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【小説】付き合って9か月。恋人と幸せに過ごしていたが…

幻冬舎ゴールドライフオンライン

それなりに幸せだった日々を手放し、心から望む人生を歩んでいく。簡単なようでとても難しく、時には誰かを傷つけてしまうこともあるけれど――。人を愛する喜びと尊さを描いた恋愛小説。※本記事は、范優生氏の小説『エンゲージ・リング』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。

第一章

入院した喘息患者の状態が上向きになったのを確認して、十九時過ぎに職場を出た。すっかり日は沈み、真っ黒な海を月明かりが照らしている。ロングTシャツにトレーナー一枚だと、結構寒い。早く体温を上げなくてはと、クロスバイクにまたがる。

帰路とは若干外れるが、メイン道路を海沿いに五分ほど走り、内陸側へ坂道を少し上がったところに朋子先生の自宅がある。途中のスーパーに寄ってから、向かった。到着した頃には、ちょうどよく体が温まった。

事前に連絡していたので、門をくぐり玄関脇のインターホンを押すと、すぐに応対してくれた。朋子先生はスッピンでエプロンをつけたまま、つっかけを履きながら出てきた。娘の看病が大変だったのか、学生時代から変わらないショートの黒髪が心なしかいつもより乱れている。

「真希! わざわざ、ありがと。今日、忙しかったでしょ。ごめんね」

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勢いよく出てきた彼女からは、みりんだか出汁だか、和食のいい匂いが漂ってきて、空腹だった私は食欲をそそられた。

「そうですよぉ。ご褒美、くださいな」

そう言って両手を差し出した。

「ったく。調子に乗るな」

彼女は私の頭に優しくゲンコツする。被っていたキャップが前にずれて、視界が狭まった。

「いてっ。冗談、冗談。なんとかなったから、気にしないで。裕ちゃんは、どう?」

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