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『グラン・ブルー』『レオン』『フィフス・エレメント』……リュック・ベッソン監督が歩んだ、波乱と驚きの人生

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 映画作家(またはプロデューサー)としてのリュック・ベッソンは、捉えどころがない。

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 代表作『グラン・ブルー』(1988年/フリーダイビングの世界記録を競う2人のダイバーを描いた作品)、『アトランティス』(1991年/世界各国の海、そこで生きる海洋生物を撮影したドキュメンタリー作品。日本語字幕は松任谷由実が担当)は海を愛しすぎた男のロマンが充満しているし、『ニキータ』(1990年)『レオン』(1994年)は、親や社会から見捨てられた少女が過酷な運命に立ち向かう姿をド派手に描き、アクション映画作家へと転身。その後もブルース・ウィリス主演のSF大作『フィフス・エレメント』(1997年)、フランスの守護聖人ジャンヌ・ダルクの生涯を描いた『ジャンヌ・ダルク』(1999年)と、作品ごとに作風を変え続けているのだ。プロデュースを手掛けた『TAXi』シリーズもそうだが、映像のテイストも映画によってまったく異なり、よく言えば多彩、悪く言えば一貫性がないわけだが、関わった作品の量と作風の幅広さは、とても一人の人間の仕事とは思えない。この驚くべきバイタリティと発想力の原点は何か? それを紐解いてくれるのが、『恐るべき子ども リュック・ベッソン『グラン・ブルー』までの物語』。リュック・ベッソンが自ら記した、幼少期から『グラン・ブルー』を公開するまで(0歳から29歳まで)の自伝だ。

 冒頭は自分のことではなく、父クロードと母ダニエルのエピソードから。ノルマンディ上陸作戦(1944年)の被害に遭い、一家離散、親戚に預けられ苦労を重ねた父、そして、アルコール依存症の母親(ベッソンの祖母)と重婚罪で刑務所に入っていた父親(ベッソンの祖父)の下で窮屈な幼少期を送った母ーーという出だしからすでにドラマティック。もちろんベッソンの生い立ちも波乱に満ちていた。“父が知り合いからもらってきたライオンと寝食を共にしていた”など、「本当なの? 話、盛ってない?」という驚愕のエピソードが次から次に繰り出される。

 転機になったのは、サーカス団やボディビルジムの経営など職を転々としていた父親が、スキューバダイビングやスキーの技術を活かし、リゾート施設の仕事に就いたこと。アドリア海に面した港町ポレッチ(クロアチア)、キクラデス諸島を代表するマンガナリ(ギリシャ)などに父親が赴任するたびベッソン少年もついていき、太陽と海、美しい街並みを体験した。リゾート地の描写にかなりページ数が割かれているが、読んでいるとどうしても『グラン・ブルー』を思い浮かべてしまう。1960年代前半のヨーロッパのリゾートが、映画作家としての原風景になっているのはまちがいないだろう。

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 一方でベッソンは、常に孤独を抱えた少年でもあった。ヨーロッパ中を転々としているため、友達はできず、親しみを覚えているのは海で出会った犬やイルカ。特に病弱だった母親への執着は強く、“母親から十分な愛を受けることができなかった”という思いは、この本の通奏低音になっている。『ニキータ』『レオン』から現時点での最新作『ANNA/アナ』(2019年)まで、“親の愛に恵まれなかった女性が、自らを解放するために死力を尽くす”というストーリーを繰り返し描いているのは、幼少期の孤独の影響なのかもしれない。

 まるで映画のように奇想天外なストーリーとリアルな描写を含め(映画ファンにとっては有名な18歳のときのダイビング事故も詳細に記されている)、“読ませる”という言葉がぴったりの本作『恐るべき子ども』。ベッソンが映画の世界を志したくだりもかなり個性的だ。ルイ・マル、ジャン=リュック・ゴダール、フランソワ・トリュフォー、エリック・ロメール、レオス・カラックスなど、フランスを代表する映画監督の多くは大学で映画を学んだり、専門誌の評論家として活動した後ーーつまり映画を研究し尽くしてからーー映画の制作に取り組むというキャリアを辿っているが、リュックは全く違う。初めて観た映画はディズニー映画『ジャングル・ブック』。本のなかには『二〇〇一年宇宙の旅』『スターウォーズ』の名前も出てくるが、それほどマニアックな映画ファンというわけでもないし、専門的な勉強をしたわけでもない。映画自体にハマったというより、「ぼくは自分を表現したい」(201p)という衝動、舞台美術や衣装、音楽や写真に興味があるのだから、「よし、これだ。映画作りの仕事なら、自分に合いそうだ」(202p)という直感だけで行動しはじめ、そのままパリの映画制作の現場に飛び込んでしまうのだ。後先を考えず、やりたいことに向かって一直線に突き進む。この突進力と自己実現力こそが、映画作家リュック・ベッソンの源泉なのだと思う。

 長編デビュー作『最後の戦い』、出世作『サブウェイ』、そして、世界的ヒットを記録した『グラン・ブルー』の撮影エピソード。ベッソンの映画に欠かせない名優ジャン・レノや音楽家エリック・セラとの出会いといった映画ファン垂涎の逸話もたっぷり。特に80年代前半におけるヌーベル・ヌーベルバーグ(同年代にデビューしたジャン=ジャック・ベネックス、レオス・カラックスとともに“恐るべき子どもたち”と呼ばれた)の雰囲気を知ることができるのはかなり貴重だ。リュック・ベッソンという稀代の映画人の半生を追体験できるだけではなく、映画史の理解を深める一助になる一冊と言えるだろう。

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