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嵯峨景子の『今月の一冊』|第五回は『十二国記 30周年記念ガイドブック』|ハイ・ファンタジーの世界を追体験する一冊

ホンシェルジュ

少女小説研究の第一人者である嵯峨景子先生に、その月に読んだ印象的な一冊を紹介していただく『今月の一冊』。第五回となる今回は新潮社様から2022年8月25日に発売された『十二国記 30周年記念ガイドブック』です。記念イラストに、萩尾望都・藤崎竜・芥見下々・羽海野チカ・清原紘・いとうのいぢ・遠田志帆・THORES柴本・千景の9名を迎え、非常に力の入った一冊となっています。

「嵯峨景子の今月の一冊」、第5回目。今月は8月25日に発売された『十二国記30周年記念ガイドブック』(新潮社)を取り上げます。本書は名前の通り、小野不由美による大人気ファンタジー小説『十二国記』を様々な視点から辿った初のガイドブックです。発売前から話題が沸騰し、瞬く間に14万部を突破(2022年9月時点)するなど大変な売れ行きを見せています。 

著者新潮社 出版日

私も発売を心待ちにしていた一人で、刊行直後に入手しました。『十二国記』への熱い想いが伝わってくるガイドブックは、シリーズの魅力を余すところなく伝える充実した内容に仕上がっていて、ファンとしても感無量。それに加えて、私が関心を持つ少女小説というジャンルについて、本書収録の編集者インタビューが与えてくれた示唆も大きな収穫となりました。

小野不由美、そして十二国記について

ガイドブックの読みどころに触れる前に、作者や『十二国記』シリーズについて簡単にご紹介しましょう。小野不由美は1988年、講談社X文庫ティーンズハートから『バースデイ・イブは眠れない』でデビュー。翌年からスタートした『悪霊』シリーズで人気を博し、これが出世作となります。

1991年には、新潮文庫内のレーベル「ファンタジー・ノベルス」から『魔性の子』を刊行。本作は現代日本を舞台にしたモダンホラーの秀作であると同時に、『十二国記』のエピソード0に位置づけられる物語でもありました。のちに『十二国記』がスタートし、戴国を舞台にした『風の海 迷宮の岸』が刊行されると、『魔性の子』がこのエピソードを日本側から描いたものであったことが判明して多くの人を驚かせました。ちなみに私が初めて読んだ『十二国記』シリーズもこの『魔性の子』です。

そして1992年、講談社X文庫ホワイトハートから『十二国記』シリーズの第1作となる『月の影 影の海』が発売。シリーズは多数の読者を魅了し、2002年からNHKでテレビアニメも始まりました。のちには講談社文庫でも展開されるなど、少女小説の枠を超えた広がりを見せていきます。その後、『十二国記』は講談社から新潮社に移籍し、完全版の刊行がスタート。2019年には18年ぶりの新作『白銀の墟 玄の月』が発売され、お祭り騒ぎを巻き起こしました。翌2020年、小野不由美は『十二国記』シリーズで第5回吉川英治文庫賞を受賞します。累計1280万部を突破した『十二国記』は小野不由美の代表作であり、シリーズは30周年を迎えてますますの盛り上がりをみせているのです。

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物語の舞台は、十二の国が花文様のように並ぶ異世界。各国には天意を受けた霊獣・麒麟によって選ばれた王が一人ずつ置かれ、王を補佐する麒麟とともにその国を統治するという独特の政治体制によって治められています。『十二国記』では、この「麒麟と王」をめぐる関係性がシリーズを貫く重要なモチーフとなっていて、さまざまな国を舞台に政変や内乱、そして王の交代などが描かれていきます。また十二国と我々の棲む世界は、蝕と呼ばれる嵐のような現象によって繋がっています。十二国で生まれるはずが蓬莱(日本)の母体に宿った胎果や、故国から引き離されて十二国に流れついた海客など、二つの世界の境界線を越えてしまった人々の苦難にも光が当てられていくのです。

インタビューから浮かび上がる、少女小説を取り巻く状況

前置きが長くなりましたが、『十二国記30周年記念ガイドブック』の内容に話を進めていきましょう。本書の目玉の一つが、特別収録された幻の外伝「漂舶」です。1997年に発売されたCDブック『東の海神 西の滄海』のブックレット用として書き下ろされた短編が、25年を経て初めて書籍収録されるというのは、『十二国記』ファンにとって嬉しいニュースでした。

ガイドブックには他にも、小野不由美のロングインタビューや、編集者など本づくりに関わる人たちのインタビュー、著名人による特別エッセイやクリエイターたちによる美麗なイラスト、そして『十二国記』の世界を紹介するさまざまなコンテンツが収録されています。『十二国記』を愛する人たちの熱いが詰まった極上のガイドブックであり、この作品に関わり続けてきた人たちの証言や裏話を収録した貴重な資料ともいえるでしょう。

私は本づくりの伴走者である編集者の仕事に関心があるので、とりわけ『魔性の子』を世に送り出した新潮社の担当編集者・大森望と、ティーンズハート時代から小野不由美作品を手掛けてきた『十二国記』の担当編集者・鈴木真弓インタビューを面白く読みました。中でも鈴木氏の言葉からは、当時の少女小説を取り巻く状況が浮かび上がり、いろいろと考えさせられました。

シリーズ1作目の『月の影 影の海』は、日本で暮らす女子高生の中嶋陽子が十二国という異界に引きずり込まれ、苦難に満ちた旅の末に景王となる物語です。見知らぬ世界で一人きりになった陽子は、度重なる妖魔の攻撃や人々の裏切りに傷つきながらも旅を続けていきます。前半の救いのない展開に心が折れそうになる読者のために、「ネズミが出るまで頑張って!」という言葉もあるほどで、絶望の淵に立たされながらもなんとか生きようとする陽子の姿は苛烈の一言です。

編集者の鈴木氏は、当時のジュニア小説は読みやすさを求める傾向があり、ホワイトハート編集部内でも読者がついてこられないという意見が多く、過酷な試練が続く前半をもう少しテンポよく展開できないかと相談したと証言しています。それに対する作者の返答と、その言葉を受けた編集者の覚悟がなんとも感動的でした。具体的な内容は、ぜひガイドブックで確かめてください(この話はp.95や、p.110~111に登場します)。当時のジュニア小説に一石を投じることになった作品にまつわる、とても興味深いエピソードです。

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