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立花もも 今月のおすすめ新刊小説 社会問題をテーマにした読み応え十分の作品を厳選

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 昨今発売された新刊小説の中から、ライターの立花ももがおすすめの作品を紹介する本企画。上級国民、知的障碍者、児童福祉など社会問題をテーマにした注目作品を集めています。(編集部)

まさきとしか『レッドクローバー』

 人はいつどこで、どんな理由で恨みを買って殺されるか、わからない。逆恨みどころか、明確な落ち度がなくても、ただその人がその人であるというだけで、殺されてしまうかもしれない。本作は、不遇な環境とエゴイスティックな人間感情がおりかさなって、悲劇が連鎖していく、正直言って後味はあまりよろしくない物語。だが、そこが、おもしろい。

 五月の大型連休に起きた「豊洲バーベキュー事件」。ヒ素の混入した飲み物を口にした男女三名が死亡、四人が中毒となり病院に搬送されたその事件は、12年前のある事件連想させた。北海道の、人口約1万5千人の町で起きた、ヒ素による一家殺害。容疑者は、唯一の生き残りである15歳の長女。同一犯か、と世間がわきたつのに反して、逮捕されたのはバーベキューを主催した無職の34歳・男だったが、逮捕後も「ざまあみろって思っています」と反省の色を見せない彼は、レッドクローバー事件と呼ばれた北海道のそれに何らかの形で関わっているのではないかと、記者の勝木剛は調査を始めるのだが……。

 豊洲で殺されたのは、いわゆる〝上級国民〟と呼ばれる人たちだった。レッドクローバー事件もまた、閉鎖的な町に据え置かれた〝下級〟の人 々――町の秩序を守るためにあらかじめ蔑まれる役割を担わされた人々がきっかけで起きたということが、読み進めていくうちにわかる。なぜ自分だけが、という理不尽が、奮起するためでなく誰かを貶めのしあがるための原動力として使われたとき、人は一線を越えてしまう。その姿は、最後までつかめない事件の真相とあわせて、読み応え十分。だがしかし、くりかえして言うが、後味はよろしくないので、読むタイミングにはご注意を。

五十嵐 大『エフィラは泳ぎだせない』

 こちらも後味があまりよくはない――というよりは、私たちが現実でも向き合うべき矛盾や欺瞞に、読み終えたあとも向き合わざるを得なくなってしまうミステリー。

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 同棲する恋人の妊娠を喜ばしく思いながらも、結婚には及び腰になっている25歳のフリーライター・衛のもとに、不幸の報せが舞い込んでくる。長らく会っていなかった兄・聡が自殺したというのだ。しかし聡は、軽度ではあるものの、知的障碍者。そもそも自殺しようなんて思い立つことがあったのか。発見された遺書の文章に違和感を覚えた衛は、兄は殺されたのではないかと疑い、しばし地元にとどまり、真相を探ることに決める。

 息子の障碍を受け入れきれず、できるだけ〝普通の子〟として育てようとした父。子を持てず満たしきれなかった欲望を、聡を世話することで満たしてきた伯母。聡への同情を恋慕に置き換え、公正に接するふりをしてきた幼なじみ。明かされていくそれぞれの胸の内の吐露は身勝手で、決して褒められたものではなく、衛は憤りとやるせない思いを重ねていくことになる。だが、衛とて例外ではないのだ。

 兄を世話するために生まれた彼は、やがて兄を嘲笑する側にまわるようになり、心優しい弟という役割を放棄して逃げ出した。それぞれが少しずつ、聡を追い詰めていたのだ。――だがそれは、責められるようなことなのだろうか。彼らは決して〝悪〟ではない。それぞれに、そうするしかなかった、という道を歩んで今にたどりついている。その過程や想いに共感する自分を発見したとき、大きな後ろめたさが襲い掛かってくる。なぜなら、紆余曲折にどうにか生き延びてきた彼らにすら置いていかれてしまうのが、聡のような存在だからだ。

 欺瞞でも同情でも、正しいやり方ではなかったとしても、誰かが差し伸べてくれる手をとることで、聡は社会に立つことができていた。けれど勘違いしてはならないのは、だからといって衛たちが聡を〝救った〟わけではないということだ。人が人を救うことなんて、できない。できるのはただ、手助けをすることだけ。聡に限らず、社会に生きる人たちはみな、自分の不足をどうにか他人に補ってもらいながら、自分の足で立って、生きている。その尊厳を、障碍者だからといって、聡から奪う権利は誰にもない。自分は誰かを救えると思いあがってしまったとき、人はその誰かの個性を殺してしまうのではないかと思う。

 聡はなぜ死んだのか――。その真相がわかったからといって、物語は解決しない。本作をきっかけに読者の一人ひとりが考え続けることが、いつか解決できる日を導けるのかもしれない。

古谷田奈月『フィールダー』

 福祉について考えざるを得ない小説をもうひとつ。本作は、児童福祉の専門家が十歳の女の子に性的接触を行ったかもしれない、という疑惑を中心に語られる小説。担当編集者の橘は、同じ出版社で週刊誌編集部につとめる同期からその疑惑を追及されるかたわら、当事者である専門家、黒岩文子から告白のような長文のメールを受け取る。

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