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【小説】日本語教師の女性がブエノスアイレスの警察署でうんざり…そのワケは?

幻冬舎ゴールドライフオンライン

「あなたが生まれた国をこの目で見たい」異国の地アルゼンチンでの体験一つ一つが、彼との思い出を裏づける―― ポジティブな生き方への第一歩を描いた小説。※本記事は、貝谷京子氏の書籍『ポジティボ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。

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ブエノスアイレス・パレルモ地区の警察署(ポリシア)の盗難被害報告書申請窓口に座らされてから、もうかれこれ二時間近くになろうとしている。

あまりにもだらだらとした時間が過ぎていき、ここでどれほどの時間を過ごしてきたのかも忘れてしまいそうだった。ただ、同じことを何度も繰り返し尋ねられていることだけは、理解できる。これまでに三人の女性に入れ替わり立ち替わり住所、氏名、滞在日数、盗られたものなどを質問された。

彼女たちはブラウン管のモニターをにらみつけながら、パソコンのキーボードをひたすら叩く。ブラウン管の黒い画面には白い文字がチラチラと浮かんでいる。このパソコンはいつからここで働いているのだろう。パソコンもこの人たちも無駄に時間を使うことを楽しんでいるようにも見える。まさに十年一日のごとく、同じ質問を繰り返すことが仕事だと信じているのかもしれない。

彼女たちが頭の中で考えていることを想像してみる。

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「どうせぼんやりしてたんでしょ」「日本人観光客にありがちなことだわ」「ここはアルゼンチンなんだから、日本とは違うのよ」「こんなことで時間を取られたくないもんだわ」

最後の言葉は日本人的だ。この人たちはきっとそんなこと考えないだろう。通訳をしてくれているトモコさんは、川が流れるように淡々と過ぎていく時間を一向に頓着する気配もなく、リズムをとるように体を揺らして、携帯電話に目をやったり、隣に座ったおばさんと世間話をしたり、窓口の向こう側でキーボードを叩く白衣をまとった担当者を眺めもしている。

ため息をついてはキーボードを叩き続ける担当者は、大きな碧い目で黒いモニター画面をにらみつけている。ウェーブがかかった金色の髪と、濃い口紅の色が、目に突き刺さる。私は大きく深呼吸した。吐いた息がため息のようになって漏れた。

「この人たち、私たちの言ってること、わかってるのかしら」

日本語が口をついて出る。

「それって、私のカスティジャーノが彼らに通じていないってことを暗に示しているわけ?」

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