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「今回はお前だけでも間に合うて良かった」母の死を前に思い出す祖母の顔

幻冬舎ゴールドライフオンライン

「命」「寿命」「病」について問いかける珠玉の一冊。 ※本記事は、黒谷丈巳氏の小説『生命譚』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。

「じゃあ父さん、夕べからずっと病院におるんか。それやったらあんまり寝ちょらんのやろ。俺が着いたんやけん、いっぺん家に帰って寝たらどうや」

七十六歳の修治は、疲れた顔で、それでもしっかりと純平を見つめて答えた。

「大丈夫や。昨日は看護師さんがこの部屋に簡易ベッド持ってきてくれたけん、ちゃんと寝た。お前にもはっきり言うちょくが、母さん、もう覚悟しちょったほうがいいかも知れん状態やそうや。そげな時に、家にやら帰っちゃおれんわい」

「……もうそんな具合なんか。どうする? 姉貴から、状態知らせてくれち言われちょるんやけど」

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「お義兄さん、まさちゃんにも帰るように言うたほうがいいんと違うやろうか」

修治が右手を伸ばし、淑子の頬にそっと触れた。

「ドイツは遠(とお)いけんのう。生きちょるうちに会わせてやりてえけど、母さんが目を覚ますかどうかもわからんけん、あんまり早うに知らせてものう……」

「もう目を覚まさんでこんままかも知れんのやな。それやったら、やっぱ姉貴に帰っちくるように言おう。間に合わんかったらしょうがねえし、母さんが生きちょるうちに会えるんやったら、それに越したことはないやろ」

「うん、純ちゃん、それがいい。そうしてあげちょくれ」

純平はスマホを取り出し、姉に向けてメールを送るべく、キー操作を始めた。おそらく姉貴は、もう航空券の手配をしてはいるだろう。それでも大分に着くのは早くて明後日ってことか。

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