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“原作もの”の名匠・三木孝浩 『セカコイ』『TANG タング』『アキラとあきら』での手腕

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『アキラとあきら』©︎2022「アキラとあきら」製作委員会

 “原作もの”を手がける名匠・三木孝浩監督の最新作が3本も立て続けに封切られ、全国で公開中だ。『今夜、世界からこの恋が消えても』『TANG タング』『アキラとあきら』ーー2週間おきに公開された作品はどれも毛色が異なり、改めて三木監督の職人的な手腕の鮮やかさに驚いている映画ファンも多いのではないだろうか。

【予告動画あり】『セカコイ』『TANG タング』『アキラとあきら』

 2022年に公開された3作品は、原作のタイプも描かれている物語のジャンルもまったく異なる。『今夜、世界からこの恋が消えても』(以下、『セカコイ』)がいわゆるライトノベルを原作とした“ラブストーリー”なのに対し、『TANG タング』はイギリスの小説を原作とした“ファンタジー”で、『アキラとあきら』は池井戸潤による小説が原作の“経済・エンターテインメント”。ひじょうにバラエティに富んでいる。ちなみに、『セカコイ』はティーンエイジャーが中心の物語で、『TANG タング』は人生につまづいた大人が主人公、『アキラとあきら』は仕事に情熱を注ぐ二人の若者が主人公である。ここまで振れ幅が大きいと劇場に足を運ぶ客層も変わってきそうだが、肌感としてはそうでもない。いずれの映画も射程範囲の広い、純粋なエンターテインメント作品に仕上がっているからだろう。

 『セカコイ』は10代が主人公のお話だが、ただキラキラした恋愛を描いているだけではない。物語のベースには“前向性健忘症(夜に眠るとその日の出来事をすべて忘れてしまう)”を患うヒロインの存在があり、ティーンならではのありきたりな恋愛話に収まっておらず、一番の要であるこの点こそが丹念に描かれている。『TANG タング』は人間とロボットの友情物語だが、たとえば動物などの種が異なる存在と友情関係を築いたことがある方ならば、意外にもすんなりと設定を受け入れられるだろう。“人間とロボット”という特殊な関係性よりも、もっと普遍的な友情関係を描くことに注力しているように思う。そして『アキラとあきら』は経済をテーマにしているために小難しく感じてしまう向きもあるかもしれないが、それ以上にスクリーンに広がっているのは、一つのことに真剣に対峙する者たちのその熱情。スポーツを観ている感覚に近いものがある。

 “職人監督”とも称される三木監督は、当然ながら一人で映画を作っているわけではない。それぞれの作品に相応しいスタッフ・キャストが集められ、チームが組まれている。これを監督として率いることのできる高い柔軟性が各作品に反映されているのだろうし、この高い柔軟性があるからこそ、彼はジャンルに囚われない作品づくりができるのだろう。たとえば『セカコイ』は、同作と近しい系統の『君の膵臓をたべたい』(2017年)や『君は月夜に光り輝く』(2019年)を手がけてきた月川翔監督と、恋愛映画の『ホリミヤ』と『明け方の若者たち』が2021年に公開された松本花奈監督が共同で脚本を担当している大きな強みがあるし、『アキラとあきら』で主演の一人を務める竹内涼真は『下町ロケット』と『陸王』という池井戸潤の“原作もの”に出演した経験があり、もう一人の主演である横浜流星は『きみの瞳が問いかけている』(2020年)でも三木監督とタッグを組んでいる。これらも作品の強みに直結しているはずである。

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 さて、今回はいずれも「小説」が原作だが、三木監督の手にかかれば原作となるフォーマットは何でもござれだ。ロックバンド・Galileo Galileiの同名曲をモチーフとした『管制塔』(2011年)、アンジェラ・アキによる国民的ソング「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」を元にした小説の映画化作品『くちびるに歌を』(2015年)。『きみの瞳が問いかけている』は、韓国発のノワール調のラブストーリーである『ただ君だけ』(2011年)をリメイクしたもので、『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』(2021年)はロバート・A・ハインラインによる伝説的なSF小説の舞台を日本に移し、見事に映画作品へと昇華させた。そのフィルモグラフィーを振り返れば、「あの映画も三木監督の作品だったんだ!」となることも多いのではないかと思う。

 とはいえ、実写映画の“原作もの”に対する不安の声は尽きない。これだけ多彩なキャリアを築いてきた三木監督でさえも、『坂道のアポロン』(2018年)の映画化の報が出た際には懸念する声が溢れたものだった。しかしいざフタを開けてみると、そこにはアニメーションではなし得ない“青春音楽映画”があった。生身の人間の細やかな表情が生み出す情感は、実写作品ならではだ。また、いくつもの若い俳優の才能や新たな一面を発見してきたことも、三木監督の功績として語るべきものがあるだろう。2022年のこの3本の夏映画で、三木監督の手腕を堪能していただきたい。

(折田侑駿)

 
   

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