさるように腕と足を絡ませてくると、彼はまた眠りに落ちていったのだった。

― 夏樹の部屋に、泊まってしまった。“付き合おう”という言葉よりも先に、体の関係を持ってしまった。

もう大人だし、こういうことにはならないように、自制心を働かせることもできたのだけれど、夏樹のことが好きだから、受け入れてしまったのだ。

― 夏樹は、正式に告白してくれるかな?…いや、それはないのかな。

こんなふうに期待しては否定してを繰り返しているのには、ワケがある。


夏樹との出会いは、10年前。彼は、同じ大学の先輩だった。

180cm後半はありそうな長身に、透き通るような白い肌。大学構内ですれ違ったときに見た、薄茶色にグリーンが混じった瞳が、驚くほど美しかったのを覚えている。

それと、いつも派手な女子たちに囲まれていたことも―。

当時の私は、遠くから視線を送るのが精いっぱいだった。まともに会話をしたことなんて、1度もなかった。

ところが、3ヶ月前。

サークル仲間の披露宴に出席したときに、会場で夏樹の姿を見つけたのだった。

― 夏樹先輩も来てたんだ!でも、なんか…?

私は、一緒に出席した舞美に、そっと耳打ちをする。

「ねえ、夏樹先輩って少し痩せた?昔と雰囲気が違くない?」
「そう?夏樹先輩って、お父さんがフランスの人だから、ちょっと似てきたんじゃないの?」
「そうなのっ!?…知らなかった」
「涼花は、みんなみたいに夏樹先輩の取り巻きしてなかったからね。なんか懐かしい」

旧友との他愛ない会話。

その最中に、彼がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。



「舞美ちゃん、久しぶり。えっと、君も同じサークルだったよね?」
「夏樹先輩!お久しぶりです。この子は、涼花です」

大学時代、夏樹の追っかけをしていた舞美。今は、SNSでのつながりがあるらしい。

「あ、そうだ。夏樹先輩って、広告代理店で働いてるんですよね?涼花も、代理店で働いているんです」

舞美は、私について丁寧に紹介してくれた。

「そうなんだ?もしかして、競合だったりする?」
「もしかしたら…」

こうして夏樹と私は、同業者であることをきっかけに、すっかり意気投合。

「そっか。涼花ちゃんのとこで、あのCM撮ることになったんだ」
「はい、私も撮影には顔を出す予定です」

昔、ひそかに憧れていた夏樹。その彼と、大人になった今、こんなふうに話ができることに、私は舞い上がった。

帰り際に、“今度、食事でも”と言いだしたのは、彼のほうから。その場でLINEを交換すると、数日後には2人きりで会うことが決まった。



紀尾井町にある創作和食店では、黒毛和牛のヒレ肉と赤ワインを堪能。別の日は、大手町のフレンチレストランで、コース料理を楽しんだ。

はじめは、仕事の話をすることが多かった。けれど、次第にお互いのプライベートな話でも盛り上がり始める。

「僕、父親がフランスの人だから、高校1年の終わりまであっちに住んでたんだ」
「素敵ですね!フランス語って、流れるような響きがあって好きです。全然話せないですけど」
「はは!じゃあ、今度フランス語でLINEしてみようかな」
「いいですよ?文字なら、今はネットで簡単に翻訳できますから」

食べ物の好みも合うし、話していると楽しい。

親しくなるにつれて、私は夏樹との相性の良さをひしひしと感じていた。

しかし、3回目のデートのとき。

彼のなにげない発言に、私は必死になって動揺を隠したのだった。



3回目のデートは、金曜日の21時。

“接待のあと、軽く飲みに行きたい”という夏樹の提案で、少し遅めに待ち合わせた。

「涼花ちゃん、1週間お疲れさま!」
「お疲れさま!夏樹先輩、結構飲んできたでしょ?」

いつもは、私の飲むペースに合わせてくれていたのだろう。これまで酔った姿を見たことはなかった。けれど、この日はすでにいい気分になっているようで、饒舌だった。

機嫌のいい夏樹は、両親について話し始めた。

「僕の父はさ、母に“ジュテーム(愛しています)”って言うまでに5年もかかったんだって」
「それって、知り合ってから5年間、お父さんがずっと片想いしてたってこと?ロマンチックだね」

私がこう言ったとき、彼は一瞬“?”という表情を見せた。

「いや?確か、知り合って3年くらいで僕が生まれてると思うよ」

今度は、私が“?”になった。それを見て、夏樹が続ける。

「僕の父とかフランス人の友達は、みんな付き合うときに『好きです』とか『付き合ってください』は言わないんだよ」
「そ、そうなんだ」

私は、付き合うときには言葉が欲しいと思っている。

でも、ここで否定したら、彼のまわりの人たちのことをバッサリ切り捨てるようで気が引けた。だから、つい本音とは逆の言葉が口をついて出た。

「私も…それでいいと思う。恋愛にはいろいろな形があっていいよ」

「よかった。僕は、涼花ちゃんと一緒にいるとすごく楽しいんだ。できれば…これからも」

そしてこの日、うやむやな関係のまま、流れで夏樹の家にあがってしまったのだ。




夏樹:おはよう!

夏樹と初めて一夜を共にしてしまった、翌々日。彼からのLINEで、目が覚めた。

体の関係を持ったから、もうそっけなくされるかもしれない。心のどこかで不安に思っていた私は、ホッと胸をなで下ろす。

しかも、その連絡は一過性のものではなかった。

夏樹は、関係を持つ前よりも、親しみを込めて接してきてくれるようになったのだ。

告白はないが、まるで恋人同士のような関係。泊まる場所も、ホテルから彼の部屋へと変わった。

だから、私も“告白”とか“付き合う”といった形式ばかりを気にしすぎるのではなく、夏樹の行動を信じてみようと思ったのだが―。

2ヶ月ほど経ったある日、彼からこんなことを言われてしまったのだ。



夏樹の部屋で、ソファに並んで座り、フランスの恋愛映画を見る。エンドロールが流れると彼は、ポツリとつぶやいた。

「これからも、この関係を続けていきたいと思ってる」

奇しくも、その映画で印象深かったのは、事実婚のカップルだった。

その影響か、私の脳裏に、この先何年もなし崩し的に夏樹と一緒にいる自分の未来が浮かぶ。

― 私は、それは嫌っ!どうして、正式に付き合いたがらないの?

不安になってうつむくが、彼の手が腰のほうへ伸びてきた。

「…ごめん、夏樹。今日はちょっと」

どうしてもそんな気分にはなれなかったので、やんわりと断る。

この日は、少し距離をあけて眠った。

そして翌日、夏樹が眠っているあいだに、こっそりと帰宅した。

“形にこだわる必要はない”、そう自分に言い聞かせていたが、やっぱり無理だ。理解のある大人の女性を、無理に演じてきたツケがまわってきた。

帰宅してしばらく経つ頃、彼からLINEが送られてくる。

夏樹:涼花、体調でも悪かった?話したいことがあるから、あとで電話してもいいかな?

― 話したいことって、何だろう。もう会うのはやめよう…とか?

また、不安になってしまう。

あと少しで日付が変わろうとしている今もまだ、私は夏樹に返信できずにいる。



僕とは、正式に付き合うつもりがなかったのだろう(夏樹・33歳の場合)


大学の後輩・涼花と再会したのは、サークル仲間の結婚式だった。

今だから言えるが、当時の僕は、ひそかに彼女に想いを寄せていた。

まず、クールビューティーな見た目がタイプ。それから、ほかの女子たちのように群れずに、1人で凛としているところにも惹かれた。

だが、涼花は、いつも僕から距離を置いたところにいて、なかなか話をすることができないまま卒業―。

だから、この再会に心から感謝した。

偶然にも、SNSでつながっている舞美がいてくれたおかげで、彼女にもさりげなく声をかけることに成功。

2人で食事に行くようになると、涼花の心の広さ、器の大きさがわかって、ますます気に入った。

父の話をしたとき、少し驚いた様子も見て取れたが、すぐに肯定してくれたのもうれしかった。

― この子、やっぱりいいな。

そう思ったのだが、父の国…というか、父やフランスの友達の影響を受けて育った僕にとって、“交際を申し込む”という文化はハードルが高い。

それでも、涼花のことは手放したくなかったから、覚悟を決めてこう言った。

「僕は、涼花ちゃんと一緒にいるとすごく楽しいんだ。できれば…これからも」

彼女は、僕を受け入れてくれたのだろう。

それからの僕たちは、恋人同士のような関係になった。

しかし、この状況に甘えているわけにはいかないと僕は思っていた。

過去には、女性から「私たちって、どういう関係なの?」と詰問され、僕が煮え切らない態度でいたせいで音信不通になってしまったこともある。

同じ失敗はするものか―。だから、もう一度、涼花に丁寧に思いを伝えようと決意した。

「これからも、この関係を続けていきたいと思ってる」

それなのに、彼女は急に無表情になってしまった。かと思えば、僕のことを拒むようなしぐさをした。

翌朝目が覚めたらもう帰ってしまっていて、LINEの返信もない。

もしかして、涼花は、僕と正式に交際する気なんてなかったのだろうか。

そういえば、体の関係を持ってから、やけにあっさりとした態度を取られるようになった。

ということは、やっぱり…。悲しいけれど、そういうことなのだろう。

フランスは、“恋愛の国”と言われている。しかし、恋愛が上手な人ばかりではないと声を大にして言いたい。


▶前回:「夜は、気にならなかったのに…」初めての昼間デートで、男が美女にがっかりした理由

▶1話目はこちら:既読スルーばかりのカレ。「熱がでた」と送ってみると、予想外の反応で…

▶NEXT:10月12日 水曜更新予定
基本的に電話には出ないスタンス、LINEはちゃんと返してくるのに…どうして?


 
   

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