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古書価格2万円以上 山岳書界でカルト的な人気を誇る『山岳サルベージ繁盛記』気になる内容とは

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 山岳書界でカルト的な人気を誇っている本がある。 

 その名は『山岳サルベージ繁盛記』(朋文堂)。昭和20年代~30年代(1950~1965年ごろ)の、主として谷川岳を舞台とした山岳救助の記録を書いた本である。

 著者は寺田甲子男(てらだきねお)。東京の緑山岳会という山岳会の会長を長年務め、自身が通い詰めた谷川岳の土地勘をフルに利用して山岳救助で大活躍した人物だ。

 出版されたのは1965年。山岳遭難の増加が社会的に注目を集めていた時代。遭難があまりにも多発するために「魔の山」として知られていた谷川岳の遭難最盛期のようすが、本書では赤裸々に綴られているのだという。

■山岳書界では知る人ぞ知る稀覯本

 ぜひ一度、この本を読んでみたいと私はかねがね思っていたのだが、どうも山岳書界では知る人ぞ知る稀覯本であるらしく、古書価格がとんでもなく高くて手が出ない。2万円を下回る出物を見たことはなく、いまAmazon(2022年10月3日現在)で調べてみたらなんと3万9538円もの値が付いていた。

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 探し続けてもう10年近くになるが、ある人が状態のよい一冊を入手したとのことで、貸してくれることになった。これはありがたい。なかなかお目にかかる機会のない本だけに、ここで紹介しておこう。

 ついに手に取る『山岳サルベージ繁盛記』。正確に言うとこの本は2種類が出版されており、いま手元にあるのは、ハーケンとハンマーがモチーフになった再版のもの(朋文堂新社/1967年刊)。一方、1965年に出版された初版本は、ドクロが描かれたおどろおどろしい表紙になっている。再版の表紙はそれにくらべるとだいぶマイルドだ。

 本を開くと、モノクロ写真の口絵が16ページ続く。岩場で墜落してぐちゃぐちゃになった死体の写真がいきなり登場して度肝を抜かれる。が、写真がモノクロのうえにいまひとつ不鮮明なので状況がよくわからず、それほど凄惨な感じはしない。

 以降は本文ページが続くのだが、その3分の2は、著者の寺田が体験した救助活動の回想的記録文。豪快な人物として知られた寺田らしく、自由奔放に書き綴っている。コンプライアンスなどなきに等しい時代である。こんな記述が普通に出てくる。

 軽井沢から二時間半位で草津温泉につく。この温泉は病気によく効くといわれ吹き出物のいっぱい出来たうすぎたねえ病人が多勢いて大抵のことは平気な俺もあまり良い気持がしなかった。

 ロク(死体)まで、五㍍、三㍍、二㍍、一㍍、五十センチ、何百匹もの蠅がブブーンと鼻先を飛び舞う。臭気プンプン。遺骸は頭を下に仰向けにクラックにはさまり、頭が背中に着き、両眼はギョロリ、前額部、頭骸骨パックリ、お味噌無しという有様。

 時間は午後の一時を過ぎておりビバークの懸念さえあるから、むき身のまま二人で抱き上げ下の棚まで落とす。ぺしゃっと妙な音がして腐った肉がとび散り、また臭気が物凄くなった。

■凄惨な描写はあるが、読後感は意外とさっぱりしたもの

 読んでいて目を覆わんばかりのひどい描写である。しかし寺田は平然とこうした作業を行ない、遭難者に対してなんらかの感傷を寄せるでもなく、仕事が終わればまた自分たちの日常に戻っていく。

 不思議なのは、グロテスクで薄情な描写が頻出するにもかかわらず、一冊を通しての読後感が意外やさっぱりしていることだ。おそらくそれは、著者の寺田自身に「露悪」の意図も「偽善」の意思もまったくないからなのだろう。

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