岸井:はい、そうですね。
香取:やっぱり今回の役では、本音でしゃべっていないから。お芝居の中で、もっと本音でぶつかり合ったり、笑顔あふれる作品のほうが打ち解けるよね。
岸井:わかります、そうですよね。
香取:それでも、合間にちょっとしゃべれたりはしたけど。

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――付き合いたての頃と後のバトルシーンでは、全然雰囲気が違いますもんね。
岸井:初期の頃のふたりがビニール袋を追いかけるシーンがあるんですけれど、それは撮影が始まった最初のほうに撮影したんです。後半ではなく、初めの頃にそのシーンをやれたのは「こんなときもあった、今は違うけど」という役の土台になったので、演じるうえで支えになりました。香取さんと一緒に走り回れたのはすごく楽しかったです。
香取:楽しかった。でも、僕からすると、ちょっとつらかったかなあ。この楽しい時間の後に“あれ”が待っているんだ、みたいなのがあったから。最初の明るく楽しい時間はいいんだけど、その後、ああなっちゃうのが本当につらくて。役と僕自身とで言うと「僕だったらあんなふうにならない」というのがあるんですよね。僕は、もっと愛を持って生きていたい、みたいな人だから。ストーリーと同じように、撮影も「昨日あんな楽しいところを撮ったのに、今日はこんな(楽しくない)シーン撮っている」ということがいっぱいあったから、楽しかったけど、楽しいほど余計につらくもありました。

(C)2022 “犬も食わねどチャーリーは笑う”FILM PARTNERS
――楽しかったけれども苦しかったことは、ご自身のメンタルにも影響しますか?
香取:結構、影響すると思います。やっぱり、役によるんですよね。それこそ『西遊記』の孫悟空とか、(『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の)両さんのときは、全然こんな僕じゃなかったから。役のままで現場にいるので、きっと共演した人たちもみんな、作品によって違う印象を持っていると思います。
岸井:へえ!
香取:だから、すごく影響するんだと思います。
岸井:私は今回香取さんと「はじめまして」だったので、ほかの香取さんがわからないんですけど、見てみたいです! 違う役の香取さんを。
香取:しばらく(会わない期間が)空いたりすると、接し方がわからないときがある(笑)。
岸井:ああ、それはわかります。間が空いて再共演することになったとき、「あれ? そんな感じだったっけ!?」と言われることもありますし、逆パターンもあります。やっぱり、役によって影響は受けますよね。

撮影=早川里美
――ストーリーの中で「あるある」だと感じたエピソードはありましたか?
岸井:チャーリー(※夫婦が飼っているフクロウ)の世話をするのが妻というのは、「あるある」だと思いました。うちも小動物を飼っていたことがあって、そういえば父親は何もしなかったかも、みたいな(笑)。逆に魚を飼っているときは、母親は興味がなくて、父親がエサをあげていましたが。
香取:日和の仕事について、裕次郎が「そんなふうに思ってないけど、言っちゃった」みたいなシーンがありますよね。何かひとつ、少しでも相手を思ってあげられていたら、ああはならないのかなって。
――良かれと思っていったことが……みたいなところですよね。
香取:そう。良かれと思って、みたいな。だけど、もう1回言葉を組み立てて、よくよく読み取ると「ああ、その言い方はちょっと違ったかな」となる。けど、それって相手に対して少し強く言いたい、みたいなのがあるからこそ、言っちゃうのかもしれないんですよね。恋人も夫婦もちょっとずれてきているときは、お芝居で誇張しているわけじゃなく、実際にこんな感じになっちゃってるんじゃないかな、と思いました。端から見ればわかるけど、当人たちはわからないかもしれなくて……怖いなと思いましたね。

撮影=早川里美
――ところで、市井監督は『台風家族』で草彅剛さんともご一緒されています。草彅さんとお互いの出演作を観て話されることもあると聞いたのですが、本作についてもすでにお話しはされましたか?
香取:ああ!『犬も食わねどチャーリーは笑う』は、草彅ももう観てくれたみたいです……というのを、僕もTwitterか何かで見かけた(笑)。一緒にラジオとかもやって、会っているんですけど、感想についてはまだ直接話していないですね。
――そうでしたか。草彅さんの『サバカン SABAKAN』は、香取さんはご覧になっているんですよね?
香取:観ました! いや、めちゃくちゃよくて。昔はこんなようなことがいっぱいあったのにな、みたいな感じの映画でしたよね。草彅剛がいることによって、作品全体が引き締まるような印象も受けました。そういう俳優さんになったんだなと思って、観ていて少し誇らしさもありましたね。

撮影=早川里美
――本作で描かれている、「大事な人だから本音をぶつけるのが怖い、ぶつかりあえない」という思いは、あらゆる人が抱えている気持ちかもしれません。大事な人との向き合い方で心がけていること、もしくはアドバイスなどをお話いただけますか?
香取:もう、パートナーなんだから言いたいことを言って、思っていることを伝えたらいい、と僕は思うんですよね。「それができないんだよ」って言わないで(笑)。何でしょうね? それを言うことが、怖いんですかね?
――伝え方が難しいと感じるときはありますが。
香取:それはあるかもしれないですね。タイミングだったりとか。いっぺんに100個気になることを言われてもダメだし。でも、気を遣っているふりをして何も言わないで、ただ時間が過ぎてしまっているのは、寂しいかな。時間が解決するとも思っていないから。
――香取さんは普段の生活で、伝えるときに気をつけていることはありますか?

87A9193 撮影=早川里美
香取:僕は自分の意見を言うし、相手の意見も知りたいので、すごく聞きます。例えば、仕事場でも、発言できる人と発言できない人がいると思うんです。だから、そういう人(発言できない人)たちにも意見を聞くようにしています。そこから新しいものが生まれることも、実際にいっぱいありますから。
――具体的に、どう実践されているんですか?
香取:打ち合せをしていて、「これでおしまい」「よし!」となるんですけど、僕はそこで「ちょっと待って」と言うんです。打ち合わせの部屋には、壁のほうに立って聞いているスタッフもいたりするから、彼らに「君たちはどう思ってるの?」と聞きます。「いや、僕はいいと思います」「本当? じゃあ君は?」「いいと思います」「君はどう?」と、やりとりしていくと、「んー、いいと思います」なんて反応も返ってくる。「今の“んー”って何?」と聞くと、「いや、僕は……」みたいな意見も出てくるから、「お、それいいね!」となるんですよ。話を振ってあげないと、言えなかったりもするじゃないですか。そうして言ってくれた言葉が、その人の声もそうだし、「こんな才能があったんだ」と気づくきっかけにもなる。そうやってうまく回っていくことも、いっぱいあると思っています。

撮影=早川里美
――素敵な方法ですね。岸井さんは大事な人と向き合うとき、伝えたいことが出てきたときなど、どう工夫されていますか?
岸井:そうですね……日和みたいに、言いたいことをどこか別のところに吐き出す、書き出すようなことはしません。それで本当にストレス発散になるか、問題が解決して前に進めるならいいけれど。ちゃんと話し合っていないから、何も変わらないですよね。私は言いたいことがあったらなるべく相手に伝えたい、と思っているんですけど、言い方には気をつけていて。その言葉を探すのに、1週間悩んだりすることもあります。
――どうやって言おうか、試行錯誤されるんですね。
岸井:そうです。言いたい言葉をそのまま伝えると、エゴだと思われるかなとか、わがままに聴こえちゃうかな、と考えてしまいます。回りくどくてもまた伝わらないと思うので、「どんな言葉ならちゃんと伝わるだろう?」と、いつも考えて話すようにしていますね。

撮影=早川里美
取材・文=赤山恭子 写真=早川里美
『犬も食わねどチャーリーは笑う』は公開中。