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【小説】8年ぶりの帰郷…男が目にしたのは衝撃のニュース

幻冬舎ゴールドライフオンライン

食習慣の違いで人間同士が対立する近未来。日本は差別が糾弾を生み、暴力がはびこる国になっていた。剝き出しの憎悪、止まらない偏見。平穏と狂気が交差する次世代のエンタメ小説。※本記事は、猫道パスタ氏の小説『新版 VEGETUS』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。

第1章

「不当な暴力を受けたら、やった本人に必ず返すんだ。親にやられたなら親に。そうしておかないと、人生のどこかで関係のない命に当たる事になったりするからな。とにかく……やった奴にやり返す。でないと負の連鎖が子供や動物の虐待に繋がる。これが言いたくて俺はこの事件を起こしたんだ」

惑星から戻って最初に見たニュースは昔の同級生の殺人未遂の告白だった。名前を覚えていたのは彼が周りに迎合せず単独行動を好むことでいつも目立っていたからだ。彼と話すきっかけは大抵俺が作っていた。

印象深いのは蛇の話だ。体はでかいが大人しい青大将が公団住宅の近くに現れ、住人が追い払おうと叩いていたのを彼は必死でやめさせようとしたらしい。物静かな子供と思われていた彼が集団に向かって怒鳴ったので隣人達がどよめいたそうだ。彼の父親が暴力的な人物とは知らなかったが、無害な蛇を守ろうとした彼が今回の犯行に及んだのにはそれなりの訳があったのだろう。それこそ関係のない命に八つ当たりする事を回避する為だったのかもしれない。そういえば、蛇が最終的にどうなったかを俺は聞いていない。

自分以外の者の痛みに対してもとても敏感だった彼は苦痛を与える側に立つ人間をとにかく嫌悪していた。画面に映る彼の顔には昔の潔癖さが十分に残っており、俺は空港のロビーの椅子に座り一人懐旧の思いにふけった。

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八年ぶりに会うからといって俺自身は何も変わっていないし両親の様子や妹の成長過程は手紙や画像通信で確認している。特に母親や妹とは時折会話もしているのだから、なにも家族を相手にここまで緊張する必要はないはずだ。八年という月日は一生の約何分の一か……と、離れた場所に置かれたマガジンラックをぼんやりと視界におさめながら考える。

この長い単身生活で取り組んできた様々な問題はもう全て過去の事で、今後の人生と勝手に結びついてはいるものの自分の中で際立たせる事柄は特に無いように思えた。俺にとってはすでに終わったものですがりついていても役に立つのか邪魔になるのかすら分からない。そういうものは、あえて放っておくのがいいだろう。

日本のゲートはほどほどに込み合っており、俺が並んだ場所では他の職員と違い独自に改造した制服を着た女性スタッフが軽快に帰国者達の列を進めていた。服や髪に自由に装飾品をあしらい、とても入国管理の職員には見えない。ともあれ久しぶりに地球の女子と話す。しかも外向的で見た目も悪くない、俺の最も苦手とするタイプだ。

「次の方どうぞー」と明るい声がかかり、俺はそのスタッフに自分の入国条件を説明しパスポートを渡した。惑星srijpの日本人地区で八年間暮らし、今後はずっと地球に住むことになるだろうと伝えると、そのスタッフが言った。

「ええと、青葉なおゆきさんですね。……地球のご家族のご希望により、ご帰国ということですねー」

職業に不相応な声と容姿、警戒心の欠片も無い笑顔。……この対応はせいぜい地方の市役所か売店並のレベルだろう。地球ではこんなに無防備で友好的な接客で働けてしまうのか。随分と平和になったものだ。パスポートをチェックしながら彼女は手元のキーボードで何やら検索を始め、長々とした文章を打ち込んでいる。胸元の名札を見ると、あざみ野ハルカ……とある。変わった名前だ。文字が三種類も混ざっている。

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