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『ディーバ』は世界をブルーに塗りつくす 共鳴を起こした「シネマ・デュ・ルック」

Real Sound

 ベッソンはセルフプロデュースしたデビュー作が証左しているように、初めからプロデューサー的な志向を持っていたといえる。このことからベッソンがハリウッドに向かったのは必然的なことのように思える。「シネマ・デュ・ルック」が定義するスタイル主義や、三者に共通する代表的な舞台装置「メトロ」を使って、ある意味このムーブメントをもっとも体現していたともいえる『サブウェイ』(1984年)。ベッソンにとってのパーソナルな作品といえる『グラン・ブルー』(1988年)。そして当時の恋人アンヌ・パリローを主演に迎えた『ニキータ』(1990年)で、ベッソンはフランス産ブロックバスター映画の胎芽をつかむ。この作品にフランスを代表する大俳優ジャンヌ・モローが出演していることは象徴的だ。『ニキータ』のヒロインによる二重生活や二面性のアイディアは、パリローが自分の人生を語りたがらなかったことへの疑問からインスピレーションを得たという。裏の顔と表の顔を持つヒロインによる活劇を撮ったベッソンは、現在に至るまでこのテーマから広がっていくバリエーションに取り憑かれているように見える。

■ディーバ・ブルー

 ウェス・アンダーソンは『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(2021年)のティモシー・シャラメが主演を務める第3部「宣言書の改訂」編で、「シネマ・デュ・ルック」にオマージュを捧げている。シャラメとリナ・クードリの二人乗りのバイクは、『汚れた血』におけるドニ・ラヴァンとジュリー・デルピーのバイク、そして『ディーバ』の郵便配達員ジュールが乗っていたバイクへのオマージュだ。シャラメとクードリのバイクは、「ディーバ・ブルー」の色彩を纏っていく。

 都市を漂流する疎外された青年が描かれた『ディーバ』は、この映画に登場する女性の表象においても、かなり特異な形で描かれているといえる。娼婦、ソプラノ歌手、探偵、そして盗癖のあるベトナム人の少女。メインとなる彼女たちは、あらかじめ用意された箱の中に決して納まらない女性たちだ。彼女たちは秩序の外で生活している。天井の高いアトリエのようなロフトをローラースケートを履いて滑っていく少女アルバの圧倒的な自由。モデルをしていること以外、アルバの素性は明かされることはないが、彼女はキャラクターなきキャラクターとして、この作品を象徴するオブジェのように佇んでいる。ベネックスの映画では、色彩に彩られた部屋の中でヒロインたちが自由な身振りを獲得していく。それにも関わらず、彼女たちは部屋という閉所的な空間に収まることを拒否していく。『ベティ・ブルー』のヒロインがコテージを燃やし尽くしたように。赤く燃え上がるコテージ。ベネックス映画のヒロインたちは色彩によって自由を獲得していく。

 1980年代のフランス映画に新たな息吹を吹き込んだ「シネマ・デュ・ルック」の傑作群には、色彩による身体の獲得、そして消失というテーマで偶然にも共鳴を起こしている。青すぎる海の底に身を沈めることを決意した『グラン・ブルー』のジャック・マイヨール。青すぎる空に羽ばたいていった『汚れた血』のジュリエット・ビノシュによる疾走。そして世界を青く塗りつくすことで、パリに生きる都市生活者の身体、彼らの現在地を獲得した『ディーバ』の不敵な挑戦。『ディーバ』は世界をブルーに塗りつくす。色彩に埋没しないルック=瞳の獲得。空の青さよりも青いあなたの瞳に少しでも近づくために。もっと青く! もっと青く! これらの作品からは、そんな心の叫びが聞こえてくるのだ。

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■参考
※『Les chantiers de la gloire』(ジャン=ジャック・ベネックス著)

(宮代大嗣)

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