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「ダイアナ妃は高校のクールな先輩のよう」辛酸なめ子が『スペンサー ダイアナの決意』をレビュー!

MOVIE WALKER PRESS

衝撃的な自動車事故でダイアナ元皇太子妃が亡くなってからもう25年…。世界におけるダイアナ妃のカリスマ性や存在感はゆらぐことがありません。今もなお世界中で愛されていて、キャサリン妃やメーガンさんをはじめ、ヤングロイヤルたちにも大きな影響を与え続けています。教会のステンドグラスにダイアナ妃の幽霊が映り込んだニュースが出たり、イギリス人は今も心のどこかでダイアナ妃の姿を追い求めているようです。ダイアナ妃の悲劇の要因である、チャールズ新国王やカミラ妃の支持率も未だに低いまま。

そして、ダイアナ妃をテーマにした映画やドラマも次々と制作されています。これまでの作品は、ダイアナ妃の顔にできる限り寄せようとしたり、伝記として描いたり、悲劇的な人生にフィーチャーしていましたが、今回の『スペンサー ダイアナの決意』は、今までにないダイアナ妃の映画だと感じました。絵画のような美しい映像で、彼女の心の核の部分も描かれています。ダイアナ妃の孤独が見る人の心に伝わってくるだけでなく、彼女の魅力や愛される理由も理解できる作品です。原題は「スペンサー」。もし日本のプリンセスで、と考えたら、旧姓がタイトルになっているのもセンセーショナルです。彼女のルーツを表す名字。もしかしたら婚家になじめなかったことを象徴しているのでしょうか…。

■冒頭からアウトローな雰囲気のダイアナ妃

舞台は1991年のクリスマス。今は亡きエリザベス女王の私邸、サンドリンガム宮殿でロイヤルファミリーの集まりが催されます。ダイアナも、ゴージャスだけれど格式張ったパーティーに呼ばれました。未だにおさまらないチャールズ皇太子とカミラ夫人の不倫の話題で、世間から同情と好奇のまなざしで見られていたダイアナですが、自然に囲まれた宮殿も心安らげる場ではありませんでした。ろうそくの光に彩られた華やかなクリスマスの影で、苦悩するダイアナ。そして彼女はある決心を胸に抱く…というストーリーです。

近年でも毎年クリスマスの時期になると、エリザベス女王のクリスマスパーティーは開催されるのか、誰が呼ばれるのかなど話題になったりしていました。豪奢だけれど寒々しいお城で、さぞ緊張感が漂う集いなのだろうと思って見ていましたが…この作品にはベールに包まれたクリスマスの饗宴が細部に至るまで描かれています。王室ゴシップ好きとしても見逃せません。唯一うらやましいポイントとしては、料理がとにかく豪勢でした。

冒頭、ダイアナがポルシェを飛ばしてノーフォーク州にあるサンドリンガム宮殿に向かうシーンからはじまります。「道に迷ってるの、ここはどこかしら? 町の名前もわからなくて」と、通りがかったお店の人に聞いたりして、混乱している様子。行きたくない、という思いが根底にあるので、遅れてしまっているようです。王室メンバーを待たせるとは、庶民としては信じられないですが、クリステン・スチュワート演じるダイアナはどこかアンニュイな表情。「行くのダルいな…」という心の声が聞こえてきそうです。今までの悲劇的なダイアナの映画と違うのは、ダイアナの内に秘めた強さと反抗心がにじみ出ていることでしょうか。うるさい先生に叱られてウザかったとか、厳格な学校をサボりたいとか思ったことがある人は、クリステン版の不良っぽいダイアナに共感できそうです。こんなCOOLなダイアナを観たのははじめて、と冒頭から引き込まれます。「私はルールブックには従いません。私は頭脳ではなく心に従うから」という、後年のダイアナの名言もよぎります。

とはいえ、王室にも長年の格式と伝統があり、何もかも逃れることは難しいようです。まず驚いたのが、宮殿でいきなり体重を測られる謎の風習。エドワード7世の時代にはじまったしきたりで、ディナーの前と後に体重を測ることで、出席者がきちんと食事しているかを確かめるそうです。1キロは太っていることを求められるとか。摂食障害に悩んでいたダイアナにとっては過酷な風習です。

■おとぎ話の先に見えてくる現実

ダイアナがお城に到着すると、さっそく寒がっている息子。広大な宮殿はやはり寒さが厳しいようです。しかも、幽霊まで出るという…。ダイアナの部屋には「アン・ブーリン」の本が置かれていました。アン・ブーリンはスペンサー家の遠縁で、宮廷の侍女からヘンリー8世の妻になったけれど男児ができなかったため、罪を着せられて処刑された悲劇の女性です。16世紀の話ですが、よほど無念だったのか、未だに城をさまよっていて、ダイアナも目撃。しかしダイアナは彼女からメッセージを受け取ったり、怖がりながらも共感を持っている様子。ヘンリー8世に虐げられたアン・ブーリンに自らを重ね合わせていたのかもしれません。妻を次々と殺した極悪なヘンリー8世に比べて、チャールズはまだましというか、小物ですが…。チャールズがダイアナに、愛人のカミラと同じネックレスを贈っていた、というショッキングな事実も明かされます。

そんなチャールズよりも注目を集め、世界中で大人気だったダイアナですが、王室のクリスマスパーティーでは徹底的にアウェイで孤独でした。幽霊と会話するだけでなく、同じノーフォーク州の実家の庭でカカシとして使われていた、ボロボロの父のジャケットを見つけて、宮殿に持ち込みます。時々カカシに語りかけたりしているシーンには、おもわず心配させられます。衣装係のマギーに心を許し、彼女の姿がなくなると不安にかられたり、寒いお城の中で孤独に震えているダイアナ。唯一、息子たちとの時間が心の癒しでした。ウィリアムとヘンリーと、ごっこ遊びするシーンでは、ダイアナのユーモアセンスが垣間見えます。

そんなダイアナを、王室のスタッフたちは静かに優しく見守ります。料理番とフレンドリーに会話したり、スタッフからは「ダイアナへ あなたは皆に愛されている」という手紙を受け取ったり、心温まる交流が。危ういながらも、巨大権力に立ち向かおうとするダイアナの姿に共鳴したり憧れている人は多かったのでしょう。

憧れといえば、彼女のファッションも個性的で素敵です。生まれもってのスタイルの良さで、スタジャンからドレス、原色コーディネイトまでなんでも着こなすダイアナ。ファッションアイコンでもある彼女のポテンシャルが感じられます。他の王室メンバーが古臭く見えてきて、やはり英国王室一イケてる女性だったのだと再確認。クリステン・スチュワートのダイアナは、ヘアメイクを再現していて角度的に時々似ているというのと、英国王室のアクセントで話しているという役作りの努力も見えますが、何よりクリステンの持つCOOLさが際立っています。ディナーでは途中で退席したり、バスルームにこもったり、ドレス姿でひとりで踊ったりして、心の苦悩を表現していますが、かわいそう、気の毒、という思いよりも、かっこいい、という感想がこみ上げます。王室の古い価値観に抵抗し、カリスマ性を漂わせるダイアナは、高校のCOOLな先輩のようで憧れずにはいられません。

王室に嫁ぐというのは、一見、おとぎ話のハッピーエンドのようですが、この映画はさらにその先の、ダークファンタジーのような世界を見せてくれます。幽霊も出てきてときどきホラー調ですが、映像が美しいので引き込まれます。奇妙で悪夢のような世界から脱却することを心に決めたダイアナ。過去のエネルギーが沈殿する薄暗いお城から、息子たちを連れて、明るい未来に向かう姿が輝いて見えました。人生を変えたいけれどなかなかその勇気が出ない時に観ると、ダイアナのパワーが後押ししてくれそうな作品です。

文/辛酸なめ子

 
   

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