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突然死した写真館の社長の命日…残された3人が語る「思い出」

幻冬舎ゴールドライフオンライン

本記事は、阿部浩之氏の小説『マイ・スウィート・ロード』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。

エメコ

「内藤君って、ほんとに社長の器にピッタリやわ。決めるのも行動も早いから。あのときフランスから帰る決心できたのも、あの一言だったのよ。『トロワを潰すんか!』。そう叱ってくれなかったら、私はここにいないよ。嬉しかったわ」

山村小絵さえは以前より元気を取り戻した。尖った顎を上げる仕草も消えている。それが相手の不安をかき立てていたことに気づいた彼女。最近では柔和な顔つきになり、相手が話しやすい空気をつくっている。これも勅使河原てしがわら拓史が教えてくれたものだった。

内藤雄二ゆうじは小絵の話を引き取る。

「俺に社長の亡骸を引き取る役目が回ってくるなんてなあ。夜中に警察から携帯にかかってきて、俺どうしようかと思ったわ。泉佐野の警察署で事情聴取にたっぷり時間かかって参ったよ。保険会社も何言ってるんかチンプンカンプンでさ。真由子姉さんいなかったらお手上げだったよ。小絵ちゃん関空まで送って行ったのは知ってたけど、ほんまこの3ヵ月の間、俺はずっと有事即応体制、そんな感じやった」

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「さすがは元自衛隊員。疲れを見せないわね」

いつも話の輪の中心にいた中邑なかむら真由子は最近口数も少なくなっている。

「〈常在戦場〉なんて言葉を先輩から嫌というほど聞かされたしなあ。俺3ヵ月で辞めたけど」

彼の顔つきは、いまや自信に満ちている。30年前の希少車ダットサン・フェアレディも手に入れた。運気が満ちている。

「警察の調べが済んだと思ったら、『亡骸をお引き取りください』やからな。真由子さんと連れて帰ってきたら、今度は弁護士がやって来て、遺産相続特別管財人なんて名乗るし。知らんかったよな、そんな世界。社長の遺言書持って来るし」

「そう言えば社長の遺品のライカありがとう。私の宝物になったよ。『プロは写したフィルムを持ち帰るまで死んでも離すな』。いつもそう言ってたわね。社長は本物のプロだったね。私を写してくれた写真もあったよ。現像したら1枚だけ鮮明に写ってて。でも見ると辛いから仕舞ってあるよ。私の遺影に使ってね」

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